最弱NPCでも戦えますか?

あざね

オープニング

プロローグ どこにでもある結末






 ――どこにでもある風景。

 ――どこにでもある笑顔。


 俺はただ、そんな当たり前を守ろうとした。

 それだけのはずなのに。どうして、こうなってしまったのだろうか。

 手に持った剣は半ばでへし折れ、ちらりと覗きこむと腹には大穴があいていた。血が止めどなく溢れ出していて、もはや痛みなどもなくなっている。


「…………あぁ」


 乾いた息が漏れた。

 きっと、こんなのはどこにでもある、そんな結末なのだ。

 力のない者は剣を手にしても弱く。いかな努力を積み重ねようとも越えられぬ壁があって、一部の特例、それこそ神から恩恵を受けた勇者のような。そんな特別な人種でない限りは、運命なんて変えられない。そんなこと、生まれ落ちた時から理解していたはずなのに……。


「雨、だ……」


 空が泣いていた。

 一面を黒の雲で塗り潰して、赤ん坊のように愚図り始めた。

 まるでそれは、いまこの世界で起きていることを憂いているかのように。だがしかし、それは決して俺一人の結末に涙しているわけではない。


 神なんて、いない。

 俺が信じている神なんて、存在しない。

 信ずれば救われるか――それは、どう足掻いても否だ。


 世界は特別な者にのみ、優遇されたものだ。

 俺のような掃いて捨てるほどいる、埃のような存在は無価値に等しい。

 現にこのようにして、俺のような弱者は駒の一つとして使い潰されるのだった。そんな結末は分かっていた。自分があまりにも無力で仕方のない存在だって。


 俺はただ一人。

 数多に存在するうちの一人。


「………………」


 勇者でなければ、魔王でもない。

 特別な役割を与えられた存在ではなく、ただ牧歌的に暮らせと、生み出された命。そう――『NPC』というのは、どこまでいっても不憫な存在だった。


 だけど、それが当たり前のことで……。


「なに、が……!」


 ――なにが、当たり前のこと、だ!

 ふざけるな。こんな終わり方が決定付けられているなんて、間違っている。

 その時になって、俺の中には一つの怒りが生まれた。誰が決められた運命なんて認めるものか、と。次があるならば、俺は決して諦めない。

 俺はいつか、こんなふざけた世界の理を、ぶち壊してやる――と。


「がはっ、ごふ……!?」


 そう思ったから、俺は血に塗れた身体を無理矢理に起こした。

 そして、眼前に迫っていた終わりに立ち向かう。

 なんてことない、数体のウルフだ。


「くるなら、きやがれぇ……っ!」


 しゃがれた声で、そう叫ぶ。

 灰色をした狼は一直線にこちらへ躍りかかり、喰らいついてきた。力で薙ぎ払おうにも、力の差は一目瞭然。しかも、多勢に無勢だ。

 またもや地面に組み倒された俺を、ウルフたちが食む。


「ああっぁぁっぁ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁっ!?」


 食いちぎられる。

 腕を、脚を、そして臓物を。

 無慈悲に、そいつらは俺のことを食料として扱った。悲鳴を上げることしかできなくなった俺は、のた打ち回りながら、涙なのか雨なのか、それも分からなくなったもので顔を汚す。ただただ鮮烈に覚えているのは、血の気を失っていく感覚。


 視界が暗転し、痛みによって明転し。

 それを何度も繰り返した。


 そして、それも永遠に続くかと思われた時――。



「あぁ、終わった……」




 俺にとって、クソったれな生涯は終わりを迎えた。



 

 ――そう、思っていた。



 

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