No.2-5

 次の日。ナージャは居なくなった。牢の外は慌ただしくなり、車の行き来する音が聞こえる。けれど、牢の中には何の変化も起きていなかった。変化が起きたのは、その次の日だった。

 その日、牢には私を嬲る人々が来ることはなく、例の老兵士と複数の兵士があの処刑の日と同じように私を縛り、外へと連れ出した。その状況には明らかなデジャブを感じた。私が連れて行かれるその先で、きっと誰かが殺されるのだろうと私は考えた。

 老兵士に連れられた先では、失踪したナージャと、あの日私達に暴力を奮った少年兵の二人が目隠しをされ、縄で木に括り付けられていた。二人に対して、複数の兵士が自動小銃の銃口を彼らに向けていた。その絵図から、私は全てを察した。

 彼らは逃げようとしたのだ。かつて憎み合っていた兵士同士で逃げ出し、人間の住む世界に脱出しようと目論んだのだ。

 老兵士は言った。

「逃げる。ああなる」

 そうか。これは見せしめなのか。私が、そして兵士である彼らが希望を見出さないように、粗雑に仕組まれた悪趣味な悲劇だ。

 老兵士は叫んだ。それは恐らく、処刑執行のカウントダウンであろうと思われた。安全装置が外され、兵士たちは射撃態勢に入る。

 少年兵は叫んだ。

「ナージャ!」

 それは確かに、彼女の名前だった。彼らの神の名でもなければ、彼らの言葉でさえない。彼女の名前だった。

 銃声は無慈悲に鳴り響いた。二人の身体を銃弾が引き裂く。血液が霧のように宙に舞う。兵士は私達の身体が頭を潰さない限りすぐに息絶えることがないのを知っている。ナージャは念入りに頭を潰された。二人の頭からはみ出た脳漿の色は同じだった。

 そうして再度、私は牢に戻された。兵士たちは数が減った分、念入りに私を嬲った。男達は口々に神の名を、戦友の名を叫びながら、肉を貪り続けた。

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