岬に佇む守り神
寺空 章
第1話
――ああ? 岬の像? 守り神だって言い伝えだ。それ以外? 俺は知らねぇな。
――守り神? ああ、崖に立ってるデカい奴な。オレの爺さんの爺さんがガキだった頃にはもうあったらしいぜ? 俺の畑を守ってくれたりはしなかったけどな! クッソ……
――守り神ねぇ。正直、若干気味が悪いと思う。とっても大きいし。……そういえば、大昔にすんごく偉い学者サマとかが来て調べたらしいけど、何で出来てるか全然分かんなかったんだって。……やっぱり怖いわ。
――守り神……岬の神様かい? ふむ……気が遠くなる程の昔に――ああ、神話の時代と言えばいいかな? その頃に岬の神様は現れたらしい。そして、人々を災禍より守ってくれたんだそうだ。まぁ、私も長く生きたけど、何かをしてくれたのは見たことないがね。
遥か昔、人はとても豊かで繁栄していた、らしい。
天を衝く程に高くそびえる塔を幾重にも連ね、馬も牛も、もちろんロバも要らない、人の意のままに動いてくれる馬車に乗り、世界の裏側まで一瞬で声を届ける事が出来た、らしい。
夢みたいな話だ。今の我々には全く以て想像の埒外だから。
その時代の証人とも言える巨大な像。
守り神様、岬の神様、デカいの、呼び方は色々。
顔が見えない程、天高く聳える黒い巨人。
僕は子供の頃、その神話の時代に思いを馳せ、日々それを想って生きていた気がする。
そして、守り神と呼ばれる巨人が僕たちを、僕たちの街を、僕たちの世界を守ってくれると思っていた。でも、その考えもいつの間にか消え去っていた。
初めは、街で起こった強盗事件。
ふらりと訪れた浮浪者にある店が襲われ、金を取られて、命も取られた。
浮浪者は逃げて隠れて、何日も家を、人を、店を襲い、最後は衛兵に斬られた。
人の起こす事には関わらないんだなと思った。
次は、叔父の村へ遊びに行ったとき。
森から狼の群れが現れて村を襲った。
獣の唸り、人の叫び、鈍い打突、家の中でガタガタと震えていたのを覚えている。
村の男たちの働きによって、撃退する事が出来た。
だが、男の多くが傷付き、少しが斃れ、畑は荒れ果て、家畜は血に沈んでいた。
――災いなのに、辛い事なのに。
次は、大嵐、洪水だった。
街の近くの河が溢れ、街が冠水した。
河沿いの区画は土地を削られ、ついには崩落して河に呑まれた。
街が滅茶苦茶になった。家を失った人がいる、死んだ人がいる、でも何も起きなかった。天災を防ぐとも、人を助けるとも、ただ立っていた。
そして、岬が無くなった。雨で崩れた。像は海に沈んだ。
そんな事があって、15になる頃には岬の事も、巨人の事もすべて忘れていた。
今、この瞬間までは。
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