第百一話『戦前』

 

 準々決勝前日を、全て鍛錬に費やした僕。

 今は何時もの通り寝ずに、アリーナへ向かっている。

 四人で。

 僕とモイラ、アーサーとユークリッド。

 一ブロックから四ブロック、その覇者全員で。


「昨日、ユトもアーサー君も居なくなってたけど……やっぱり鍛錬?」

「ああ」

「まあね」

 僕と陰気な方のアーサー君は、モイラの呟きに頷いた。

 その奥で、僕はアーサ君も鍛錬に勤しんでいた事に感心した。

 うむ。努力する若者は好ましい。


「……ほー。アーサーも一日中鍛錬とは……これは観戦が面白くなりそうだ」

 ユークリッドは、相槌ついでにアーサーを叩いた。


「まあ───そうだな。出来れば、一矢報えるさ」

 アーサー君は僕を見詰め、不敵に笑う。

 あーあ。完全に敵として認識されちゃったなぁ。

 けれど、その後輩の眼差しには応えねば……ね。


「……さぁ?案外楽勝に終わっちゃうかもよ?」

 皮肉の陰で、僕は怪しく笑い返した。

 売り言葉に買い言葉。

 それに近い煽り合いの中、僕達は瞳で睨みを交わした。

 もう既に戦いは始まっているかの様に火花を散らして。


 それを側で見届けていたモイラとユークリッド。

 彼女らも止めはせず、ただの部外者としてこう告げた。


「……終点か。私達が付いていけるのはここまでだ」

 気付けば、もうアリーナへの入り口に僕達は到達していた。

 この先は分かれ道。

 右の通路が僕。

 左の通路がアーサ君が行くべき所。

 この先には、ファイター用の武器庫やトレーニング室があり。


 そして──────アリーナがある。

 僕とアーサー君が一対一で戦う場所だ。

 この先へ進めば、僕とアーサ君は一時と言えど『敵』となる。

 そして、その両方とも『世界を救う』という硬い信念を抱いている。

 ロベリアの商売に乗っかる以上、僕達は刃を交えねばならない仲となる。


 僕とアーサー君は同じ仕事仲間、先輩後輩の立ち位置。

 でも「遠慮は許さない」と、僕はアーサ君に忠告しておいた。

 ……帰ってきたのは「勿論」という不敵の笑みだった。


 だから───いや。だからこそ、僕はアーサ君の敵となって君を倒せる。

 ある意味君は、僕の『狂った正義』の犠牲者と化すだろう。

 でもそれは、一心に僕がフォークトを倒す為の一芝居。


 皮肉なものだ。

 悪を滅する為に正義仲間を倒す、とは。

 けれど、僕はその上で。

 世界を救ってきた覇者として、こう謳おう……。


 ────玉座で踏ん反り返っているロベリアへ、ささやかな凶撃を。そして死を───。


「次会う時は観客として!応援してるよ、二人共っ!」

 そして、創造神の送り笑顔と共に。


「ああ。期待しておくれよ」

 僕とアーサ君は腕を、去り際に交わし合い。

 両者海千山千のファイターとして、己が行くべき通路に身を向けた。

 その背中は戦士として、この先の戦いを苛烈に彩ると言わしめる貫禄があった。


 二つの道。

 ランタンと暗闇や、二人を薄暗く出迎えた。

 技術、意思、鍛錬。

 それらを積んだ両者は、共々強く拳を握りこむ。


 ……この先の戦いに身構える為。

 世界救済の意思をここで、再確認する為。


 ──────二人の化物はアリーナで、互いの刃を振りかざすだろう。

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