桜花一片に願いを~鵺の翼・外伝―Sonic barrier―

大月クマ

1997年10月14日、アメリカ合衆国・音速突破50周年記念式典

 チャールズ・エルウッド・イェーガーの名前は、航空機を知る人にとって、知らない人はいないだろう。


 彼、通称チャックが、50年前のこの日、水平飛行による音速の壁を突破することに成功した事はあまりにも有名だ。


 そして、50年後のこの日、それを記念する式典が開かれていた。

 そのメインイベントは、74歳になったチャック・イェーガー空軍准将が自ら操縦桿を握り、再現をしようというものだ。

 機体はF-15D制空戦闘機。再び、愛妻の名前を付けた〝グラマラス・グレニスⅢ〟

 その機体の離陸を、ある日本人夫妻が見つめていた。

 この式典に呼ばれたゲストのひとりだ。御亭主のほうは背広を着ており、一見すると日本人とは判らない。ただ奥方のほうは、着物に身を包んでいるので、それで判断できる。


「――やはり勝てませんでしたね……」


 微笑みジャパニーズスマイルを浮かべつつ、物静かに口ずさんだ彼であったが、片手はグッと握りしめていた。


「旦那様は、立派に勤めを果たされましたよ」


 そんな夫の固まった手に、奥方はそっと手を添えた。

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