第113話 帰省
今日で『
この五日間、俺は冒険者活動を一切せずにひたすらスキルの検証を行っていた。
冒険者活動を行おうとしなかったのには理由があり、決して俺のわがままでスキルの検証に時間を割きたかったからではない。
では何故かと問われれば原因はフラムにあった。
二日前の夜にフラムが突如『竜族の国に数日ほど戻らなければならなくなった』と一言残し、転移していってしまったのだ。
そのためディアと二人で相談した結果、フラムが戻ってくるまでは各自自由行動とし、俺は空いた時間をスキルの検証に費やしていた。
そして数々の検証を行い、現在はおおよそ『創成の鍛冶匠』の能力を把握することが出来ている。
ちなみに今日までの検証で金貨を100枚(約1000万円)ほど失ってしまったが、断じて無駄遣いではない……はず。
これほどの大金をどのように使ったのかといえば、武具の素材となる様々な種類の金属の購入費用に充てたのだ。
鉄や銀、そしてミスリル。
特にミスリルは希少でありながら、人気の素材ということもあってかなり高額で、金貨100枚のほとんどがミスリルの購入費だった。
また、肝心の検証の成果だが、新たに判明したことが幾つかある。
一つ目は武具の作製方法。
この『創成の鍛冶匠』というスキルで武具を作製するために炉や鎚などの設備や道具は一切必要なく、必要なものは素材と自身のイメージ力だけ。
金属を手に持ち、作製したい武具の構造を思い浮かべるだけで簡単に武具を作ることができるのだ。
加えて、用意する素材に関しても作製に必要なものを全て用意する必要がない。
例えば弓を作るとしよう。
本来なら弓を作る場合にはしなやかな木と弦が必要となるが、このスキルで作製する場合には木だけで弓を作ることが出来る。
俺が初めてスキルで作った鉄製の日本刀も鉄のインゴットだけしか用意していなかったのにもかかわらず、刀身だけではなく、何故か柄の部分まで作られていたことからヒントを得ていた。
何故所持していた素材以外で作られた部分も作製出来たのかは未だに理解が及ばないが、これはスキルの説明にあった『簡略化』にあたるのかもしれない。
ただし、素材を補うにも限度があることが検証の結果判明している。
補えるのは武具全体の三割前後まで。
要するに最低でも全体の七割にあたる素材を手に持っていなければ作製に失敗してしまうということだ。
さらにこれ以外にも『創成の鍛冶匠』には難点があった。いや、正しくは俺の力不足が原因だろう。
その難点とは武器は作れても防具が作れない点。
武器は構造をイメージするだけで作ることが出来るのに対し、防具はそう簡単にはいかない。
何せ、着用者のサイズまでもイメージしなければならないからだ。
今の俺ではせいぜい胸当てを作ることが限界。
フルプレートアーマーなどに限っては他人の物はおろか、自身の物さえ作ることが出来ないでいた。
二つ目は『スキルの永続付与・削除』について。
この能力は様々な条件があり、未だ完璧には把握しきれていないのが現状。
まずスキルの削除についてだが、これに関しては条件らしい条件はない。強いていえば、遠隔削除のようなことは出来ないといったくらいである。
そして条件が難しいのは付与の方だ。
検証の結果、素材によって付与出来るスキルとその強度が異なることがわかった。
鉄を素材とした武器では
これでは上級スキルである水氷魔法を弱めに付与したとしても威力はノーマルスキルの水魔法くらいの威力しか出せない。
しかし、素材がミスリルともなれば複数の上級スキルを付与することが出来る。さらには
何故ミスリルに比べて鉄では大したスキルが付与出来ないのかはわからないが、俺はこの世界の金属に詳しい学者などではないため、そういうものだと思うしかない。
ちなみにこの世界ではミスリルを越える金属として『アダマンタイト』が存在する。
魔力伝導率はミスリルと変わらないが、硬度はミスリルの数倍。
俺としてはアダマンタイトを使った付与の検証もしてみたかったのだが、残念ながら購入することが出来なかった。
金属を扱う商店の店員に聞いた話によると、超希少鉱物であり、市場に出回ることはほとんどないとのこと。仮に出回ったとしても値段はミスリルの十倍はくだらないとも言っていた。
三つ目は『武具生成』能力について。
『生成』という単語には『物を変化させ、他の物にする』という意味もあるが、『物を新たに生じさせる』といった意味も持っている。
そこで俺は0から武具を生成出来るのではないかと考え、試行錯誤を繰り返したが、流石に何の代償もなしに0から武具を生み出すことは叶わなかった。
しかし、代わりに魔力という代償を支払うことで武具を生み出すことには成功したのだった。
魔力を凝縮し、イメージ通りに形成することで短剣を作製したことがあったのだが、僅か一分程で霧散してしまい、実戦での使用は難しいと判断。加えて耐久性に欠いたことも実戦向きではないと判断した一因である。
いずれは魔力から作製した武具を使用してみたいとも思うが、当面はお蔵入りする予定だ。
これら三つが今回の検証成果である。
正直、この『創成の鍛冶匠』は伝説級に相応しいスキルなのかと聞かれれば、俺は微妙と答えるだろう。
生産系スキルとしては確かに破格の能力だと思うが、俺が所持している伝説級スキルの『
翌朝。
フラムがいなくなって今日で三日目になる。
今は朝食を四人で食べているのだが、フラムがいなくなっただけで俺はどこか食堂内の雰囲気がいつもと違うように感じていた。
思ってみれば、フラムと出会ってからというもの、三日にも及んで顔を合わせていないのは今回が初めてなのだ。
普段から騒がしくて何かと問題を起こすフラムだが、いなければいないで寂しく感じてしまうのは俺の我が儘なのだろうか。
トーストを噛りながらそんな事を考えていた時だった。
突如として食堂の床に赤い魔法陣が現れたのだ。
そして――
「すまない。少し帰るのが遅くなってしまったぞ。――っと、食事中だったか。ナタリー、私の分はあるか?」
「ちょっと待ってて下さいね」
帰ってきて挨拶もそこそこにすぐさま朝食をせがむフラムを見て、呆れ半分、喜び半分といった気持ちになる。
「フラムお姉ちゃん、お帰りです!」
「ただいま、だ。マリー、少し背が伸びたか?」
いや、三日で伸びるわけ無いだろ……。
「三日で伸びるわけがないと思う」
俺と思考がリンクしていたのか、ディアがフラムにツッコミ? を入れていた。
その後、フラムは朝食をものの数分で食べ終わり、食後のティータイム中に竜族の国に帰った理由を話し始めた。
「今回の帰省は本当に疲れた……。これも全てルミエールのせいだ。今度会ったら覚悟してもらうぞ」
この場にいないルミエールを恨み、拳を震わせていた。
俺はフラムの身に何が起きたのかを聞いてみることに。
「ルミエールが何かをやらかして、フラムが面倒事に巻き込まれたってこと?」
「そうなのだ。どうやら魔武道会で私と戦ったことを告げ口したようで面倒な事になった」
「面倒な事?」
「うむ。私に刃を向けてしまった事をルミエールが父親に話してしまい、ひたすらルミエールの父親に謝られるという事態に陥ったのだ。私がいくら許しても謝罪を繰り返してきてな。本当に面倒だったぞ」
それでルミエールを恨むのは何か違う気がしないでもないが、口には出さないでおく。
「それで三日間も帰ってこられなかった、と」
「いや、その件は一日で終わったぞ。『次に謝罪を口にしたら許さない』と脅したからな」
何たる理不尽さ。
これが
「じゃあ残りの二日間は別件の用事があったってこと?」
「違うぞ。主にお土産を用意しようと思ってある物を取りに行っていたのだ。それが存外時間が掛かってしまったというわけだ」
「え? お土産?」
フラムが俺にお土産を用意するなんて思いもしなかった。もしかしたら明日の天気はとんでもないことになるかもしれない、と失礼な事を考えてしまうほど。
「――これだ」
ニヤリと笑みを溢しながらフラムが何処からか取り出したお土産の正体は緋色に輝く巨大な鉱石だった。
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