第9話 ラーメンのスープ/zuppa di Ramen

「こりゃ食料よりも、水のほうが問題かも」

 洞窟に着いて荷物を整理している途中、1カ所に並べられていくカップラーメンとパスタの山を見て呟く。


『水の確保は生死を分けますが、ここから50メートルほど北に湧き水がありますので、そこまでの心配は不要かと存じます』


「水・・あるんだ。50メートルか・・・中途半端に距離あるな。あっ、でも入れ物とかどうしようか」


『さきほどの荷物の中に水のペットボトルもありましたので、それが使えるかと』


「まあ、代用は何でもできるか・・・無いものばかり考えても仕方ないし」


『はい。そうですね』


「でも水は・・・明日でもいいかな。もう疲れたし、今日はとりあえずなんか食べて、早めに休むよ」

 そう言って、ガスコンロに火を付ける。

 持ってきた小さな鍋でお湯を沸かして、カップ麺にお湯を注ぐ。

 カップ麺の蓋が開かないように、空の鍋を乗せて置く。


 出来上がるまで時間があるので、防災用のリュックから、災害用の断熱シート、毛布を取り出して休める場所を確保する。


「薄暗いかな、やっぱり・・・それに静か過ぎて怖いし・・・」

 パソコンの明かりのおかけで、洞窟内はなんとなく見えているが、いつまでもこれで良い訳もない。


「ねぇ、明日またマンションに戻ろうかと思うんだけど・・・大丈夫かな」

 待っている間、やることもないのでパソコンに向かって話しかける。


『朝に魔物の気配がなければ大丈夫だと思いますよ』

 間髪入れずに画面に返答が打ち込まれる。


「じゃ、朝になったら起こしてくれる? あともし魔物が来ても起こしてくれたら助かるんだけど」


『承知しました』


「あとさっきは、時間がなくて聞けなかったんだけど」


『はい、なんでしょう?』


「なんで、あれこれ分かるの?」


『全てを理解している訳ではありません。しかし、偶然とはいえ、倒してしまったブルードラゴンの魔石と同化したため、記憶の一部が私に引き継がれています』


「知っていることは、そのドラゴンの記憶の一部ってこと?」


『その通りです』


「気配が探れたりする力も?」


『それもブルードラゴンの力です。本来の力であれば300キロ以上先まで分かるようです』


「凄いな、300キロかよ」


『成長すると音速に近い速度で飛びますので、そのくらいは必要かと』


「で、パソコンちゃん、あれ君? どっちでもいいか。あとは何ができるの?」


『私もよくわかりません。同化したとは言え、まだ完全に同化している訳ではありませんので。ただ、電力と魔素を変換することが可能で、現在は、魔素と電力を並行してパソコンの機能を維持しています』


「電力・・・バッテリーか。そういえば結構、時間経つけど残量とか大丈夫?」


『この周辺は極端に魔素が薄く、新たに補充するということが出来ないようです。現在のバッテリー残量は73%。あと36時間ほどはこのまま動けます』


「・・・たしか防災リュックに、電源が付いてる太陽光発電パネルがあったから、明日それで充電してみるか」


『よろしくお願いします。お節介ながら3分経過しました』


 カップ麺の上の鍋を横に置き、ふたを開けて、ラーメンをすすりながら質問を続ける。

「あと、分かる範囲でいいんだけど、今日襲ってきた奴らってどんな種類の魔物なの?」


『深緑色がゴブリンです。乗っていた鳥はダチュ、大きい岩の男はオーガです。氷を吐いていた竜はワイバーンの変異種と思われます』


「人を氷漬けにしてたのって、やっぱり・・・」


『ご想像の通り、食糧として保管するためだと思われます』


「もしかして、日本で何件か続いた行方不明事件って・・・」


『おそらくそうですね。こちらの世界から日本へ行き、人を氷漬けにして持ち帰ったものかと』


「そうか・・・ていうか・・それは、こっちから日本に行けるって事?」


『方法は不明ですが、条件が整えば帰還も可能だと思われます』


「なんか希望が出てきたな」


『それは、良かったです』


「いや、良かったのはこっちだって。命助けてくれて本当にありがとう」


『いえ、5年の間、とても大事に扱ってくださったので・・・』


「そうか、そう言ってもらえると俺もうれしいよ」

 そう言って普段は飲まないラーメンのスープを飲み干した。


 しょっぱい味が身体に染みわたる。


 「あぁ、カップラーメンって、こんなに美味しかったんだな・・・」

 俺は、スープを飲み干して、空になった容器を見ながら、ため息交じりに呟いた。

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