第60話 VSフラム
開始の合図がされたが、意外なことにフラムは俺に対して即座に攻撃を仕掛けて来なかった。
あれ? 始まる前まではあれだけやる気満々だったのにどうしたんだ?
そんな事を考えながらもフラムの一挙一動を見逃さない様に神経を尖らせる。
するとフラムは俺に視線を向けながらニヤリとした表情を見せるとフラムの足元に小さな魔法陣が現れ、そこから黒い大剣が地面から出現し、それを掴んだ。
「ちょっ、フラム! 素手じゃないのかよ!」
「主とせっかく戦えるというのに素手で戦うわけがないぞ」
生徒たちと模擬戦をする際にはフラムは一度も武器を使用していなかったため、てっきり今回も素手で戦うものだと思っていた俺の考えは甘かったようだ。
まさか竜王剣まで召喚するとは。本気を出さなきゃ殺されかねないな……。
「――さて、行かせてもらうぞ!」
そう宣言するとフラムは竜王剣を軽々と持ち上げ、俺に突撃を仕掛ける。その速さは
俺は突撃をギリギリまで引き寄せ、フラムが剣を振り下ろすと共にサイドステップで回避を行い、すぐさま攻撃へと転じようとするがそう簡単にはいかない。
フラムは俺に剣を回避された瞬間に剣の軌道を腕力だけで横薙ぎへと変化させたのだ。
剣の急激な軌道変化を回避することは不可能だと判断した俺は、すぐさま持っていた剣に『金剛堅固』を付与し、竜王剣を受け止める。
剣と剣がぶつかった激しい轟音が実技場を包み込む。
フラムの剣撃を見事に防ぎきることには成功したが、フラムの腕力によって俺は土埃を巻き上げつつ、踏ん張った両足で二本の線を生み出しながら後方へと押し出された。
俺は剣撃を防いだ際に手首の骨が砕けた音を聞いていたが『自己再生』によってすでに骨折は修復されている。
ここ最近は『金剛堅固』を常時発動させているのだが、それにも関わらずフラムの攻撃力は俺の防御力を上回っていたため、この様な怪我を負ってしまった。
――いってえぇぇ! フラムめ、俺がスキル『自己再生』を持ってるからといって多少怪我をさせても大丈夫とか思ってるな、絶対。いくら治るといっても痛みはあるんだぞ!
互いの距離が一旦離れ、一息吐けるかと思いきやフラムがそれを許さない。
再び俺との間合いを一気に詰め、先ほどと同じように上段から竜王剣を片手で振り下ろす。
俺は今度は回避を選択せずにフラムの剣撃を自らの剣で受け流した。フラムの圧倒的な攻撃力を相手に真っ向から剣を打ち合うのは不利だと判断したからである。
そこからフラムは竜王剣を片手で振り回しながら、幾度となく攻撃を繰り返すが、その全てを受け流す。しかしいくら攻撃を受け流すことができても、攻撃に転じる隙を与えてはもらえない。
「主よ、楽しいぞ!」
剣を振り回しながらそんな事をフラムは言い出す。
「それは良かった――ねっ!」
その言葉と共にフラムの剣を無理矢理に弾き、攻勢に移ろうとしたのだが――
「「あっ!」」
俺とフラムの声が重なる。
原因はフラムの剣を弾こうとしたところで俺の剣が中ほどからポッキリと折れてしまったことにあった。
「一分経ったよ」
そして剣が折れたタイミングでディアから終了の合図を告げられたのだった。
「流石は主だな。軽々と私の剣を受け流すとは驚いたぞ」
模擬戦が終了し、一息吐いているとフラムからそんな会話が振られる。
「え? 軽々とやってるように見えた? 額の汗を見てほしいんだけど」
俺の額からは汗が止めどなく吹き出しており、未だに呼吸も整っていない。
そんな様子の俺を見たフラムはごまかすように俺から視線を逸らす。
「ま、まあ、それよりも剣が折れるとは思わなかったぞ」
「あの剣は学院の備品だから、普段俺が使ってる武器と比べると安物だからしょうがないよ。でもこの折れた剣をどうしよう……」
「主のスキルで異空間に隠そう」
「いや、生徒たちに見られてるから」
結局、後日正直に学院長に話したところ弁償の必要はないとのことだった。
――――――――――――――――――――――
二人の模擬戦が終わった数分前の観客席。
紅介とフラムの模擬戦が始まり、観客席に座って見学をしている生徒たちは二人の戦いを呆然と眺めていた。
目にも留まらぬ速さの戦闘に声が出せなくなっていたのだ。
静まり返る観客席には剣と剣がぶつかる金属音だけが響き渡る。
僅か一分という短い時間での戦いにも関わらず、内容は濃密なもので生徒たち全員が二人の模擬戦に集中していた。
そして紅介の持っていた剣が折れ、模擬戦が終了すると共に観客席のいた生徒たちからざわめきが起こり始める。
「凄かったな……」
「あれがコースケ先生とフラム先生の実力か。やっぱ俺たち生徒にはかなりの手加減をしてたみたいだ」
「でもコースケ先生は魔法系スキルも使えるはずだし、本当の実力はまだ出してないと思うわ」
「フラム先生だってあれだけの戦闘をしていたのに呼吸が全く乱れてない様に見えるぜ」
「あの二人は本当に同じ人間なのか? 俺たちもあそこまで強くなれるのか?」
「無理だろ。流石に」
そういった会話が生徒たちの間で交わされている時、アリシアは未だに声の一つもあげることができないでいた。
アリシアの隣に座っていたリゼットはそんなアリシアが気になり、声を掛ける。
「アリシア様どういたしましたか?」
「……」
「アリシア様?」
リゼットから二度話し掛けられたことによって、ようやくアリシアの意識が戻ってきた。
「リゼット、ごめんなさい。少しぼーっとしていました」
「そうでしたか。それにしても今の戦いは……」
「ええ、信じられないものでした」
再びアリシアの意識は先ほどまでの戦闘へと旅立つ。
(先生方の速さ、剣技、立ち回り。私では何一つとして勝っているところはありませんね。一体どれ程の実力をお持ちなのでしょう……。本当に同じ人間なのでしょうか。そういえば、お父様は先生方を『特別』だと仰っていましたが、やはりあの強さには何か秘密が……)
その後紅介から解散の指示が出され、生徒たちは帰宅することになった。
――――――――――――――――――
フラムとの模擬戦を行った翌日、俺たち三人は授業の前に学院長から呼び出しを受け、学院長室に来ていた。
「学院長、何か用件でもあるんですか?」
学院長と雑談などをせずに俺は早速、呼び出された理由を尋ねることにする。
「三日後にコースケ君たちが担当をしているSクラスの実地訓練があるのじゃよ。それを伝えるのを忘れていてのぉ」
三日後にそんなものがあるのに伝え忘れないでほしいと内心思いながらも、会話を続ける。
「実地訓練ですか? どんなことをするのですか?」
「王都から歩いて二日ほどの距離にダンジョンがあるのじゃが、そこで訓練を行うのじゃよ。それで『紅』には生徒たちの引率をしてほしい」
「引率するのは構いませんが、危険ではありませんか? 以前ダンジョンへ入ったことがありますが、生半可な実力では怪我では済まないと思います」
「この実地訓練は毎年、三年のSクラスの生徒たちは行っている行事じゃ。過去に怪我人こそおったが、死者はでていない。それにそのダンジョンの難易度は低いのじゃよ」
それなら問題ないかな? 俺たち三人が生徒たちを護衛すれば何とかなるか。
「わかりました。俺たち三人が生徒たちの護衛をします」
「いや、それでは訓練にはならんよ。最低限の援護だけに留めてほしい」
言われてみれば確かにそうだ。俺たち三人が魔物を倒してしまったら何の訓練にもならない。
「確かにそうですね。それでそのダンジョンでどれ程の期間、訓練をするつもりですか?」
「ダンジョンは全十階層なのじゃが、それを攻略した時点で終了となる。例年だと三日もあれば攻略できておったな」
そうなると往復で一週間ほどの訓練になるけど、王族や貴族の子供なのによくそんな訓練をするなぁ。親は何も言わないんだろうか。まあ国王様なら気軽に「頑張ってこい」とか言いそうだけど。
こうして三日後、ダンジョンで実地訓練を行うことになったのだった。
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