Calling24 奪取

 なんだ、こりゃ……

 Lについた傷跡はなんだ?

 Lは私を超えるとかいう存在だ。

 こんな深手は負う筈ない。

 だとすればそれは。


「……」

「Ms.K……」

「言うな、オペレーター。お前の事だ、知ってんだろ。その上で会わせたんだな、私を、今」

「……」

「責めやしねぇさ。お前をな」

 オペレーターは人間にしてはよく分かってる方だ。だから責めない。


「……うう、さむい、さむいよ。だれ? だれ? じゃましないで!」


 聞こえたのは幼い小さな声。Lらしくない声がLから放たれる。


「おねえさん、だれ? じゃま、じゃましないでよ! ううううう!」


 うずくまり、唸る。

 ああ、これはアレだ。


「オペレーター、離れろ。危険だ」

 オペレーターは即時的に距離を取る。

 それとほぼ同じくして……


「ウグ、ウ、ガアアアアア!」


 獣の如き叫び。それに伴い放たれる俊敏な一撃で私とLは取っ組み合いになった。


「くっ、なんつーパワーだ!」


 凄まじいパワー。

 力任せの無茶苦茶な使い方。


 だが……


 足りない。

 足りていない。


 化物きょうしゃとして足りない。


 だから……


「ぬうぅん!」

――ゴキィ!


 容赦なく、殺すつもりで一撃をかます。

 多分死なないだろう。

 

「ア、ヴ、アあ!」


 衝撃にのた打ち回るL。

 でも、死なない。

 死んではいない。


「ワタシ、は、Kをコエる……だカら」


 Lもまた研究所に本能を奪われた。

 そうに違いない。

 ズタボロになるまで、グチャグチャになるまで弄りまわされ、研究所のいいなりにされた。



 成功作?

 そうだ、間違いなくLは成功作だ。

 だが……



「人間の都合で本能を奪う。だと?」

 虫唾が走る。

 LにはLの本能がある。

 だからLは自由であって然るべきだ。


「目ェ覚ませ、L。お前はお前だ」

「ワたシ、ハ、Kを、コエるタメ、に」

「違う。お前はお前として在る。超えるかどうかは後だ」

「ウウ……」

 多分届いていない。

 この声は届いていない。

 だが言わねばならない。

 Lと私の為に。


「グウ……ヴアアアア!」


 これを見れば分かる。

 何かしら――多分薬か制御装置か――でLは普段本能を殺されている。

 本能を我が物にする前から化物としての本能を抑え付けられたのだろう。あいつら失敗作と同じくして。

 それが今、暴走している。


「許せねぇ……」


 意図せずボソリと言葉が出た。

 まずはLを落ち着かせよう。


「オペレーター。お前、落ち着かせる方法知ってるよな?」

「……はい。この薬で」

「よこせ。私がやる」

――パシッ

 オペレーターから受け取ったのは注射器シリンジ

 今はこれしかない。


「ウウウ……」

「暫くこれで我慢してくれよ」

――カシュン!

「ゔあっ!」

 その声と共にLはぐったりと倒れた。


 ……行こう。今は無理だ。

 今のLとは戦えない。


「Ms.K。行きますか?」

「ああ」


 Lをベッドに戻し、部屋を後にする。




 

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