断片六 護生
――なにかあるな。
とタツゾウはシゲの表情をみて感じ取った。
見えてしまったのである。
拵えは視て拵えるのだが、では護は視るのかといえばそうでもない。
見えた、と感じるのはあくまでタツゾウ自身がそう理解しているだけにすぎない。あえていうならば気づくという感覚に近いのだが、それよりはもう少しはっきりわかる。
タツゾウの一族は護ばかりが生まれる
なのでタツゾウが護としてどう生きるなければいけないのか、ということばかり教えられて育ったのも無理のない話だった。
そのような教えのもとに育ったタツゾウは、他の護にくらべると他の者の悩みや困りごとに気づきやすい。
サンジもチョウジもどちらも護なのだが、護らしさはあまりない。普段は金のことしか頭にないし、金が絡まない限りは困っている者を見ても素通りする。護であるから護らしい行動をするのかというとそうでもなく、やはり護として育てられてきたというほうが影響が大きいのだろう。学ぶ時期を終えたあたりからタツゾウは自分と他の護との違いに気がつき始め、同時にそんな自分を嫌いになり始めた。
しかたがねえな、とタツゾウは思うのだが、あまり嫌そうな表情はしていない。口元は少し微笑んでいた。
見てしまう自分自身が嫌でしかたがないのだが、ときどきそんな自分を許してしまう日もある。
見えるといってもなにかあるな、とまでしか感じ取ることはできない。そのなにかを知るためには相手に聞くしかないのだが、今ここで聞くわけにもいかない。チョウジとオリツがいない時を見計らってシゲに聞くしかない。今のところは忘れずに頭の片隅に置いておくことにしておき、何も気づいていないそぶりで「胎樹のところまで案内してくれ、今日はそこで一夜をあかすことにする」
とシゲに言った。
護として生まれてきた以上は護生として生きていくしかない。
頼み屋を始めるにあたって金にうるさいチョウジと組んだのは、変えたくても変えることができない自分の性格に対するささやかな抵抗からだった。
巻髪はここからさらに四日はかかる距離にある。孕み屋が来るのを待たないといけないことを考えると、あまりのんびりともしてはいられず、時間はきびしい。
飛駆を使って移動していれば時間的には余裕もできたのだが、オリツが飛駆に乗ることができなかった。
こんなことならば船を使って川を下る道のりを選んでおけばよかったと後悔した。
もっともタツゾウたちは船を持っていない。だから借りるしかないのだが借りるにしても金がかかる。サンジが自分の命の値段にあそこまで渋りさえしなければ船という手段も使えたんだが、とタツゾウはサンジを恨む。もちろん恨んだところで気が晴れるわけでもない。
歩き始めてしばらくすると空が曇りだしてきた。
「タツ、こりゃひと雨きそうだぜ」
空を見上げながらチョウジが言う。
「ああ、そうだな」
タツゾウたちの足が早いか、それとも雨足のほうが早いか。しかし、タツゾウたちはオリツの足に合わせるしかない。雨が降らないことを信じて歩くか、それとも降るほうに賭けてオリツを背負って走り出すか。
もうしばらくしたら決断しなけりゃいけないな、とタツゾウは思った。
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