第68話
「それなりに腕に自信があるようだが、残念だったな。私には女神様がついていてくださっている」
上着を脱ぎ捨てた彼の肉体は、司祭とは思えないほどに巨大な筋肉を身に纏っていた。
「はんッ、司祭様はお気楽で良いこった」
「そういうことではない」
「ぁん? っと!」
司祭という役割こそ、数ある役割の中でも女神様に最も愛されている。そう考えている司祭は少なくない。
だからこそ、鼻で笑った彼女の言葉をカルロスは一蹴する。
彼の言葉に疑問を感じきる前に、彼女は左へと跳ねる。
「行くぞ!」
二人の間にあった間を、飛び出す弾丸の如き速さで詰めた彼の巨大な拳がさきほどまでアドラが立っていた場所に振り下ろされる。
不意打ちに近いその攻撃を完全に避けきったアドラは、お返しとばかりに無防備な彼の脇腹に一発ぶち込もうと拳を握り、
「がッ!?」
突如発生した爆風に床の上を転がることになってしまった。
転がる勢いを利用して、すぐさま立ち上がり距離を取る。拳が振り下ろされた場所を見れば、ただ殴られたのではなく、なにかが爆発したかのような跡が残っている。
「けッ、随分ご機嫌な魔法具だな、おい」
アドラとカルロスに体重の差はあれど、彼女が簡単に吹き飛ぶ爆風を一緒に受けたはずの彼にはなにも変わった様子は見られない。
そんな馬鹿な真似が出来るということは、とアドラは彼の身体を見渡し、そして当たりを付ける。
彼が両の手にそれぞれ一つずつ身につけている悪趣味とも言うべき大きな金色の指輪に。
「拳の勢いに比例した威力の爆発を巻き起こす。単純、だからこそ強い」
「言ってろ」
カルロスの自慢を吐き捨てた彼女であったが、内心は焦っていた。彼が強いことは噂では聞いたことはあったが、予想以上に速さがある。
それでもまだ彼女の方は速さでは上だとみるが、それを指輪が邪魔をする。殴る度に爆風を起こされては体勢は崩される、直撃すれば被害が甚大で、なにより殴り合いが出来なくなった。
彼の言う通り単純だからこそ面倒くさい相手を、素手で行わなければいけない状況に零したくなる溜息を飲み込んで彼女は拳を握る。
そして、カルロスに背を向けて走り出した。
「なッ!?」
「山賊がァ! いつでもまともに戦うとォ! 思うな、ボケェエエ!!」
ありったけの力を込めて彼女は中央にそびえる装置へと握りしめた拳を振り下すために。
※※※
「待、待つんだレオくん!!」
「はッ! はッ……! はっ!」
「……きもち、わるい…………」
走り出してしまったレオを、クリスティアンは追いかける。
杖の明かりで周囲を照らしているクリスティアンとは異なり、その前を走るレオの視界は暗く走れたものではないにも拘わらず、彼は全力で廊下を走っていく。
モニカを置いていくわけにもいかないため、彼女を抱きかかえて走るクリスティアンは思うように速さを出すことが出来ない。
慣れていない、しかも薄暗い道を全力で走るという行為を恐怖という感情が邪魔をする。たとえ、目の前の少年を捕まえないといけないと分かっていようとも。
下水道の悪臭と抱きかかえられ走られていることの揺れが相まってモニカの顔色は悪くなる一方であった。
「こっち! こっちで助けてって!」
「だ、から! そんな声は聞こえなッ! 罠かもしれないから待ってレオくん!!」
薄暗い廊下を、三人が駆けていく。
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