華宮家に生まれたからには

植物うどん

プロローグという名の前置き

“能力”

 それは、華宮一族に生まれた子供が、12歳になると授かる超能力のようなもので、テレパシーや瞬間移動と言ったありきたりなものと、ひとりひとり違った特別なものが存在する(もちろん部外者には秘密である)。

 華宮一族の繁栄に陰ながら役立ったとされる“能力”

 これは、そんな華宮一族の末裔の5人のきょうだい・華宮学院生徒会が、地球の危機を救ったかもしれない物語。



「新入生の皆さん。ご入学おめでとうございます。今日から皆さんも、この華宮学院の生徒です。我が校の生徒…仲間として、互いに助け合い、協力し合っていきましょう!」

 壇上に立つ生徒会長…華宮春樹はなみやはるきがそう言って微笑むと、新入生たちからわあっ…と歓声が上がる。


 この物語の舞台、私立華宮学院は国内でも有数のエスカレーター式名門校で、入試の倍率は10倍とも言われており、幼稚舎から大学院までひとつの敷地に入っている。

 そんなこの学院で上級生を含めた全校生徒、更には教員よりも権力を持つとされているのが、生徒会だ。

 生徒会メンバーは学院の創設者の一族の子供たちから構成されており、生徒たちからの人気も高い(まあ好まない生徒も一部いるが)。

 特に生徒会長の春樹は、抜群のルックスとカリスマ性を持ち、最近はモデルとしても活動しているため、女子生徒から凄まじい人気を誇っている。

 …のだが。



「あー、王子様キャラ演じるってほんと疲れるな…」

 生徒会室に入った途端、さっきは爽やかに新入生への歓迎の言葉を述べていた生徒会長と同一人物とはとても思えない台詞を放つ。


「兄ちゃんはほんと、その性格を隠してれば最高なのにねー」

「ねー」

 そう言ったのは、春樹の妹で中学二年生、双子の姉で書記担当の千里せんりと、双子の妹で会計担当の百花ももかだ。


「うるせえ!ったく、俺の苦労も知らないで…」

 生徒会室の椅子にふんぞり返る春樹。千里と百花に言わせるところの「いつもの兄ちゃん」だ。

「まあまあ、お兄様も千ちゃんと百ちゃんも落ち着いて…」

 そう言って3人を宥めるのは、春樹のもう一人の妹で千里と百花からは姉にあたる高校一年生の副会長、万莉まりだった。

 穏やかで生真面目な性格の万莉は、こうして春樹たちを抑えることがしばしばある。

「そうだよ、新入生にこの会話聞かれてたら、どうするの…」

 万莉の後ろで小さくそう言ったのは、末っ子の中学一年生、“副会長補佐”の公樹こうき

 引っ込み思案な彼は、だいたい万莉の後ろに隠れている。


「…まあ、微笑んでおいたし大丈夫だろ。」

 そう言って春樹は棚からスナック菓子を取り出し、皿に盛る。

「あれっ珍しいね、自分からお菓子出すなんて」

「俺が食べたいから出したんだ。特別にお前らも食べていいことにするけどな」

「素直じゃないなあ」

「素直じゃないねえ」

 生徒会の5人全員…もとい5人のきょうだいが、皿に盛られたスナック菓子を食べ始める。



「にしても、あんな人数を相手にしても笑顔を向けるだけで俺たちに従うようになるとか、チョロいもんだなあ」

「いつも思うけど、兄ちゃんの“能力”だけチートすぎない?」

「長男とはいえ、チートすぎると思うー」


 春樹に授けられた“能力”は、「相手に笑顔を向けると自分に従うようになる(ただし能力を持つ者には無効)」というもの。

 彼の生徒からの人気やモデルとしての人気は、ルックスもそうだがこの能力の効果が大きい。


「千里なんて兄ちゃんと同じことしても、相手の動きを止められるだけだよー?」

 千里の“能力”は、「相手に笑顔を向けると1分間、相手の動きを止められる(能力者には無効)」というものだ。千里はこの能力を用いたイタズラを得意としている。


「百花は自分の能力に満足してるよぉ。食べたいものがすぐ出てくるの、超便利だし〜」

 百花の“能力”は、「念じた食べ物を出せる(味変も可能)」というもの。食いしん坊な百花はこの能力に満足しているようだが、能動的な千里には体に毒だの太るだの言われている。


「僕は…自分にも効果があればいいのになっていつも思う…」

 公樹の“能力”は、「顔を合わせた相手の緊張を解く」というもの。これに関しては能力者にも有効で、兄と姉たちは大きなテストの前なんかは公樹と話していることも多い。

 ただ、本人が言うようにこの能力は相手の緊張を解くだけで、自分には効果がない。引っ込み思案な公樹はそのことをいつも嘆いている。


「私は…いいことを忘れないでいられるから幸せ、かな」

 万莉の“能力”は、いわゆる瞬間記憶や写真記憶と呼ばれるもので、見たものを瞬時に正確に記憶でき、念写もできるというもの。

「そんなことで幸せになれたら苦労しないよなー」

 スナック菓子を食べながら春樹が呟く。

「うふふ、私はそれでいいの」

 万莉は微笑んだ。



愉快な新年度が始まる。

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