第29話 移住検討/Considerare lo spostamento

 食事を終えて、改めてルージュに質問してみる。

「ところでルージュはいくつなの?」


「えーと今は15よ。アマリージョは14。なったばっかりだけど」


「クロードは?」


「そのクロードって・・・名前はく・ろ・とだよ」


「?・・・だからクロードでしょ」


「ちがうよ、くろと・・・」


「??・・クロード?」


――あー、これは・・・きっと言ってもダメなタイプの人だ。

 思い込んだら気づかないタイプのやつ。

 これ以上言うのも面倒くさいな。


「まぁそれでいいよ」

 後でアマリージョが起きたら、彼女に説明しておこう。


「???」

 ルージュは何を言っているか分からないと言った様子で首をかしげている。


「あ、ごめん、ごめん。なんでもないよ」


「でクロードはいくつなの?」


「さんじゅ・・・『24ですよ』」

 ヒカリが横槍を入れた。


『――姿が若返ってますから、相応の年齢の方が良いと思います』

 通信で説明された。


――もう、先に言ってって・・・今のは無理か


「そう、24だよ」


「で、クロードはなんで森の中うろうろしてたの?」


「えーと、散歩?」


「散歩で森に? え、バカなの? あ、でも魔物も倒せるならそれもありか」


――・・・おぉー、まさかの納得


「それでクロードはここに住んでるの? 出身は? なんでこんなところにいるの?」


『――頭が悪そうなので、誤魔化せると思っていましたが、意外と直球でズバズバ質問してきますね』


――うん。下手なことが言えないシンプルな質問だよ。それに悪意がないから余計に答えづらい。


『――これは、むしろ正直に説明したほうが協力を得られやすそうですね』


――俺もそう思う。


「実はさ・・・」

 結局、ルージュにこれまでの顛末を正直に話すことにした。

 さすがに、ヒカリが魔物だったり、自分が魔石を取り入れた話まではしなかったけど・・・。

 話が繋がりにくいところは、ヒカリが上手く説明してくれた。

 さすが出来る上司は違う。


 説明が一通り終わると、ルージュは洞窟内を見回して言った。

「だから見たこともない魔道具なんかがいろいろ置いてあるのね。ご飯も食べたこと無い味だったし。それに魔毒素を浄化できる薬もあったし。あんなの回復魔法が使えるか教会に行かないと治せないもの。これで少し納得がいったわ」


「ん? 今言った魔毒素ってなに?」


「あぁ、汚染された魔物が時々持っている毒のことよ。私は腕から、アマリージョは背中の傷から感染したけど、クロードが治してくれたんでしょ」


「あぁ、あれか」


「で、クロードはこれからどうするの? この国での渡り人の扱いはそんなに悪くないと思うけど、さすがに見つかれば、少なくとも10年くらいは王都から出られないし、生活は保障されるけど、自由に暮らせるって訳じゃ無いから・・・」


「わたりびと?」


「あぁ、クロードみたいに違う世界から来た人のことよ。時々いるらしいわ。ク ロードの話を聞くと、今回渡ってきたのはかなりの大人数みたいだけど・・・。一応、今保護されている渡り人は、王都で20~30人位いるって話よ」


「へぇ、他にもいるんだ・・・会ってみたいけど・・・でも行ったら捕まるよね」


「身分の保障もないし、捕まるというよりは保護じゃないかしら。渡り人は大概真っ先に魔物に食べられて死んじゃうから。それに渡り人の魔道具は便利だけど、使い方がわからないものが多いし。だから、この世界で使えるように協力してもらうためにも渡り人は大切なんだって・・・ケナ婆が言ってた」


「ケナ婆? まぁいいや。その話って渡り人に協力してもらうと言いながら、監禁してるようにも聞こえるけど・・・」


「保護だって言ってたわよ。それに高い給金も貰ってるって話だし」


「ちなみに、保護されていない渡り人もいるの?」


「それはわからないわね。ほかの国ならいるかも知れないけど。まぁクロードは渡り人のくせに強いし、渡り人っぽくないから大丈夫よ、たぶん」


「たぶんって・・・何を根拠に」


「だってクロードからはかなり強い魔素を感じるもの。雰囲気も聞いてる話の渡り人っぽくないし。それに普通、渡り人は魔素がないのよ。だから保護するの。魔素がない人って、魔物から見たら、ただの美味しいエサだもの」


――あぁ納得・・・だからネズミですら全力で襲ってきたわけね


「で?どうするの?」


「うーん。今はとりあえず暮らすためのちゃんとした家が欲しいかな。さすがにずっとここで暮らす訳にもいかないし」


「そりゃ、そうよね・・・ねぇ、一緒にウール村に行って住んだらどう?」


「え?」

 思いがけない提案に驚く。


「さっきも言ったけど、この1年くらいずっと井戸も枯れ気味だし、そのせいで農作物も収穫が少ないのよ。領主様に払う税金だって今は待ってもらってる状態だし。そのせいで、村から街に引っ越す人も多くて村自体人手不足で大変なの。それで村に移住してくれる人を、あちこちの街で探してるんだけど、まだ誰も来ていないしね。村には事情を話した方がいいかも知れないけど、住むのは普通に住めると思うわよ」


「そうなんだ・・・でもうまい話には・・・」

 疑っている訳では無いが、自分なりに不安に思う要素について考え込む。


「全然うまくないわよ。生活苦しいんだから」

 ルージュは明るく喋っているが、嘘ではないことは表情からもうかがえた。


「そうか。じゃなきゃ、あんなところで魔物と戦ってないか・・・」


「・・・それはもう言わないでよ」

 苦笑いで応えるルージュを見ていると、嘘をつくような子には全く見えない。

 ヒカリはどう思っているかは分からないが、俺は信用しても良い、そう感じていた。

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