第44話 河童の力

鈴木「俺が――転生者……。」


蘆屋「教えておくよ。妖怪の世界は人間が考えているような生ぬるい世界じゃない。強いものだけが生き残る恐ろしい世界だ。弱ければ、当然死ぬ。生き残るには、強くなる必要がある。人間界から妖怪が消えたのは、妖怪たちにとって人間界が住みづらくなったからだと、人間は考えているが、それは全く違う。妖怪たちは自らあっちの世界に移りすんだ。妖怪たちは人間を好きな時に好きなだけ自由に食うために、あっちの世界にいる。という説もある。もう昔のことすぎて、確かなことは……。だが時々、君のように転生してくるものがいるのは何故だろう。それは、人間界に憧れてなのか……、新しい使命を持ってなのか……。その答えを僕は知りたい。」


鈴木「……何言ってんだ…………。」


蘆屋「妖怪は、今もこの人間界に現れる。理由はさまざまだが、飢えた妖怪がこっちにくるってこともある。そんな時、妖怪から身を守るのが、君の使命だとしたら? もしくは、迷いこんでしまった妖怪を、妖怪世界に戻すのが使命だとしたら?」


鈴木「言葉が出なかった。妖怪とか使命とか、俺には関係ない。普通に平和に生きたい。それを望んでいる。」


蘆屋「もちろん、スズキ君がどういう人生を歩むかは君次第。ただね、明彩さんと涼葉さんには、君の力が必要だ。彼女たちは、妖魔を操れるが、やはり女の子だ。なによりも、君は特別な存在。妖怪の世界で河童の国を900年も守り続けたのだから。その真の力は僕にもわからない。見てみたい。君の力を。――この世界を守る力を持ちながら、転生者でありながら、それでも平穏に暮らしたいというなら、僕は止めはしない。」


鈴木「ぬめぬめとした体液を垂らしながら、河童が、一歩一歩近づいてくる。」


蘆屋「その河童は君を、欲している……。いいや、君はその河童の力を欲している――。」


鈴木「蘆屋の言葉が聞こえた瞬間、河童が飛びかかってきた。腹に蹴りが入り、壁まで飛ばされた。これは、正気の沙汰じゃない。真っ直ぐに河童が向かってくる。体は鱗で守られていて、鉄のような防御服に身を包んでいるような感覚だ。俺のパンチなんかじゃ……。」


バッシ――ン!


鈴木「イッテエェ。強烈な拳が顔面に入った。血が吹き出る。間髪開けずに、殴りかかってくる。顔面に何発かくらって……。河童は俺の息の根をとめるように、力強くふりかぶった。――不思議なことに、目が慣れてきいる。河童が繰り出すパンチの軌道が手に取るように、見える。なんだこれは……。次は左、次は右。そのまま、蹴りがくる。俺の体は、いつの間にか、すべての攻撃を瞬時にかわしていた――。」


蘆屋「さすがは、河童の王と呼ばれた男だな――。」

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