夢オチ
水谷一志
第1話 夢オチ
夢オチ
一
僕の夢は、総理大臣になることだ。
そして、総理大臣になって、この国を良くしたい。僕はそんな思いを持っている。
ちなみに僕は高校生。そして勉強の方は…、まあできなくはないが総理大臣になるレベルではない…気がする。
『このままではマズい…もっと勉強しないと夢に近づけない…。』
僕はそんな思いも持ちながら、日々を過ごしている。
そしてそんな僕は…、その日の夜も眠りにつき、ある夢を見た。
二
「総理、総理!起きてください!」
僕がスマホのコールで起こされ、ウトウトしながら電話に出ると…。
大人の男性と思われる人からの電話であった。
「あ、すみません…。
誰ですか?」
「何を言ってるんですか総理!秘書の田中です!
早く準備をして頂かないと遅刻しますよ!」
…ん?
僕は高校生、のはずなのだが…。
!
というかここは僕の部屋ではない。ここはもっと広い部屋だ…よく見ると。
「すみません…ここはどこですか?」
「何言ってるんですか総理!あなたが暮らしている首相官邸に決まってるじゃないですか!
寝ぼけてないで準備してください!いつも私に頼って起きるのはよくないですよ、総理!」
…えっ!?
僕は総理!?どういうことだ?
!
そうか、これは「僕の夢」だ!
そう考え合点がいった僕は、その夢の中の「田中さん」…僕の秘書に、
「すみません寝ぼけてました。
すぐ準備します!」
と言って電話を切る。
そして僕は半ば無意識に任せて動く。するとスーツ・ネクタイのある場所は体が勝手に覚えていて…、僕はスーツスタイルに着替える。
『スーツ、あんまり着たことないけど…、意外と似合ってるな!』
僕は一人そう思いながら悦に入る。
『いっけね!そんなこと思ってる場合じゃない!
早く準備しないと…!』
僕はスーツスタイルへの自己満足からすぐに脱出し、部屋を出る。
そして…、僕の「総理大臣としての1日」が始まった。
三
僕には、総理大臣になったらやりたかったことがある。
それは「大学教育の無償化」だ。
そう、これからのこの国は教育に力を入れなければならない。そうしないと特に貧しい若者が希望する職につけず、格差がより広がってしまう…。僕はそんなこの国の現状に若干の焦りを持っていた。
『そうだ!僕は夢の中とはいえ、総理大臣になったんだ!
なら自分のやりたいことをやろう!』
僕はそう思い、委員会でその件について提案する。
しかしというかやはりというか、僕のやりたいことへの「抵抗勢力」が存在していた。
「総理、お気持ちは分かります。しかしですね、そんな財源、この国にあるわけないじゃないですか。
大学教育無償化を実現する財源はどこから捻出するおつもりですか?」
「そ、それは…。」
そう、それは現実の「僕」も頭を悩ませる問題。
財源だ。
この国の財政はひっ迫している。それは高校生の僕も知っている。
しかし僕はその状況を何とかしたい、したいのだが…。
アイデアが出てこない。
「とりあえずお昼の休憩にしましょう。」
委員会の他のメンバーがそう言い、とりあえず僕たちは休憩することとなった。
四
「これだから若い総理はダメなんだよ…。」
「そうだな…。」
昼の休憩時間。僕はたまたまトイレの大便器の方に座っていた。
するとそのトイレのドアの方から、おそらく小便器に立っているであろう他の委員会のメンバーがひそひそ話をしているのを、僕は聞いてしまう。
そして、僕が思ったのは…、
「悔しい」という一言だ。
『ここは夢だからといって妥協するわけにはいかない。
そうだ、『抵抗勢力』を説き伏せて、何とか自分の政策を実現させないと…。
それが、この国のためだ!』
そう、僕は気合いを入れた。
その後の委員会、また本会議では、結局議論は平行線をたどった。
『でも、ここで負けてられない…。』
僕は自分の新たな「家」である首相官邸に戻る道すがら、そう思った。
五
『でも、僕がここで寝てしまうと、元の高校生の生活に戻るんだよな…。』
首相官邸のベッドの上で僕はそんなことを思う。
思えば、この1日は色々あった。自分の夢である政策を述べる時の喜び、またそれが抵抗勢力に当たった時の悔しさ…。とにかく僕は、この「1日」で色んな経験をした。
『この経験は、僕が夢から覚めた後も役に立つものだ。
これから…頑張ろう!』
僕はそう思い、短かったスーツ姿に別れを告げてパジャマになり、その日眠りについた。
※ ※ ※ ※
スマホのコールで、僕は目が覚めた。
『いっけね、また遅刻か?』
僕はそう思って電話に出る。すると…。
【総理、総理、起きてください!】
…えっ!?
『すみません、誰ですか?』
【昨日と同じですか?秘書の田中です。
早く起きてください!遅刻しますよ!】(終)
夢オチ 水谷一志 @baker_km
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