No.3 ミオ・アズマ、フラン・モンタギュー
No.3-1
「お前ら人造人間ってのは、元は愛玩動物だったんだってなあ」
道なき道を走る装甲輸送車の中で、生え際が撤退戦に突入しつつあるその男は、下卑た表情でそう言った。私の顔も見ずに、まるで宙に向けているかのように話し続ける。
「お前も言えば咥えるのか? うん?」
私は、足元に置いていた自動小銃をその手に構え、スコープ越しに男の顔を見た。その顔は引きつっていた。
「おいおい、勘弁してくれよ。こんな場所で命取られちゃたまんねえよ。頼むから、その銃をおろしてくれ」
私は構えを解いて、何も言わずにただ男の顔を見る。
「冗談が通じねえ奴だな。軍の男ってのは女日照りなんだから、これぐらい軽くいなせなきゃやってけねえぜ。そうは思わねえか?」
「余計なお世話だ」
「へえ。そうかいそうかい」
そう言って男はそっぽを向いた。その様子はまるでふてくされた犬のようだった。
この男は私を後方へと運ぶ案内人だ。初対面から今に至るまで、こんなような話しかしてこない。しかし、先程の言い様に腹が立ったのは事実だが、実際のところ彼の言っていることそのものは間違っていない。最前線で戦う私達兵士は皆、男性向けのクローン人間を元にして作られている。例えその実態が似ても似つかぬグロテスクな兵器であったとしても、出処は同じだし、変えることも出来ない。
最前線は地獄だ。頭を潰されなければ死ぬこともままならない女の兵士達が腕を失い、脚を失いながら戦い続ける。上層部の天上人たちは、私達クローン兵士を軍事糧食と消毒液と包帯、後は武器さえ宛てがえばそのままずっと戦い続けることのできるものだと思っているのだろう。
私は戦った。戦い続けた。私が知っている者の殆どは死に絶え、私だけが生き残った。そしてそれはただ他の兵士達より多少運が良かったというだけに過ぎない。私が兵士となってから、戦争が終わるまでの間、敵の弾が偶然私の頭に当たらなかっただけだ。
これから私は、後方へ送られ下士官としての教育を受ける。後方に居る自称戦争のプロから教えを受けて、次の戦争に備えるのだ。
「……くだらない」
今、最前線で戦っているのは私達だ。私達クローン兵士だ。そして後方のずっと奥に引き篭もって戦争をしていると言い張っているのが彼らだ。一体彼らから何を学べと言うのだろうか?
「何か言ったか?」
男はそう言って私を見た。男の目は私の顔ではなく、胸や太ももへ向かう。何処までいっても最低な男だ。
「何も」
そう答えると男は黙り込んだ。装甲輸送車はガタガタと音を立てて、荒野の中をひた走っている。
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