第4話

 食事に誘ってから、LINEは毎日続いた。ときには深夜二時あたりまでずっとやり取りしていた。しかも内容は本当に大したことのない、職場の誰々が何々に似ているとか、そんなものだ。

 私達は堰を切ったように連絡し合った。クリスマスの日も他愛のない話をしながら、彼が一人で過ごしているのを確認した。年末の休暇に入っても、私が送ると返事はすぐに来た。ただ、寝落ちして送れていなかった返信が翌朝に届くとき以外、彼から話題を振られなかった。

 段々と、悶々と悩むようになった。阿門は一体どういうつもりなのだろう。これは、先輩と後輩の関係なのか。仲が良ければ、年の差があってもこういうのは当たり前なのかもしれない。返信は早い。いつもほぼ必ず返してくれる。だけどそれは、先輩だから返しているだけではないか。

 三が日明けすぐは割と閑散期と呼ばれる職種だ。その日、阿門は有給を消化していた。菅原さんに、「どう? 阿門くんから食事に誘われた?」と給湯室で聞かれた。

「え、誘われてません」

「変ねー。この前の帰りに、今度はあなたから誘いなさいよって発破をかけておいたのに」

 職場は関東の中でもかなり郊外にあり、おおらかな土地だ。菅原さんは私と彼の仲を純粋に考えて、心配しているようだった。ただ、あくまで私達は先輩と後輩だ。

「そういうつもりはないのでしょうね」

 なんて流していると、

「うーん、やっぱり彼からは行かないか」菅原さんは何か言いたげな様子だ。

「やっぱり?」

「いやね、色々彼に聞いてみたのよ。そしたら、今まで付き合ったりしたことがないんだって」

 語尾を伸ばした口調で言う。私は菅原さんほど驚かなかった。確かに見た目は好みだが、そもそもその好みが真面目過ぎて他人とあまり被らない。

「それにね」と菅原さんは続ける。

「女の子を好きになったの、小学校のころが最後だって」

「え」

 これには私も声を出してしまった。つまり彼は、恋愛経験がほとんどないらしい。

「あたしもう、なんだか阿門くんがうちの息子に被って見えちゃってさ。だから、大目に見てあげなよ」

 菅原さんが大きく笑った声は給湯室の向こうまで漏れてしまいそうだ。確か菅原さんの息子は小学校の低学年だったはず。

「そもそも、あなたも物好きよねえ。阿門くんっていい人止まりじゃない? 愛想も良いけど、これといって特徴のない顔だし。かわいいんだけど、何考えているんだか全然分からなくて、ちょっと怖いわ」

「そうですね」で留める。物好きなのは理解しているが、どうしてこんな流れになっているのかもうよく分からなかった。

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