第8話 スキル
俺は扉を開け中に入ると、リディアさんに言われた通りすぐに鍵を掛けた。
部屋はわずか一畳ほどの広さしかなく、床に便座が置いてあったらトイレだと勘違いするような狭い部屋だ。そしてその部屋の正面の壁には四角い鏡のようなものが掛けられている。
その鏡のような魔道具は、黒い額縁で囲われていて、かなり精巧に紋様のような彫刻が施されており、さらにいくつか紫と黒の中間色の石が嵌め込まれているのが見てとれる。
これがスキルを調べることができるっていう魔道具か。少し緊張してきたぞ。一体ラフィーラは俺にどんなスキルをくれたのか……。
緊張をほぐすために軽く深呼吸をしたあと、俺は意を決して指に針を刺す。
チクッと軽い痛みを感じると指先からわずかに血が流れてくる。そして血が流れる指先を魔道具の鏡のような部分に押し当てた。
すると、途端に鏡のような部分がゆらゆらと揺らめきだし、文字を浮かべ上がらせていく。
そこにはこう書かれてあった。
―――――――――――――――――――――
身体能力上昇・極大、魔力量上昇・極大、血流操作、対象の血に触れることで任意のスキルを複写し、獲得
あらゆる言語の理解
――――――――――――――――――
…………。
唖然としていたが、『血の支配者』っていうスキルはやばいスキルだと思う。身体能力と魔力の上昇もやばいとは思うけど、何よりスキルのコピーがやばい。やばいばかり言ってる自分の語彙力もやばい。
このスキルは絶対に他の人には言わないようにしよう。自分のスキルがコピーされる可能性がある相手には警戒するだろうし、いらぬトラブルに巻き込まれてしまいそうだ。
もう一つのスキルはラフィーラに異世界の言葉を理解できるようにするためにお願いしたスキルだな。これは特に他の効果はないっぽいし、気にすることはないかな。
俺はかなり困惑しながらも、ひとまずはこの部屋から出ることにした。長い間ここにいたらリディアさんに何かあったのかと思われるだろう。
あの人、直感のスキルがあるから鋭いしな。まあ、あの人ならこのスキルの事を知られたとしても黙っていてくれる気もするけど……。
俺は扉の鍵を開けてから部屋を後にし、リディアさんがいる受付に戻る。
「おかえりなさい。スキルの確認はできたかしら?」
「はい。おかげさまでスキルを確認できました」
「それはよかったわね。それでコースケ君、登録用紙のスキルの記入欄はどうする? 記入することによってパーティーを募集する際に自分のスキルを開示しておくことでパーティーを組みやすくするっていうメリットもあるけれど」
そんなメリットもあるのか。でも今のところパーティーを組むことは考えていないしな。スキルがばれるデメリットの方が大きいし、ここは断ろう。
「いえ、今のところパーティーを組むことを考えていないので、空欄にしておくことにします。あっ、リディアさん、スキルについて自分は何も知らないので知っていることがあれば教えてもらえませんか?」
この際だからスキルについて詳しく話を聞きたいのでリディアさんに聞くことにする。
「あなた、スキルについて何も知らないなんて一体どんな田舎から来たのかしら」
「ははははは……」
異世界から来ました! なんて言えるはずもないので、そのまま田舎者ということにしとこう。
「まあいいわ、それじゃあ説明するわね。まずスキルというものは知性のある生物なら必ず一つは持っていると言われているわ。ただ、魔物以外の動植物などにはスキルは発現しないの。その代わりにスキルの欠片と呼ばれているものを持っていることが研究者によって確認されているわ。そして、コースケ君もわかっているとは思うけど、魔物以外の生物で必ずスキルを持っているのは、一部の例外を除くと、人類だけよ」
なるほど、ラフィーラは全ての生物がスキルを持っている世界と言っていたけど、魔物以外の動植物はスキルが発現していないのか。
確かに街にいる犬や猫などがいきなりスキルを使ったら驚きだ。
「そうなんですか。今の話を聞いて疑問に思ったのですが、何故魔物と人類だけがスキルを必ず持っているんですか?」
「ごめんなさい、そこまでは私にはわからないわ。ただ、教会の人達が言うには、人類は神に選ばれ、スキルを授かった、なんてことを言っていたわね。まあ、本当の所はどうなのか知らないけどね」
今のリディアさんの渋い顔をみる限り、リディアさんはあまり教会を信用していないっぽいな。俺も人類は神に選ばれたなんて話は話し半分に聞いておくことにしよう。
「話が逸れそうだから戻すわね。それで必ず一つはスキルを持っているって言ったけど、もちろん複数のスキルを持っている人も魔物もいるわ。スキルというものは種類にもよるのだけれども、戦闘系のスキルだったら身体能力が上がったり、魔力が増えたりなど様々な効果をもたらすの。だからスキルを複数持っている魔物はかなり強い可能性が高いのよ。あと、高ランク冒険者の人達はおそらくかなりの数のスキルを持っていると思うわ」
ということは多くの戦闘系スキルを手に入れることができれば、どんどん強くなれるってことか。だけど、俺の場合『
俺はそう疑問に思い、リディアさんに聞いてみる。
「高ランクの冒険者の人達は複数スキルを持っているという話なんですが、どうやってそんなにスキルを手に入れるんでしょうか?」
「コースケ君も強くなりたいのなら気になるわよね。まずは生まれたときからスキルを複数持っているパターンね。これはどうしようもないから気にしないことね。それでスキルを後から手に入れる方法だけれど、一つはひたすら鍛練をすることよ」
「えっ? そんなことで手に入れることができるんですか?」
「そんなこととあなたは言ったけど、結構大変なのよ? 例えば剣の鍛練をしたり、剣を使って魔物を多く倒したりして、剣術のスキルを獲得することができるけれど、センスがない人だと数年かかることだってあるんだから」
そう聞くと意外に大変なんだなあ。一朝一夕で手に入れることはできないのか。
「それと魔法に関しては、いくら努力しても使えるようになれる人はほんの一握りの人たちだけよ。とはいっても、一定以上の魔力量があれば、スキルがなくても簡単な魔法だけなら訓練次第で使えるようにはなるわ。ただ、まともに戦闘で使おうと思うなら、やっぱりスキルが必要になるわね」
魔法は魔力量によっては全くといっていいほど使えないのか。ただ、魔法系統スキルを手に入れさえすれば、魔力量が上昇するから使えるようにはなりそうだ。
問題は魔法を使えなければ鍛練のしようがないし、そう簡単に魔法系統スキルが手に入らなそうなことだろうか。
「それで他にスキルを手に入れる方法だけど、ダンジョンや遺跡などで稀に
「やはりとても高価なのですか?」
そういうとリディアさんはこくりと頷いた。
「そうなの。それ一冊で一等地に立派な屋敷を建てることができるほどのお金が必要になるわ」
一体いくらくらいするんだろう。やっぱり簡単にスキルが手に入るならそれだけの金を払う人がいるのか。
「他のスキルを手に入れる方法なのだけど、強力な魔物を倒すことによって、魂の器が満たされてスキルを獲得できることがあるという話を聞いたことがあるわ。これはあくまでも聞いたことがあるという程度の話だから、確証はないけれど。これで私が知っているスキルを手に入れる方法は全部よ」
そんな方法があるのか。ただ、今聞いた話だとやっぱりそう簡単には新しいスキルを手に入れるのは難しいってことか。
「有益な情報でした。ありがとうございます。あの……まだスキルについて気になることがあるんですけどいいですか?」
「しょうがないわね。それで気になることって何かしら?」
「スキルのレアリティみたいなものって何なんですか? あとスキルにLvがあるみたいなんですけど、あれは一体?」
そう俺が言うとリディアさんはニヤリとした表情を浮かべた。
「それが気になったということはコースケ君、あなた珍しいスキルを持っているみたいね?」
げっ! なんで気づかれたんだ!? 直感のスキルでも働いたのか?
「あなた、かなり驚いた顔をしているわよ。言っておくけど、直感が働いたわけじゃないわ。なんで私がわかったのかというと、スキルにはあなたが考えた通りレアリティがあるのだけど、一般的なスキルは、さっきあなたが使ったスキルを調べる魔道具で『スキル ○○』みたいに表示されるの。こうやって表示されたらスキルについて何も知らない人なら、レアリティがあるとは気づかないはずだもの。ちなみにスキルの頭に何もついていないものはノーマルスキルとも呼ばれているわね」
気づかぬ間に墓穴を掘っていたらしい……。
「そ、そうだったんですね」
半分自供したようなものだが、しょうがない。自分が無知だったのが悪い。
「はぁ……探ったりしないから安心しなさい」
リディアさんは俺に対して呆れながらもそう言ってくれた。
「レアリティなんだけど上から、
……ん? おかしくないか?
俺のスキル『
なら、なおさら誰にも言わない方が良さそうだ。絶対に大騒ぎになってしまう。もしバレてしまい、スキルについて言及されても『神様にもらいました』なんていえるはずもないし。
俺は表情を変えないように努力しながらリディアさんの話の続きを聞く。
「レアリティは単に珍しいってことでもあるんだけど、それよりもそのスキルの能力が主に関係しているの。
「そうなんですね。レアリティについては理解できましたけど、スキルのLvは熟練度みたいなものですか?」
「スキルのLvが上がるとスキルの効果が上昇したり、スキルの能力が新たに増えたりするの。ちなみに最大Lvの10レベルになったときにはスキルが進化する可能性もあるのよ。だからもしノーマルスキルしか持っていない人でも
ということは、俺の持っている2つのスキルはすでに完成されてしまっていると考えるべきかもしれないな。まあ『万能言語』はただの翻訳スキルだからどうでもいいけど。
「スキルのLvは使っていけば勝手に上がるものですか?」
「そうね。使えばLvは上がっていくわよ。でも、普通に使うよりも魔物を倒したほうがLvが上がりやすいとは言われているわ。理由はわかっていないのだけどね」
かなりの時間、スキルについてリディアさんに多くの質問をしてしまったが、かなり有益な話を聞けた。これでスキルについて聞くべきことはほとんど聞いただろう。
「リディアさん、スキルについて聞きたいことは全部聞けました。本当にありがとうございました」
「気にしないでいいわよ。それじゃ、本来の目的である冒険者登録を進めましょうか」
リディアさんはそういい、俺の冒険者登録を進めるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます