第50話 更衣室での本音

涼葉「(更衣室で着替えようとしたその時、一瞬――背筋に凍てつくような寒さが走った。……急いでプールに戻ると、大きな蛇が穂香を捕まえ、そして蠢いていた。鈴木が必死で穂香を助けようと立ち向かうが……。全く歯が立っていない。次第に穂香は体力を消耗し気を失った。)」……あれは明彩の妖魔なのか?」


明彩「なんで私なの!? あんな化け物知らないわよ!」


涼葉「蛇帯(じゃたい)。嫉妬から生まれる妖怪。明彩は穂香に嫉妬してた。」


明彩「だから私じゃないって…………。」


涼葉「明彩の妖魔は物体に生命を与え、操る能力。ウォータースライダーが蛇帯になった。この現状で、もっとも疑うべきは……。」


明彩「あぁあもう! うっさいわね。(これじゃ私があの妹に嫉妬してたことを認めるようなものじゃない。ばっかみたい!)」


涼葉「素直が一番。」


明彩「ふん!」


涼葉「怒らないから。」


明彩「……本当?」


涼葉「うん。」


明彩「……じゃ言うけど、あれは私の嫉妬から生まれてる。だってあのバカ――あっちの世界で私と付き合ってたこと覚えてないんだよ! しかも、戦争で私を助けようとして死んだことも! 何も覚えてない! 本当のバカ・・・。人間界でこうして会えたのに・・・。少しは私のこと、見て欲しかった。だから、下着プレゼントしたりしてたのに・・・。(なんでだろ。涙が出てくる。)」


涼葉「なでなで。正直でよろしい。」


明彩「(涼葉に抱き寄せられて、涙が止まらない。)」


鈴木「ぎゃああーーーこの蛇、牙まで出てきたぞ!」


明彩「うっさいわね! このバカ!」


鈴木「早く助けろっ!」


涼葉「そうしてあげて。」


明彩「(……そんなこと言われても、こっちの世界に来てから妖魔を操ろうとしても、逆に憑かれたり、ほとんど能力を使えていない。)あんた1人でなんとかしなさい! 出来るでしょ!?」


鈴木「出来るって何が? こんなのどうすりゃいいんだよ! うおおおこの蛇、毒まで吐くのか! 聞いてねぇぞ。」


涼葉「鈴木、逃げ足だけは早くなった。」


鈴木「関心してる場合じゃないだろ! 穂香はな、明彩と涼葉さんと、これから一緒に遊べると思って喜んでたんだ。なのに、これじゃ一緒に遊べなくなるじゃねぇか! なんだよこの蛇!」


明彩「……今、なんて言った?」


鈴木「だから! 穂香のやつは、お前達と友達になりたいんだよ! 不器用だから、素直じゃねえけど。本当は仲良くなりたかったんだよ――。特に明彩のことは、気に入ってた様子だったぞ。それにしても、この蛇はなんで俺ばっか狙って攻撃してくるんだ! ――おおお、噛みつかれるところだったあああ!」


明彩「なによ……それ。」


涼葉「(明彩を見ると、目をつぶり、祈りを捧げるように両手を重ねていた。――妖魔の渦が増していくのが見える。こっちの世界に来てからは、確かに妖魔をうまく操れていなかった。だけど、明彩の妖魔は、すごい。それは、私が一番よく知っている。明彩は物体に生命を与え、操るだけでなく、自分の中の意思に生命を与える。つまり私を分離させたのだ。まだ、明彩自身その能力を操るどころかはっきりと認識さえしていない。でも、それを操れるようになった時の明彩を見たい。)」


鈴木「っあれ! おい蛇が……。どんどんウォータースライダーに戻っていくぞ。なんだこれ!」


明彩「あんたのためじゃないんだから! 穂香ちゃんのためなんだから!」


鈴木「今のお前がやったのか? それってどんな能力だよ? 俺にも使えんのか?」


明彩「あんたなんか、100年がんばっても無理に決まってんでしょ! ってか、近づいてくんな!」


鈴木「俺さ、妖魔とかイマイチ分かってなくて。でもよ、」


明彩「(手を握られて、ドキッとした。なに・・・? じっと目が合う。)」


鈴木「ありがとな。」

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