断片二 拵え
オリツの膨らんだ腹を見て、こいつは拵えてしまったなとタツゾウは思った。
すぐさま一番うしろを歩いていたシゲに「孕み屋を呼べ」と言った。そして孕み屋との合流場所も指示する。
「わかりました、行ってきます」
タツゾウの言葉を聞いてシゲは小走りに駆けていく。
「おう、頼む」
後ろ姿に声を掛けたあと、タツゾウは道端の木陰にオリツを座らせた。
「だから拵えなんか連れて行くなと言ったんだ」
と後ろで先頭を歩いていたチョウジが言う。
「今回の仕事にはオリツが必要だって言っただろう」
タツゾウの言葉に、チョウジはそうだったという表情をする。自分が無茶なことを言ってしまったことを理解したのだ。
「そうだった、すまねえ、しかし……わからねえのはなんで拵えちまったかってことだ。出かける前に念を押したじゃねえか、オリツによ」
確かにそうだった。オリツに今回の仕事の話を持ちかけたとき、タツゾウも拵えてないか念を押して確認したのだ。
そのときオリツは、いまは拵えてないと言った。
しかし、拵えにはときどき自分が拵えてしまっていることに気が付かない者もいると聞く。運の悪いことにオリツもそうだったのだろう。
「拵えちまったもんは仕方ねえ。孕み屋を待つしかない」
タツゾウは振り向いてチョウジの顔を見ながらそう答える。
こんなところで管鰻を使ってしまう羽目になるとは、とタツゾウは思った。おまけに孕み屋も頼まないといけない。
うまく立ち回ったとしても今回の稼ぎから、期限の迫っている借金の返済をしてしまうと手許に残るのはわずかだ。と、おおざっぱに頭の中で計算をする。チョウジは怒るだろうけれども、儲けがあるだけましか。
「今回の分はオリツの分け前から差っ引くんだろ」
金勘定にうるさいチョウジだけあって、タツゾウよりも先に細かく勘定計算をしていたようだ。
「いや、それはしない」
考えるよりも先に言葉が出る。
「こんなことは織り込み済みだ」
「わかった」
とチョウジはあっさりと引き下がった。
金勘定にはうるさいが、文句を言ったあとでタツゾウが決めたことに対し、チョウジは言い返したことはない。
「すまない、タツゾウさん」
とオリツが弱々しい声であやまる。
「お前もわかっているようにここには孕みはいねえ、孕み屋を呼ぶしかねえが、来るまでには時間はかかる」
オリツの方に振り返りタツゾウは言う。
「俺の見立てじゃまだ一日二日は大丈夫だと思うが、孕み屋が来るまではきついぞ」
そう言ってしまった後で、言い方がきつすぎたかなと少し後悔した。
「大丈夫です、少し休んだら楽になりました」
オリツはそう答えたが、孕み屋が来るまではうかつに身動きがとれない。
すでに傾き始めていた日の位置を確認したあと、懐から時計を取り出して正確な時間を調べる。オリツの状態からすると日が暮れるまでに次の宿にたどり着くことは難しそうだ。
河原まで降りればおそらくは
そう考えてタツゾウはオリツがもたれかかっている木のそばに腰を下ろし、シゲの帰りを待つことにした。
チョウジはというとすでに草むらの中で横になり目をつむっていた。
少しだけ涼しい風がふいてきた。それだけが救いだった。
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