ED.1 ドラマチック左右(1)

  僕は夕暮れ時の学園通りを無意識に歩く。

 だいぶ弱った薄羽蜻蛉うすばかげろうが緑色の線を空中にえがいて、綺麗だと感じた。


 どこか魔が差して、いつもの道を外れて砂利の敷かれた細道にそれる。その細道の左側にはとても小さな公園がある。

 公園と言っても、そこには塗装のされていない木のベンチが一つ。バネで揺れる馬の様な遊具が二つ、あるだけの狭い囲まれた敷地が在るだけだった。

 丁度その公園の手前でくつかいして足裏に柔らかさを感じた。


ズシャ


 決して聴き慣れたくない、聴き慣れた鈍い音が耳を潤す。

 途端に僕は意識的になって、足元を見るよりも先に辺りを見渡した。

 ここは人気の少ない細道ではあるものの、民家に囲まれていた。それでも幸い、時間的に人の気配は無かった。

 僕は胸を撫で下し、ため息をく。そうして、ようやく安心しきった目線を足元へと移した。

 何かと思えば猫だ、尻尾は長くない。

 なんて人騒がせな奴なんだ。人が態々わざわざ歩く為に砂利を敷いていた道の真ん中で昼寝でもしていたのだろうか。踏み殺してしまって言うのもなんだが腹立たしいことこの上ない。

 とはいえ、ここにこのまま放置して行く気にはどうしてもなれなかった。

 だが、だからと言ってこんな物を持って帰っても仕方がないしなどと考えながら、ふと左側の公園に目をやり思いつく。

 背負っていた学校指定のかばんから興味のないプリントを何枚か取り出し、重ねて目の前に落とした。

 猫を踏んだ方の右足をそのプリントに擦り付ける様にして、体を公園へと向けた。さらに、鞄からさやに収まった山刀マチェットを取り出す。

 この山刀は刀身がシャベルの様な曲線状になっており、これで猫を公園に埋めてあげようと考えた。


 猫の首に山刀を引っ掛けて持ち上げる。

 山刀の刃は、左側が波刃になっているので頸髄けいずいを砕き、ずれ落ちることはない。

 項垂うなだれた猫は赤くて、意外と重いと感じた。

 右足に何枚かプリントがこびり付いているが、気にせず公園に入った。

 公園の砂は乾燥しており、雑草が短く茂っていた。

 辺りを見渡して、猫を埋めるのに適当な場所を探した。

 何となく、塗装のされていないベンチの左側に埋めてやることにした。猫一匹が丸々埋まる穴とは案外深く、幅が必要なのだと思えた。

 まだ日は落ちきってはおらず、山刀の刃が僕の顔を目掛けて光を返す。

 まるで小学生の頃に戻ったような気分になった、と言っても一、二年前ではなくもっとずっと昔に。

 

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