episode 5

 「うっ・・・さすがにこの数の視線はこたえるな・・・・・・」


 俺はあの後、レイスのエスコートに身を任せる形で街をけ抜け、気づいたら彼女の所属する、純白の剣姫リリィ・ソードダンスの施設へと足を踏み入れていた。勢いよく入ったせいで元から中にいた者達の注意は俺達へ向けられ今の様な状況になったというわけだ。


 「それは仕方ないよ、私だって見ない顔が入ってきたら気になるし」

 「そういう問題じゃなくて・・・視線の数が・・・・・・」

 「精神的な鍛練たんれんだと思えばいいと思うよ?」

 「そう簡単に言わないでくれ」


 そんな会話をしながらも、俺とレイスは施設の奥の方へと歩みを進めていた。施設内はとても整備されており、壁には剣士用の剣と修練用と思しき木刀が備え付けられ、また休憩きゅうけい時間に読むのだろうか、比較的落ち着いた空間にはちょっとした書庫がもうけられていた。その他にも机の上の花瓶には花が生けられており、それだけでもかた苦しい剣士と言うイメージをなごやかなものにしていると思えた。

 俺にとってはここの少女剣士達の方が花のように思えたのはイラストレーターのはしくれとしての感受性かんじゅせいゆえのものなのかはさだかではない。


 「えっと、俺はこれからどうしたらいいのかな?」


 俺は施設の構造を理解することに必死で今自分がどこに向かっているのか分からなくなっていた。ただ、レイスについて歩くだけで精一杯せいいっぱいだったのだ。


 「とりあえず 団長に挨拶しに行かないと」

 「団長?」

 「私たちの組織の」

 「なるほど」

 「この扉の中が団長の部屋だよ」


 レイスに言われ、ようやく視認しにんしたのだが目の前にはいかにもな扉が出現していた。重厚な木造の扉は両手で前に押し出す形になっており、ニスでも塗っているのだろうか見る角度を少し変えるだけで陽の光を反射しあわあめ色にかがやく。俺はいつの間にか覚えた緊張感を落ち着かせようと、深く息を吸って、そして吐いた。その動作を数回繰り返すうちに胸の鼓動も落ち着きを取り戻し、平常な緊張感だけが残った。この緊張感は今の俺にはなくてはならないものだろう。これが唯一、俺の誤行動を体感的なアラームで知らせてくれる装置になりうるからだ。


 「セリカ団長 少しよろしいでしょうか?」


 レイスが扉越しに室内にいるであろうしゅに呼び掛けた。


 「入れ」


 すると中から女の人の声が聞こえ、部屋に入った。団長と言うだけあって屈強な男の剣士と勝手に想像していたのだがどうやらそれは大きな間違えだったようだ。それに、剣姫という名がついている時点で男の要素が感じられない。


 「それで レイス何の用だ?」

 「セリカ団長にお話があり来た所存しょぞんです」

 「なるほど あながち、そこの少年についてだと思うのだが違うか?」

 「は、はい!あってます」


 セリカと言う、この組織の団長はレイスと同じで白い髪をしていた。そこでまず最初に思ったのがこの人もレイスと同じで《反転の呪い》をかけられた一人なのではないかと。


 「そこ、レイスの後ろにいるのではなくもっとこちらに来い」

 「はい」


 セリカは俺をレイスの横に並ばせた。まるで、任務の報告をさせられている様な感覚に俺は少し高揚感こうようかんを覚えていた。もちろん、今はそんな状況ではないのだが・・・。


 「名を何という?」

 「えーと、キットて言います」

 「キット・・・それで姓は?」

 「・・・・・・っ」


 これは盲点だった。名前には普通、姓と名が存在するのは分かり切っているはずだったのにこの世界に来てから、《キット》という名をあまりに頼りにしすぎていた。確かに名前の方は違和感なく使うことができるが書類やサインと言った事柄ことがらにはこれだけでは不利だということに今気づく。

 もしここで、現実世界_つまり、俺のいた世界の名を名乗り直せば、先ほどのキットと言う名前が何だったのかと、疑問を生じさせてしまう。これは適当に言いくるめればむ話なのだろうがこのセリカという女性にはそのたぐいは通用しないと直感的に思ってしまう。小さな疑問は、誤解を生み、やがて不信感へと発展する。それは、この組織内に身を置くことになるかもしれない俺にとっては一番の危険だった。


 「黙っていては、分からない」

 「・・・」


 やはり、黙り込んでしまう。


 「ねぇ、キット。キットが目指してるものって何だったけ?」

 「レイス 人の話をさえぎるのは不敬ふけいに値するぞ」

 「すみません・・・・・・以後気を付けます・・・」


 レイスは礼儀作法れいぎさほうがなっていないのではない。この行動は俺への助けぶねだということは瞬時に理解できた。出来たのだが・・・その意図がくみ取れなかった。この致命的なミスにレイスは気づく様子も無く、ただセリカに注意されたことで気分が下がっているように見えた。レイスにここまでさせて再び沈黙ちんもくを起こすことは許されない。

 俺は平常運転だった思考を強制的にフル稼働かどうさせ、思考をめぐらせた。

 今の俺に与えられた、情報は《俺が目指しているもの》_イラストレーターだ。この一つの情報でどれだけ、レイスの思惑しわくに近づけるだろうか。

 そして、今、解決しないといけないのがキットという名前にともなう《姓》をセリカに伝えること。

 俺は一旦、名前の事は忘れ、レイスの言葉に注目してみた。

 それは、「キットが目指しているもの」の文章だ。恐らくこれは、言うまでもなく、《イラストレーター》を指す。そして、何故、今この状況下でそんなことを聞いたのか?考えた結果、辿たどり着けた結果はいたってシンプルで多分、このキーワードから姓を考えて、と言うわけだろう。もし、この判断が正しければ俺は《イラストレーター》というかなり長い単語から、違和感の名前を見つけないといけないことになる。無茶だと目の前の白髪に言いたいところだがそれはまず無理だろう。精一杯のサポートをしてくれた彼女にこんな泣き言が言えないのもあるがそれよりも、日常的な口調をセリカという団長の前でしゃべることの方が俺には気が引けた。


 (イラストレーター・・・ラストレーター・・・レーター・・・レイター・・・・・・《レイター》!)


 突然、イラストの構図が思い浮かんだように俺の脳裏のうりにレイターという単語が浮かんだ。目立つわけでもなく、長くない、そして、気に入った。その時から、俺の純白の剣姫リリィ・ソードダンス内での名前_


 キット・レイターとなった。


 「レイター、キット=レイターです」


 俺は今、生成せいせいしたばかりの単語を確かめ言葉でなぞる様に発音した。その時、スッと何かが軽くなるような感覚が伝わった。これは多分、この世界の一人一員となった感覚なのだろう。今までのその場しのぎの名前ではなく、誰もが持っているフルネームを発音したことで俺の心の奥底にある、異世界との距離感が消えたのだろう。逆に言えば、それは俺の世界との断絶を意味していた。


 「キット=レイターか了解した」

 「よろしくお願いします」

 「そういえば まだ名乗っていなかったな、私は_セリカ=グランシストだ」


 セリカの言葉を聞いたレイスは、ほっとした表情をこちらに向けてきた。そして、小さめの声で「いい名前だね」とつぶやいた。


 「して、ここに来たということは何か他に用があるのではないか?」

 「はい、私レシウル=ロイは任務の効率的な遂行すいこうはかりたいため、このキット=レイターを副団長補佐ふくだんちょうほさ役のそば付きとして、行動を共にしたいと思っております。その許可をいただきにまいりました」

 「なるほど、言いたいことは部屋に入って来た時から察してはいたがなぜ、その者を選んだのか理由はあるのか?」


 セリカは答えづらく、一番聞かれたくない事をピンポイントで突いてきた。


 「そ、それは・・・・・・今は言えません」

 「言えない・・・か。まぁいい」

 「それではっ!」

 「許可するとは言ってないはずだが?」

 「う・・・」

 「だが、こちらからも提案を出そう」

 「それはどんな?」

 「その者がお前の傍付きとしてふさわしいか判断するために一つ事を乗り越えてもらう。お前の様な副団長が傍付きにしたいと言うからにはそれなりの《何か》があるはず」

 

 結論から言うと、俺にはその《何か》はある。しかし。それはセリカが思い描いているであろう、戦闘的なものではない。もちろん、俺に戦闘的な何かでひいでたものがあるのならば、こんなことにはなってない。

 そして、セリカから出される《事》は恐らく、戦闘的な判断基準があるのだろう。


 「それはどのような?」

 「二日後、キットには組織の者と一対一の模擬もぎ試合をしてもらう」

 「模擬試合ですか・・・・・・」

 「もちろん、対戦相手はお前ではない」

 「では誰が?」

 「対戦相手を明かすことはそちら側にとって有利な情報にはなるが今回は明かしておくよ。《ディセル》だ」


 聞きなれない新たな名前が聞こえた。

 

 「・・・・・・ディセルですか。わかりました」

 「対戦はここの修練上を使うことにする」

 「はい」

 「では用が済んだのなら速やかに持ち場に戻る様に」


 対戦相手と場所を告げられた後、俺とレイスは部屋を後にしようとした。

 レイスの方は早々に部屋を出ていたせいか、俺がセリカに呼び止められていることに気づいていなかった。


 「キット 君は何故なぜあの子と一緒にいるの?」


 突然、セリカの口調がかた苦しいものから、少女のものへと変わったことに俺は驚きを隠せなかった。


 「えっ・・・!?」

 「答えて」

 「それは言えない」


 セリカの話し方につられ俺も普段の喋り方になっていた。


 「君も《本当の事》は言ってくれないんだね____」

 「それはどういう意味で?」

 「自分が一番知っているくせに」

 「・・・」

 「言えないなら この部屋から出て行って。悲しいだけだから____」


 セリカが何を言いたくて、何を俺に求めたのかは見当けんとうもつかなかった。それと、彼女の態度の変わりようは意図的なものではなく、きっと、こっちが彼女の本当の姿なのではないかと思った。

 どちらにせよ、今の俺にセリカをどうにかできる手段を持ち合わせてはいない

事ははっきりしていた。だから、俺は彼女に言われた通り、部屋を後にすることにした。


 「セリカさんもイラストとか描くんですか?」


 俺は去りぎわ、彼女の机に置いてある物に目がいった。机の上には羽ペンと大量の書類、それに使い古された地図と書き込まれた地図が壁に貼ってあった。その中で俺は一つだけこの部屋に見合わない物を見つけていた。それは、A4のコピー用紙にも似た紙に描かれた、白い髪の少女の絵だった。それも液タブが存在しないこの世界なのに、鮮やかで鮮明な線はまるで液タブで描かれた絵のようだった。


 「描かない____」


 うつむいたセリカは左手の薬指に付けている指輪の様なものを見つめながらそう言った。そして、時折見せる儚く悲しい表情に俺はそれ以上何も言えず最後に一言ひとこと、言い残す形で部屋を出た。


 「そうですか____俺はイラストを描くのが好きです」

 「・・・っ!」


 一瞬、セリカが息をんだ。しかし、彼女の反応はそれだけだった。


 「それじゃあ、俺は行きます」


 部屋を出る際に俺はセリカの事が気になり、再度、彼女の顔を見た。

 その顔は窓から指した光のせいかそれとも生理現象かは確かめることができなかったが左の目尻に光るモノを見た気がした。



_____________________________________


 「部屋からなかなか出てこないから心配したよ 何かあったの?」

 「あー、別に何もないかな?」

 「本当は何か聞かれたんじゃないの?」

 「・・・・・・レイスについてかな」


 もちろん、嘘なのだが俺は少しの間、いたずらごころに会話を任せた。


 「私について!?え、何て言ってたの?」

 「言わない方がいいかも・・・・・・」


 俺はわざと言葉の最後に力を抜くように話、顔を若干じゃっかんせた。


 「お願い、何て言ってたのか教えて!」

 「君はレシウルのことが好きなのか?と?言われた」

 「・・・・・・えっ?」

 「だから、言わない方が良いって言ったのに・・・」

 「それは間違いなく、嘘」


 俺の言葉を聞いてレイスは先ほどまでの赤面した表情を解き、いつもの真面目な顔になった。この表情の変わりようは俺にも予想外で思わず、不味いことを・・・もっと言えば彼女にとっての言葉の逆鱗げきりんに触れたのではないかと思ってしまった。俺にだってある。それは_イラストが上手くなれなければ死ぬと心に決めた意思を軽率な発言ととらえられた時だ。はたから見たら、「何もイラストごときにそこまで覚悟する?」と言った事柄ことがらを言われたときは、やはり他人には自分の気持ちは伝わらないのだと痛感つうかんした覚えがある。


 「何で嘘ってわかったんだ?」

 「やっぱり・・・」

 「まさか はめたのか?」

 「それもあるけど、セリカ団長がそんな事、聞くはずない・・・いや聞けないはずだもん・・・・・・」

 「それはどういう?」

 「団長には昔____」


 レイスがセリカの過去について、何かを語ろうとした時、会話を中断させる形で《事》が起こった。


 「あわわっ!二人ともーーーー!けてくださいーーーーーー!!」


 突然耳に響くように聞こえた、声。俺とレイスは団長の居た部屋の方を向いていたため背後からのそれに瞬時に反応することができなかった。それでも俺より数秒反応速度が速かったレイスは目の前の光景を一瞬いっしゅん把握はあくし、言葉を発した。


 「キット 伏せて!」

 「えっ!」


 数秒遅れて、振り返った俺の目に映ったのは白いワンピースに白い髪、そしてつまずいた拍子ひょうしで手から離れ、ちゅういている、シルバーのトレー、ティーソーサー、それから離れたティーカップが中の珈琲とおぼしき液体を空間上にぶちまけ始めている光景だった。


 「うわっ!」


 条件反射じょうけんはんしゃで目を閉じた俺はこれから起こるであろう、衝撃音と少しの熱さにえる覚悟をした。時間で言えば、ほんの数秒でそれは始まりそれは終わる。そう思い俺は閉じた瞳の中で存在している暗い海に意識を預けた。


 「____」

 「___?」

 「__あれ?」


 何も起こらず、ただ意識の海にいた俺はその中で思った。


 (今、一瞬だったけど、思考が止まったような・・・この時間は何なんだ?)


 「間一髪ってところでしたね?あと少し遅かったら、大惨事でした・・・」


 目を開けると、つい先ほどまで視界の目の前にいたレイスと同じ白髪の少女が今度は俺とレイスの反対側にいた。そして、何より驚いたのは床にぶちまけて掃除そうじ余儀よぎなくさせるはずの液体が一滴も地面にこぼれていないことだった。それどころか、空間上で彼女の手から飛ばされた、その他の食器も全て彼女がつまずく前の様に持っていたことだった。


 「今何が起こったんだ?」

 「私にも分からない」


 レイスも目の前で起こった現象に頭の整理がつかないらしく、ただ立ち尽くしていた。


 「ふふふ、知りたいですか?今何が起こったのかを」


 もう一人の白髪は俺達の会話を聞いてのせいか、驚いた様子を見たせいか不敵でいたずらっ子ぽい笑みを浮かべ、俺達に疑問の回答が必要かを聞いてきた。


 「まぁ、気にならないって言ったら嘘にはなるけど・・・」

 「そうだね・・・」

 「分かりました、それでは教えましょう!」


 白髪(名前不明)は俺達が答えを聞きたそうな雰囲気を出した途端とたん、瞳を輝かせ、元気よく話し始めた。


 「レイスちゃんは私のここでの仕事知ってますよね?」

 「お茶くみでしょ?」

 「そうだけど・・・もっと、こう いい呼び名とかないですか?」

 「そんなこと言われても、今は《お茶くみのテレサ》って呼び名が定着してるから、今更いまさら変えなくても・・・・・・」


 どうやら、彼女の名前はテレサというらしい。ここでの仕事もお茶くみと言ったいかにも戦いとは無縁な役割と彼女の白い容姿、そしてその名前は某人気ゲームの敵キャラのそれと雰囲気が一致いっちしていた。それをまえると、テレサという名前は彼女にしっくりくるものを感じる。


 「わかったよー」

 「それで話の続きを聞いてもいいかな?」

 「あっそうだった!私はここでのお茶くみとしての仕事をを毎日欠かさず全うしてきました。それは、どんなときだって!しかし、その分 今の様に全てをぶちまけそうになることもしばしば・・・週に5回くらいでしょうか?」


 テレサの話を聞いて俺はレイスに質問した。この回答次第では俺は毎日今の様な光景を見なければいけなくなるかもしれないからと思ったからだ。


 「この世界には《一週間》ってあるのか?」

 「あるけど?そんな当たり前の事を何で聞くの?」

 「ちなみに日数は?」

 「7日間だけど、それがどうしたの?」

 「仕事の休みはあるのかな?」

 「ないとやっていけないよ。二日かな」

 「・・・・・・」


 ________答えは得た


 (テレサにお茶くみをやらせてはいけない)


 この事だけは初対面の俺でも断言できた。むしろ、今までなぜ彼女がお茶くみの仕事を辞めさせられることがなかったかの方が疑問だった。毎日今の様な事を起こしていたら流石さすがにここの子たちも迷惑がり、苦情の一つや二つは出るはずだ。それなのに何故、彼女はここで今の仕事を変えられないのだろうか?もしかしたら、この疑問こそがテレサが未だにその仕事をしていられる《真》に近づけるのではないかと俺は思った。


 「ま、ぶちまけたことは《一度》もないんですけどね」


 これだ!直感的に俺は確信した。これこそがテレサの《真》だ。あの状況で雫一つこぼさず、何事もなかったかのように仕事を続けるその鬼才な才能こそが彼女をここに留めているのではないか?だが、そんな器用なことができるのならお茶くみと言った誰でもできる仕事を彼女に任せるのは宝の持ち腐れではないのかと俺は思った。むしろ、周りもそう思っていないのだろうか。


 「一度もって・・・今初めて知った」

 「無理もないですよ、みなさん任務で朝は出計らってるし。後はここの掃除ぐらいで流石さすがにバケツをひっくり返したりはしないですから・・・・・・本当に」

 「そうだよね・・・」


 レイスも何かを感じたのだろう。例えば、テレサがその本質を見抜かれ今後戦いや任務への参加、等々などなど


 「そうだ、君は何て名前なんですか?私はテレサ、テレサ=プラダ。よろしくね」

 「俺は_キット=レイター。」

 「よろしく キット」

 「よろしく テレサ」


 俺はテレサの目を見てそう言った。シルクの様に白い肌と髪はレイスとはまた違ったあたたかさを感じさせた。まるで遠い日の記憶を胸の奥から思い出すようなその感覚に俺は言葉が出ず、ただじっと彼女を見つめていた。自然と穏やかな表情になった俺をレイスは横から見ていたのか俺とテレサの中にって入る様にせき払いをした。

 そして、レイスは耳元でささやいた。


 「君の理想被写体になれるのは私だけだから それだけは忘れないで____」

 「なっ____」


 突然の言葉に俺は一気に顔が赤くなるのが分かった。そして、その言葉を発したレイス自身も顔を赤くし咄嗟とっさに左腕で口元を隠す。そのセリフはどの《エロ同人誌》や《成人向け雑誌》などのセリフよりはるかに感じさせるものがあった。朝のベッドの上での出来事もそうだが、レイスは年齢に似合わない程の少女としての魅力可愛さを秘めていると俺は思わざるを得なかった。今更、思うことでもないことは俺自身が一番分かってはいたがそう思うことで彼女レイスを選んでよかったなと思う気持ちがより一層強く思えた。


 「何、内緒話してるんですか?」

 「な、何でもないよ・・・!?ね?キット」

 「う、うん」

 「そうなんだ。まぁ、仲がいいんですね。それじゃあ、私はセリカちゃんにこの珈琲を持って行かないといけないのでもう行きますね」

 「セリカ団長でしょ?テレサより年上なんだから年上の人には敬意をもって振る舞わないと。それに純白の剣姫リリィ・ソードダンスの団長なんだし」

 「年上と言っても、まだ19歳ですよね?ほとんど変わらないと思いますけど?」

 「団長の時点で振る舞い方には気を付けた方が良いと思うけど・・・」

 「うーん、わかりました」


 に落ちないと言いたげな表情でテレサはセリカの部屋の方へ歩いて行った。俺達も自分たちが今からやらなければいけない、事の為に歩みを進めた。

 

 コツコツコツと地面を踏み鳴らす足音が通路に響く。

 レイスと肩を並べ、通路を歩く。

 すれ違う人も無く、この時間と空間は今だけは完全に俺とレイスだけが占拠せんきょしていた。


 そんな時、テレサの声が聞こえた気がした。


 実質的には私の方がここの誰よりも年上なんですけどね________

 

 


 


 


 

 

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