第70話 未熟な精神
俺とフラムによって仮面の襲撃者を捕らえたことで、ひとまずは生徒たちにも落ち着きが戻っていた。
捕らえた二人の内、怪我をしていたインゴの治療をディアが行った後、意識を刈り取り、二人を縄で縛り上げてから俺とフラムで現在は監視をしている。
その間、生徒たちには少し離れた場所で待機をしてもらい、魔物が現れた際にはディアが駆除をしてくれていた。
「フラム、こいつらの目的は何だと思う?」
暇になった俺は、意識を失っている二人に視線を向けながらもフラムが知りようもないことを聞いてみることに。
「主は気になるのか?」
「それは気になるよ。最初はリゼットを狙って攻撃を仕掛けてきたから、リゼットを狙った暗殺者か何かかと思ったけど、リゼットには心当たりがないらしいし、かといって他の生徒には攻撃を仕掛けようとした素振りも見せなかったし……」
王族であるアリシアを狙ったというのならまだ納得ができるが、狙われたのはリゼットだ。だが、そのリゼットには心当たりがないと言う。
うーん。さっぱりわからない。何か理由があって無差別に誰でもいいからと攻撃を仕掛けてきたのか? でもディオンが近くに居たにも関わらず、手を出そうとしなかったしなぁ……。それに『気配遮断』を持っていたヨッヘムという男がわざわざ姿を現したのも不自然だよな。
俺が頭を悩ませていると、フラムに軽く肩を叩かれる。
「どうしたの?」
「主よ、そんなに悩む必要はないぞ」
「何かわかったの!?」
つい捕らえた二人の監視を忘れ、フラムに視線を向けてしまう。
「簡単なことだぞ。こいつらを叩き起こして聞けばいい。何の為に捕らえたのだ?」
ごもっともな話だった。
善は急げとばかりに俺は行動を始め、魔法で意識を失っている二人に頭から水をぶっかけた。
「「うっ……」」
俺の思惑通りに二人の意識は徐々に覚醒していく。
「起きたか? 早速聞きたいことがある。何故襲撃をしてきた?」
「……」
仮面の男たちは互いの状況を確認するかのように、顔を見合わせていた。
「聞いているのか?」
俺がもう一度仮面の男たちに問いかけ、それから数十秒ほど待つと、ようやくヨッヘムが口を開く。
「はぁ……はぁ……。私たちが答えることは……何もない」
ヨッヘムが息苦しそうな呼吸をしながらもそう答える。
フラムが首を締めたとか言っていたから、後遺症みたいなものが残ってるのか?
そんな事を思いながらも、さらなる尋問を続けることに。
「ならお前たちは何者で、誰にこんなことを指示されたんだ? それとも自分たちの意思で襲撃してきたのか? 言わなければ死んでもらう」
殺すつもりなど毛頭ないが、強い口調で脅しをかける。
「はぁ……、そん……な脅しをし……ても無駄……だ」
先ほどよりもヨッヘムの呼吸は乱れており、異変を感じた俺はインゴを横目で確認をすると、頭をぐったりとさせていることに気付く。
そんな時だった――
「――あぁぁ!! ぁぁ……ぁ……」
ヨッヘムは一瞬、苦しげな声を上げたかと思うと、全身の力がなくなってしまったかのような姿勢になり、ピクリとも動かなくなる。
「おい!」
慌てて仮面の二人に近寄り、肩を揺らすが反応がない。
何者かに暗殺されたのかと思ったが『気配探知』には生徒たち以外の存在を確認することができない。
「フラム! ディアを連れてきてくれ! フラムはそのまま生徒たちの護衛を!」
「承知した!」
フラムは俺の焦りを汲み取ってくれたようでかなりの速さでディアを呼びに行く。
ディアが来るまでの間に、俺は襲撃者たちの仮面を恐る恐る外すと、二人は白眼を向いて死んでいたのだった。
数分もしない内にディアが駆け寄り、二人の状態を確認してもらう。
「もう死んでる。わたしじゃどうすることもできない」
首を左右に振りながら、ディアは険しい表情をしている。
「やっぱり死んでるのか……。一体どうして」
「たぶんこれは自殺。口から泡を吹いてる。毒でも仕込んでいたのかもしれない」
ディアに言われ、二人を確認してみると口元に唾液と泡が付着していることに気が付く。
どうやって毒を摂取したんだ?
その時、ふと手に持っていた二人の仮面の裏側を見ると、口元に当たる部分に食い破られたような小さな布袋があり、そこには謎の粉が残っていた。
これか……。くそっ……!
「こうすけ、この二人をどうする?」
死んでしまっているが、生徒を襲った者たちだ。
死体を持ち帰り、アリシアに頼んでエドガー国王に調べてもらえば何かがわかるかもしれない。
だが、異空間に収納できるとはいえ、死体を持ち歩くような事は精神的に未熟な俺ではできそうになかった。
「甘い考えかもしれないけど、俺には死体を持ち歩くような真似はできない。仮面だけを持ち帰ることにして、二人はここに埋めようと思う」
「こうすけが決めたなら、それでいいと思う」
「……ありがとう」
俺の甘い考えを否定しないでくれたディアに感謝の言葉を言った後、俺は『大地魔法』を使って二人を埋葬したのだった。
二人を埋葬した俺とディアはフラムと生徒たちが待機している場所へと戻る。
するとフラムが近寄ってきたので、事の顛末を説明した。
「なるほど、結局は死んでしまったのか。それで主よ、片方の男が持っていた『気配遮断』のスキルは獲得したのか?」
「……してないよ。欲しいスキルではあったけど、死んだ人間を傷つけてまでスキルを盗むような事はしたくなかった」
「主は優しすぎるな。相手は命を奪いに来たのだぞ? 勝てたから良かったものの、もし負けた場合、死んでいたのは主だ。そのような相手のスキルを複写することに何の問題が、何の躊躇いがある?」
「いや、俺は優しいんじゃない。どうしようもないくらい心が弱いだけなんだ……」
殺す覚悟も殺される覚悟もない、ただ未熟で心が弱いだけの人間。それが俺なんだ。
「辛そうな顔をしないでくれ。それに、そんな心を持つ主のことは嫌いではないぞ?」
俺を励ますためなのか、微笑みかけながらフラムはそう言ってくれたのだった。
俺たち三人が生徒には聞こえないような声でそのような話をしていると、恐る恐るといった様子でアリシアに声を掛けられる。
「あの……先生方、よろしいでしょうか?」
「あ、ごめん! ほったらかしにしちゃってた」
暗い気持ちになっていた俺は、少し無理をして元気な姿を装う。
「それで、実地訓練はいかがなさるおつもりでしょうか?」
「ちょっと問題が起きたけど、もう心配はいらない。だからこのままダンジョンを攻略するよ。後はこの階層とボスだけだ。皆、頑張ろう」
生徒たちに不安を抱かせないために心配はないと告げる。
「「はい!」」
俺の気遣いに気付いたのかどうかはわからないが、生徒たちは元気よく返事をしてくれるのであった。
その後のダンジョン攻略は順調に進み、最後のボスも誰一人として怪我をすることなく倒すことができ、ダンジョン攻略は無事に終了する。
そしてボスを倒した後の扉に転移魔法が施されており、それに触れることでダンジョンの入り口付近に全員が転移し、その日はそこで夜営を行うのだった。
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