ソルジャーズ・レビュー

文乃綴

プロローグ

序章

 一つの大きな木が立っているところを想像してみて欲しい。

 青々とした葉が茂り、枝の上に小鳥が巣を作る。樹液を啜りに虫が集い、季節になれば葉が黄色く染まり、その葉を落とし、やがてその葉が腐り、新たな生命を育む源となって、沢山の生き物を支えていく。しかし、その木が巨大であればある程、太陽の光を遮る陰もまた大きくなる。その木が強く、太くなっていく程、その根は深く地面に潜り込んでいき、根の先はどんどんと土中の深淵へと沈んでいく。


 それは企業も変わらない。その存在は大きくなればなる程巨大な利益を生み出し、沢山の人間を養い得る。しかし、その大きさと比例するように闇もまた深まり、暗闇の中にあるその根に巣を張る者も現れるのだ。


 ここはとある大企業に存在する、そんな根の先の一つだ。ある意味では年輪とも言えるかもしれない。何十と存在する支社ビルのうち、もっとも辺境に位置する建物の中のさらに隅。薄暗く、湿ったい大部屋。『製品資料室』と言うのが正式な名前だが、その資料の性質から、一部の社員の間からはソルジャーズ・レビューと呼ばれている。


 俺は社内での権力闘争に敗れ、今はこのソルジャーズ・レビューの管理を任されている。ただ、任されているとは言っても、既にこれらの資料はサーバー上でデータ管理されているし、サーバーの保守も運営も、別の部署によって統括されている。言ってしまえば、典型的な閑職だ。やりがいどころの話ではなく、やる意味すら本来はない。


 しかし、そんな仕事でも面白みはある。ここにある膨大な数の資料には、決して表沙汰にすることは出来ない様々な事実が記されている。我が社の製品の一つである兵士の出生地、その嗜好、性格……そしてその死に至るまで、全てがそこに書かれていた。俺はその資料を一つずつゆっくりと読み漁り、『彼女たち』の心とその死に思いを馳せるのだ。何、時間はいくらでもある。これだけの数があればきっと、俺が退職するまで暇を持て余すことはないだろうから。

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