相手の幸せを願うフリをして、自分の幸せを願ってしまう僕に制裁を。

【お世話になりました】そうま

結婚式当日、とある新郎の心中。



 このままでいいのだろうか?


 雲ひとつない空の下、純白のドレスを着た君が僕の横に立っている。僕らの目の前には牧師か神父か分からないけれど、とりあえず白人の男性が立っていてカタコトの日本語を話している。僕も彼女も結婚式をするつもりはなかったのだが、彼女の両親がうるさかったので近場で安く済ませようとした結果、屋外で両親のみという形式になった。


 永遠の愛がどうとか、正直よく分からない。永遠に君を愛せる自信もなければ、本当に君を愛しているかと言われれば悩んでしまうだろう。いや、君のことは可愛いと思うし、性格も真面目で優しくて本当に魅力的だと思っている。尊敬もしている。ただ、この感情を愛なのかと言われたら悩んでしまう自分が居る。この人の横に居れば僕は幸せになれると思った。だから、僕から告白もプロポーズもした。彼女が僕の横で幸せなのかどうかは分からないし、申し訳ないが考えたことは数日前までなかった。


「はい、誓います」


 緊張した面持ちで、君は誓ってしまった。僕がこれからの人生で君にとても酷いことを言うかもしれないのに。君は一生僕を憎むかもしれないのに。僕は君のことを幸せにできないかもしれないのに。なのに、なのに誓ってしまった。


「ちょっと待った!」

「ゆうくん!?」

 慌てる両親たちと彼女。彼女の元彼だ、一昨日郵便受けに入れておいた手紙は読んでもらえたらしい。

「俺と一緒になれ! こいつなんかと幸せになるな!」

「なんで、なんでゆうくんが居るの!?」

 なぜだろう、ホッとしている自分が居る。ちゃんと来てくれた。これで彼女は幸せになれる。僕は……幸せにならなくていいや。

「彼女をよろしくお願いします」

「なんでしんちゃんはこの状況を受け入れてるの!?」

「俺が、この人を呼んだから。……幸せになれよ」

「しんちゃん!?」

 そう言って俺はこのあと指にはめる予定だった指輪を元彼に渡す。そして、俺の両親ということになっている人たちと会場を去る。


「ありがとうございました。本日の利用料金は1万5千円です」

「あの、お二人呼んでるので3万円では?」

「5回利用されると1回無料になるんです。いつも2人で利用されるんで一度で2回分のカウントで……」

 いつものファミレスで一時的に僕の母親をしてくれていた女性がタブレットで図を見せながら料金プランを説明してくれる。世の中便利だ、レンタル家族なんてものが存在する。今回とても助かった。本当の親は健在で、今日も2人で仲良く日帰りバスツアーに参加すると話していた。

「でも、よかったんですか」

「いいんです、これで」


 幸せなんてわからない。この選択がよかったのかも。でも。いいのだと思い込む。コップに残っていた気の抜けかけた炭酸飲料を飲み干した。

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相手の幸せを願うフリをして、自分の幸せを願ってしまう僕に制裁を。 【お世話になりました】そうま @souma0w0

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