第百十五話『創造神は、血を以って彩られる───』

 

 この世の創造神、モイラ・クロスティー。

 目の前に居るその『敵』は、死力を尽くしてでも倒すべき障害だと、僕は理解した。


 ならば僕は───未来視を使う。

 ああ……確かに、魔術によって弱体化を受けている今は、どう頑張っても使えないさ。

 けれど───。


 ♦︎


 ──────制約が在った。

 それは魔術を無効化するに値する技術を縛る、自分に課した絶対なる制約。

 それを破る事は、僕の生きてきた歴史が許さない。

 無闇に振るってはいけない力なんだ、これは『与えられたモノ』だから。

 でもやるならば───そうだね。


『意地でも倒すべき敵が現れた時』

『本気で自身の【正義】を降りかざせる時』

『自身の認めた敵がいる事』


『──────世界を救う為の戦いである事』

 これらの制約をクリアしていないと使う事は許されないし、何よりも───僕が許さない。

 だが、この制約は既に……解かれている。


 モイラは倒すべき敵。

 死力を尽くしてでも倒すべき敵。

 僕の正義を振りかざしてでも倒すべき敵。

 僕が認めた、数少ないとも

 世界を救う為に、必要な───ぎせい

 ───皮肉にも、モイラは全てクリアしている。


 ……僕は涙を吹いた。

 悲しいさ。

 あれだけ笑い合い、語り合った友を───自分の手で殺めねばならないとは。

 でも、やらなければどっちも死ぬんだ。

 だから何の問題も無い……と、言いたい。

 でも、だから……だからこそ。


 ──────だからこそ、僕は振るうよ。

 我が御身に享受されたこの力を、正義の為に。


「───赤眼解放」

 僕の目には、灼熱の如き赤眼が灯る。

 それは単純に魔力や、僕の能力を底上げした。


 ……だが、これだけじゃ無い。

 僕は、目の前に迫り来る紅い稲妻を静かに見据え、委ねる様に目を閉じた。

 空を鳴らす因果の稲妻。

 それは一直線に少年へと向かっていく。


 けれど、少年は動かず動じず。

 轟音を耳に、こう告げた。


『──────第二結界、最大解放───因果否定率……百%』


 言葉と共に僕の体は一瞬光り───因果の稲妻を否定した。

 そう、これこそが。


 ──────第二結界。

 それは、僕が『死力を尽くすべき敵』と判断した者にのみ見せる二つ目の鎧。

 物理・魔法全般のあらゆる攻撃から身を守る、常時展開の第一結界とは違い。


 第二結界とは。

 万象のあらゆる干渉から自身を守護する、特殊結界の最奥である。

 それは因果の稲妻をも弾き落とし、我が身をより高次元へと引き上げる。

 故に崩す事が出来ぬ、最良の概念武装。

 これを最大まで解放した暁には───僕はどんな概念干渉も受け付けぬ存在へと成る。

 そして、僕は閉じていた瞼を開ける。

 こう言いながら。


満目蕭条ノ眼ボーダム・アイ僕に……万象の終わりを見せておくれ」


 ───その目に灯っていたのは赤眼。そして淡く光る左眼が在った。

 右目の赤眼は能力そのものを底上げし。

 左目は、過去、現在、未来、全てを見通すかの如く透き通り、ただ前のみを見つめていた。


 極めて幻想的で神秘的な少年は、神の如き力を携え。

 周囲の大草原、目の前の創造神を達観しつつ───。


「では───【未来視ボーダム】」

 視た。


 物の終わりを。

 強制する様に。

 けれど慈しむ様に。

 その様はもう、彼を少年とすら豪語出来ぬ神聖さが在った。


 かくして『神童』は息を吸う。

 もう既に、視たから。

 目の前に佇む、創造神の……死を。


 心なしか、モイラも悟った様に動かなくなっていた。

 そして、少年はそのまま腕を──────。


「───済まない」

 払い、殺した。

 瞬間、跳ね飛ぶ大量の血飛沫が、悲しく空を彩る様だった……。

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