懺悔

lampsprout

懺悔

 私は家に着くと、重い扉に静かに鍵を差し込んだ。ガチャン、と音を立てて鍵が回る。そのまま押し開けて、部屋の中に入った。いつになく気が滅入っていた。

 外では月が冴えざえと光を放っている。透き通った空気に照らされながら、気分はさらに沈んでいく。こういう時普通は、例えば雨がしとしと降っていたりするんだろうな、など思いながら荷物を放る。

 こんな夜にこんな気分だなんて、不釣り合いだろうか。でも、どうやら私にとっては、今夜は懺悔日和なようだった。



****



 今日は同窓会だった。私は打ちのめされていた。泣きそうなくらい冷たいベッドに指を滑らせる。久々に会った友人たちは、皆耀いていた。

 私は貴方たちに遠く及ばない。相応しくない。視点が足りない。今までに学ぶべき全てのことから逃げてしまった。何も足りていない。充たしていない。逃げるべきではなかった。もう取り返しのつかない後悔が吹き荒れる。

 言われなくても分かってるんだよ、自己評価が間違ってることは。自分の能力も把握してる。それなりに評価されてるんだろうとは分かってるんだ。ただ受け入れられない。身体が受け付けない。納得いかない。だってこんな不完全なやつ評価する価値ないじゃないか。なら否定するしかないじゃないか。



****



 聲にならないままに闇に溶けていく。涙ばかりが溢れ落ちる。泣く資格なんて持ち合わせていないのに。嗚呼、嫌だ。厭だ。いやだ。間違いを理解しながら、認識しながら治せない自分も、大好きな貴方たちにこんなことを思ってしまう自分も。ごめんなさい。

 いつもなら日記に書き殴るようなことが、脳内に溢れかえる。今日は駄目だった。浮かんでは消えていく慟哭が、涙と共に表れる。静寂の中に、私の泣き声だけが微かに響く。それにさえも罪悪感を感じてしまう。

 親しくする楽しさも、関わる嬉しさも、気遣いという錘に相殺されて。考えすぎて断ち切りたくなる。ごめんなさい。貴方たちを騙し続けている。本当はそんな私じゃない。私なんて存在しない。虚が在るだけだ。罪悪感に身を抉られる。生きていくには仮象からは逃れられない。毎日要らぬ謝罪をして思いもしないことを言って。在りもしないものに縛られる。

 月の周りに少し雲がかかって、美しい虹彩が見える。いつものっぺりとして見える空に、底知れない奥行きが感じられる。形容できない畏怖が身体を包む。

 このまま消えてしまえたら、どんなに楽だろうか。月と共に、夜明と共に、融けてしまえたら。



****



 愛する貴方たちへ。私の周りの全ての物事へ。心尽くしの懺悔を。

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