第26話 少女誘拐/Rapisci una ragazza

 二人の少女を助けた俺は、言葉が通じずに困っていた。


「qr:wh;w3lt@s4」

――どうしたらいい?全然言葉が通じそうに無いけど

 ヒカリに助けを求める。


『――言葉もそうですが、今はお二人の怪我の状況を考えますと、あまりのんびり会話をしている場合ではないと思われます』


――そうだった

 言葉の問題は後回しにして、後ろに倒れている女の子に近寄る。

 ナイフを構えている子は、何もしてこないが、警戒した様子でこちらにナイフを向けたままだ。

 背中の傷を見る。


――どんな感じに見える?

 傷の状況がわからないのでヒカリに聞いてみた。


『――強い衝撃があったせいでしょう。気を失っているだけです。ただ、背中の傷が深さはともかく、あまり良くありません。玄人くろとさんがネズミに噛まれた時と同じ症状が出ています。あの時は唾液が原因かと思っていましたが、魔石派生の魔物特有の毒のようなものかも知れません。それが少しずつですが、身体を侵食しつつあります』


――それって良くない状況に聞こえるけど?


『――はい。このままでは長くはもたないと思います。ですが症状が同じであれば・・・』


――湧き水か!


『――はい、おそらく』

 慌ててリュックを下ろして、ペットボトルを取り出す。

 ナイフの少女は怪訝な顔をして、様子を伺っている。


 ペットボトルのふたを開けて、湧き水を背中の傷にかける。

 傷口から白い煙のようなものが出て、出血がおさまっていく。

 どうやら効いたようだ。

 深く見えた傷も、出血も治まり問題なさそうに見える。

 あとは意識が戻れば問題ないだろう。


 ナイフの少女は、その様子を見て目を丸くして驚いているようだったが、女の子が助かったことを理解したようで、ナイフを納めた。


「君の傷にもかけたほうがいいよ」

 ペットボトルをナイフの子に差し出して、傷口のある腕を指さした。


「em4sqr:wh;w3lt@s4 tyd'r.0」

 ナイフの子は、何かを言った後、ペットボルトを受け取ろうとして、手を伸ばしたところで気を失って倒れた。


 倒れる身体を支えながらヒカリに聞く。

「あっ・・・なんで倒れたんだ」


『毒のせいかと思いますが、緊張が緩んだのもあるでしょう。助けるのが遅れていれば確実に死んでいましたし。状況から考えて、倒れている子を守ろうとして戦っていましたから、相当、気を張っていたのでしょうね』


「二人とも気絶しちゃったか・・・」


『すぐに気がつけば、話も出来ますが・・・・これは2~3時間は目覚めそうにありませんね』 



「2~3時間もかかる?」

 ナイフの子の腕の傷口に湧き水をかけながら聞く。

 

『はい。最低でもそのくらいはかかるかと思われます』


「どうしようか、今から2~3時間も待ったら、洞窟へ戻るのが遅くなりそうだし。これ以上、先の探索が出来そうに無い時点で戻りたいんだけど・・・」


『そうですね』


「だからといって、ここに放ったらかしって訳にもいかないし」


『洞窟へ連れて帰ってはどうですか?』


「かなり距離あるけど」


『二人くらい抱えて走れますよね』


「はぁ・・まぁ大丈夫かな。でも、どちらかというと女の子っていう方が問題だよね」


『連れて帰れば、湧き水でもう少し治療が出来ます。ここで見捨ててしまうと、後で悪化した場合に助けられなくなる可能性もあります』


「でも、家に帰れば、医者とか行けるんじゃない?」


『彼女たちの服装を見てください』


「ん?」


『服装から察するにあまり文明がそこまで発達していないように思えます。ただの田舎の農村の子供という点も捨てきれませんが。魔法がある世界なので実際はわかりませんが、手持ちのナイフを見ても、鉄の精錬方法が我々の時代より進んでいるとは思えません。それに、この世界を知るチャンスでもあります。一度連れて帰りましょう』


「そうか・・でも言葉はどうするの?」


『翻訳できるようデータを集めます』

 ヒカリの声が弾んで聞こえる。


「・・・仕方ないか。傷が気にならないと言えば嘘になるし」


『では決まりですね。目覚めないうちに、急ぎましょう』


「ん? 目覚めないうちに? 2~3時間は目覚めないんじゃないの?」


『あ、いえ。とにかく急ぎましょう』


――ヒカリは、もしかして研究のために連れて帰りたいだけなのではないだろうか。


 そう思ったが、今後の生活を考えると情報は必要だ。

 2人をこのまま放置していく訳にもいかない。


 最近は、いつも消去法で物事を決めているような気がするが、いつもヒカリの提案通りになっている気もする。

 自分で選択しているつもりでも、知らず知らずのうちに誘導されているのだろうか。


――まぁ、それでも仕方ないか


 だってヒカリは、俺にとっての光の道であり、希望の声だから。

 たとえ、地獄に行くことになっても、笑って一緒に行ってやろうと思う。


――いや、そんな事は思わなくても、無理矢理、行かされるのがオチか


『そこまで悪くはありませんよ』


――あ、また、聞かれてた・・・・ほんと、このシステムだけは、なんとかならないかな・・・


 俺はリュックを前向きに抱え直し、二人を両肩に担ぎ、洞窟へ向かって走り出した。

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