No.3-6
その時、月は頂点にあった。私達は二人ベッドの上で、お互いの顔を見合っていた。
「これで終わりです」
彼女はそう言った。私は小さく頷いた。
その言葉には暗示があった。彼女の見据える先、それは決して遠くなく、寧ろすぐ近くに存在する。私達兵士には馴染み深いものだ。
「フランさん」
「……どうしたんだ」
「私、兵士としてはまるで駄目でしたから、拳銃をどう取り扱えばいいのか。よく分かってないんです」
一拍おいて、彼女は言った。
「次はもう、外したくないですから」
私は彼女の意図を汲み取った。机にある拳銃を手に取り、安全装置をかけたまま、私は彼女に教授する。
「みんなよく、頭に向かって撃てばいいものだと思い込んでいる。だが、本当は違う」
私は手に持った拳銃の銃身を見た。
「銃を撃つ時の衝撃で弾丸が逸れてしまうこともあるし、脳の基幹部分を撃ち抜けなければ死に損なってしまう」
彼女は黙って、私の講義を聞き続ける。そんな時の様子でさえ、かつて見た彼女の様子とまるで同じだった。
「一番確実なのは……こうだ」
私は銃身を咥えこんで見せた。そしてそれをすぐに抜き去った。
「これならまず間違いなく、一発で終わる。頭を撃つよりも覚悟がいるが、確実だ」
何の感慨も、何の躊躇もなく、私は彼女に教えたのだ。拳銃でもっとも確実に、自分の命を断つ方法を。なんて虚しいのだろう。何故感情が伴わないのだろう。
彼女は何も言わず、静かに笑みを浮かべた。私はその表情を、生涯忘れることが出来ないだろう。
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