第112話 創成の鍛冶匠
「……生産系? どんな能力?」
一言で生産系スキルと教えただけでは説明不足が過ぎたようで、ディアが詳細を聞いてくる。
「スキル名は『
正直、自分自身でもいまいち能力が把握しきれていない。もう少し丁寧でわかりやすい説明文が欲しいところだ。
それはディアとフラムも同じ気持ちらしく、このスキルについて頭を悩ませている様子。
「……ふむ。主はスキルを習得した瞬間に何か感じ取れなかったか?」
「残念ながら全く。使い方もさっぱりわからない」
フラムが何故こんなことを聞いてきたのかといえば、スキルを習得した瞬間に普通ならそのスキルで何が出来るようになったかが何となくわかるからだ。
例えば『剣術』のスキルを習得したとしよう。
この場合、スキルを手に入れると同時に剣の扱いが突然わかるようになる。
過去に剣を振ったことがないどころか、触れたことさえなかったとしてもだ。
それほどまでにスキルは自身に何かしらの効果を発揮し、どんな能力なのかを理解させてくれるものなのだが、今回得た『創成の鍛冶匠』は違った。
――まるで手応えがないのだ。
仮に自分の情報を見るスキルを持っていなかったとしたら、スキルを習得したことにさえ気付かないほどに。
「習得した主でもわからないとなると、色々と試してみるしかなさそうだぞ」
「それもそうだね。まずはスキルの付与を試してみるかな」
アイテムボックスから投擲用の安いナイフを一本取り出す。
何かあったら困るので普段使用しているミスリル製のロングソードは今回の実験では使わないでおく。
「えーっと、とりあえず『水氷魔法』を付与してみるよ。『金剛堅固』じゃ付与出来たのかわかりにくいし」
ナイフに意識を集中し、水氷魔法で氷属性を付与するイメージを行う。
すると、途端にナイフが青い光を放つ。
「――おっ! 出来たみたいだ」
しかし成功したかと思いきや、その言葉と同時に青い光が霧散していってしまう。
「こうすけ、これは成功?」
「たぶん失敗だと思う……」
念のためにいつぞや、どこかで購入した赤い果物をアイテムボックスから取り出してナイフで切ってみたが、予想通りただのナイフでしかなかった。
もちろんその際に魔力を流してみたものの、水氷魔法が付与されていた気配はない。
「主よ、どうやら失敗みたいだな」
「……だね。スキルの永続付与って効果は本当どこへやら……」
「おそらくだが、付与にも条件があるのではないか? 例えば素材が良いものではないと付与が出来ないなどの」
フラムの言うとおり、素材によって付与可能なスキルのキャパシティが異なる可能性はありそうだ。
物は試しに今度はミスリル製のナイフで付与を行ってみたところ、青い光がナイフに定着し、刃を包み込むように仄かに青く輝き続けていた。
そして先程と同様に赤い果物を付与に成功したと思われるナイフで半分に切るように刃を入れる。
ミスリル製で切れ味が良いこともあり、いとも簡単に赤い果物が真っ二つとなった瞬間、ピキピキと音をたてて凍りついたのだった。
「フラムの推測が当たったみたいだ。とりあえず付与に関してはまた後日実験してみることにするよ。後は武具の生成と作製の能力についてだけど、今手持ちに素材がないから、これも後日かな。他にも道具や炉とかも必要になるしね」
夜も更けて日付が変わったこともあり、第一回紅会議はこれにて終了。
ディアは終始眠そうにしていたので夜遅くまで付き合わせてしまい申し訳ない気持ちになったが、解散の際に笑みを向けて『おやすみ』と言ってもらえたことで救われた気分になったのだった。
翌日、俺は朝食を済ませてから王都へ繰り出して様々な商店を回り、鍛冶に必要な道具を買い集めた。
ちなみに俺には鍛冶に関する知識は一切ない。
そのため、最初に鍛冶屋を訪ねて鍛冶に必要な道具をドワーフのお爺さん? に教えてもらうことにしたのだ。
結果的に鎚や金床、金箸など道具に燃料の炭、加えて鉄のインゴットなどを購入したのだが、より良い道具を求め過ぎたこともあって少しばかり痛い出費となってしまった。
これだけの出費をして失敗は許されない、と心に誓いながら屋敷へと帰り、すぐさま屋敷の庭で武器の作製もといスキルの検証に取りかかることに。
準備に取り掛かって僅か数分で致命的なミスに気が付いてしまう。
「――炉がないじゃん!!」
己の馬鹿さ加減につい大きな声で叫んでしまった。
炉が必要なことは鍛冶をしたことがない人間でもわかることだ。
それは俺も例外ではない。
だが、頭の中から抜け落ちてしまっていた。
言い訳でしかないが、炉なんてものがそこらで売っているはずがないこともあり、完全に忘れていたのだ。
……さて、どうしよう。炉がなくちゃ鉄を熱することも出来ないしなぁ。
考えること数分。
一つの案が頭の中に浮かぶが、その案を実行するには人手が足りない。
そのため、ディアかフラムに手伝ってもらう必要があったのだが偶然なのか、ちょうどその二人が屋敷の庭に現れた。
「二人とも。ちょうど呼びに行こうかと思ってたんだよ。本当偶然来てくれてラッキーだ」
「「……」」
何やら二人が呆れたような視線を向けてきている気がするのは気のせいだろうか。
「どうかした?」
すると、フラムがため息を吐きながら説明した。
「主が何事か叫んでいた様子だったからだぞ。私たちがここに来たのは」
「あ……」
つまるところ俺の叫び声を気にしてわざわざ来てくれたようだ。
ラッキーと思っていた気持ちは消え去り、恥ずかしさで顔が赤くなってしまいそうになる。
「それでこうすけ。どうかしたの?」
「あ、うん。鍛冶に必要な道具を取り揃えたつもりでいたんだけど、炉がないことに気が付いてね……」
さらに追い討ちとばかりに己の醜態を話すことになってしまう。
恥の上塗りで参りそうになっていると、フラムから一つ提案が出された。
その案はちょうど俺が考えていたものと同じであり、実行するにあたって二人に手伝いをお願いする。
「うん。わかった」
「私も手伝うのはいいが、上手く行くのか不安になるぞ」
「ここまで色々と買っちゃったからね。もはや引くに引けないよ」
せめて実験と検証を成功させなければ、10枚近い金貨が無駄になってしまうのだ。ここで諦めるわけにはいかない。
「それじゃあディアは魔法で炉を作ってほしい。なるべく高温に耐えられるように魔力多めで」
「わかった」
返事をすると同時にディアが魔法を使い、ドーム状の簡易的な炉もどきが完成する。
一見、ただ単に土が盛り上がっているようにも見えるがおそらく最低限は炉として機能してくれるはず。
試しにディアが作った炉に触れてみるが、相当量の魔力を消費した甲斐もあってかなり強固に作られている。
俺はその炉の入り口から炭を投げ入れ、火炎魔法で火をおこす。
そして数分が経ち、パチパチと炭が燃える音が聞こえ始める。
「なんだか、いけそうな気がしてきた!」
希望が見えてきたことで、俺の表情は緩んでしまう。
そんな俺を見たのかわからないが、フラムから希望を打ち砕くような言葉が告げられる。
「主よ、おそらく火力が足りないと思うぞ。これでは肉くらいしか焼けないだろう」
「え……」
浮かれた表情から絶望の表情へと一変させられる非情な通達。
どうすれば炉の温度を上げられるのかなんて俺にはわからない。
「炉の中に風魔法で空気を送ってみる?」
ディアがそう提案すると、フラムは首を左右に振って違う案をあげる。
「私が直接炉の温度を魔法で上げた方が楽そうだ」
「それでいこう!」
すぐさまフラムの案を採用し、炉の温度を上げてもらう。
そんな中、俺は思ったことがある。
仮にこれで武器が作れたとしても神様であったディアと
二人の力を借りてしまえば知識があれば誰にでも鍛冶を行える気がしてならない。
そのような思いを抱きながら、俺は鎚や金床などの道具と鉄のインゴットをアイテムボックスから取り出す。
「それで主よ、聞いておきたいことがあるのだが一体何を作ろうと考えているのだ?」
フラムからの質問を受け、鉄のインゴットを片手に持ったままそれに答える。
「まずは剣でも作ってみるつもり。いつかは日本刀を作ってみたいと思ってるんだけどね」
「「日本刀?」」
二人の声が重なっていた。
やはりと言うべきか、この世界にほ日本刀なるものは存在しないようで、ざっくりとした知識で日本刀について説明をすることにした。
「日本刀っていうのは俺が住んでいた国の剣みたいな武器なんだけどロングソードとは違って、片刃で刃の部分が少し反っていて薄いんだ。特徴としては切れ味が――」
そんな説明をしている時だった。
突如、手に持っていた鉄のインゴットが光を放ち、みるみるうちに俺の手の中でその形を変えていく。
そして僅か数秒で俺の手の平の上で鉄のインゴットが日本刀へと変化していたのだ。
「「……」」
あまりの出来事に全員が言葉を無くす。
一体何がどうなって鉄のインゴットが突如として日本刀に変化したのか。そして――ここまでの準備はなんだったのか、と。
「主よ……」
「……はい」
申し訳なさのあまり、敬語で返事をしてしまう。
「スキルの使い方がわかって何よりだ。だが、この埋め合わせはしてもらうからな。今度美味しいものでも奢ってもらうとしよう」
「わたしは甘いものが食べたい」
「ぜひ、ご馳走させていただきます……」
無駄に時間を費やしてしまったが、こうして『
もう暫くはこのスキルを研究する必要があるが、この日は流石にやる気は起こらなかった。
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