第41話
「ぐまァァアアアアア!!」
爆発音のような巨大な生き物の叫び声を聞いていた。
彼の肌に
その勢いが生み出す風圧に、立っていることもままならないレオも簡単に転がっていってしまう。
当然そんな強さで殴られてしまえば、柔らかい
急な展開に、レオは動きが取れなかった。体力的にも限界をとうの昔に超えていた。
ただ茫然と倒れ込みながら、それでも助かったなどとはとてもじゃないが思うことが出来なかった。
突如として乱入し、
四人で山を越えた時に出会った双頭狼ですら小さく見えるほどの巨大な体躯を持ち、その身は美しいグリーンの毛皮で包まれている。
丸太のような腕に、その先の爪は一本の大きさがレオの手ほどもありそうで、見え隠れする牙は、
その存在の名は、
個の強さだけを見れば、危険な生き物の多いこの山のなかでもトップクラスの危険度を誇る熊の化け物である。繁殖時を除いて決して群れることはなく、筋肉質の肉体から放たれる一撃は大岩ですら軽々と粉砕してしまう。
移動を繰り返し人を襲う
せめて一撃で殺されるのを祈れ。それが、この生物と出会ったときにヒト族が取れる数少ない行動であった。
そんな王者が、目の前に存在している。
その事実に、レオはこっそりとだが安堵していた。これでもう
どうせあのまま
母に教わった諦めるなの教えは彼の中には消えてしまっていたが、むしろ九歳の子どもがここまでよく持ったと褒めてあげたくなるほどである。
目の前に
だから、
「レオからはなれてッ!!」
悲鳴に近い彼女の声と、こつんと
「……モニカちゃん」
「レオからはなれて! はなれて!!」
逃げてよぉ……、と愚痴りたくなる気持ちを抑えながら振り向けば、涙目になりながら必死に石を投げ続ける少女の姿があった。
彼女が投げる小石など、
「逃げ、て……」
「やーッ!!」
否定のためか、勢いをつけて石を投げるための掛け声なのか判断しにくい声をあげながら彼女はどんどんと小石を投げていく。
とうとう投げる小石がなくなった彼女は、あろうことかレオの前に手をいっぱいに広げて立ちはだかってしまう。
「お、ねがいだから……ッ」
「レ、オは!!」
怖がらせたくはないけれど、もう一度怒鳴れば逃げてくれるだろうか。沈んでいく意識のなかで、もう少しだけと振り絞る彼の言葉を彼女は遮って、
「モニカ、の! モニカのともだちなのぉおお!!」
怒鳴りにくくなるために、いまは一番彼が聞きたくない、けれど、とてもとても嬉しい言葉を叫んでくれた。
勇敢な二人の行動を嘲笑うかのように、
モニカの目前にまで迫った
「ッッッ!」
「モニカちゃッ!!」
――れろぉぉ
「んやァ!?」
「え?」
ぼろぼろ瞳から零れ落ちる彼女の涙を、優しく舐めあげた。
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