3-エピローグ

 トマソンとレナとの激闘が、まさに繰り広げられている間のこと。


「……逃げなきゃ!」

 アルカディアは当然、この激闘を逃走の契機と見なした。

 歩き出す。先ほどまではいやいや連行されていた階下へ、外へ、今度は自分の足で。

 よたよたとした歩みではあった。しかし一歩一歩、前へ。

 門扉は蒼血啜りの計らいか、開かれていた。陽光が差し込んでいる。

 あの蒼血啜りのことだ、おおかた私を太陽の下に放り出して、のたうち回るのを眺めてワインの一献でも傾けるつもりだったのだろう。性格の悪いことだ。

 アルカディアは躊躇する。

 たぶん、やけどを負うのは間違いない。

 それでもここで死ぬよりはマシだ。逃げなくては。

 逃げなくては。

 逃げなくては。 

 逃げなくては。

 意を決して、アルカディアは差し込む日の光に足を踏み入れる。するとこれまで触れたことのない柔らかな熱が、体中を包み込む。

 これが陽光の熱だというのなら、大したことは無いじゃないか。前庭に出たアルカディアはそう思って、前に進もうとした。

 その時だった。


「あのう……」


 唐突に、声を掛けられた。

 まだ声変わりを経ていない、純粋な高い声。


「あ、あなたは……いったい」


 そこにいたのは、アルカディアは知るよしもない人物だが、アーリアンその人だった。

 アルカディアに目を奪われ、その頬は紅潮していた。

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