正しい花嫁修業のやり方~悲恋の勇者と王妃になりたくない魔王の場合~

メンヘライⅢ

序章~正しい魔王との戦い方~


「死になさい死になさい死になさい死になさい!」

 ヒステリックな声と共に、魔剣が紫色の軌道を描く。

 その魔剣を振り回しているのは、両手剣の魔剣よりも細身なのではないかとすら思える、赤髪の少女だ。

血走った眼に呪詛の言葉。

一見すると逆上して正気を失った女にしか見えないが、よく見るとその剣さばきは無駄がなく、非常に洗練されていることが分かる。

「っと……今のは惜しかったな!」

 狂気すら感じさせる彼女の怒涛の剣舞。

 しかし、余裕の笑みすら浮かべ、魔剣による連続斬撃を避け続けている小さなシルエットもまた、少女の姿をしている。それも、魔剣使いの少女よりもさらに小柄な少女の姿だ。

「どうして、どうして当たらないのよ……!」

 次第に、魔剣使いの少女の動きが鈍ってくる。

捉えたと思って撃ち込んだ必殺の一撃は、何度繰り返しても避けられてしまう。

そして悲しいかな、魔剣使いの少女は人間だった。激しい運動の対価として、彼女の身体は酸素を求め、やがてパンクし始める。

「おいおい、もうおしまいか? 今日はかすってすらいないぞ」

 対する小柄な少女は、息一つ乱していない。へたり込んでしまった魔剣使いの少女を見下ろし、拍子抜けしたような表情を浮かべている。「今日のお前、やっぱりなんだかおかしいぞ。どこか悪いのか?」

 そんな宿敵を忌々し気に見つめた魔剣使いの少女。

 やがて、彼女は魔剣を杖替わりに立ち上がると、もつれる足で部屋を出ていった。

「お、覚えておきなさい……! 次は絶対に容赦しないわよ!……魔王っ!」


 九十八戦目、敗走。ゼロ勝九十八敗。

 これが、魔剣使いの少女ラン・ヘーメライと魔王アンリ・マユの対戦成績であった。



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