第九十九話『弾幕』

 

 目標までの距離、実に五十メートル。

 走るには問題ない距離だが、光速の弾を狭い空間で避けながらになると……等速を維持するのは厳しくなる。

 己に定めた、目標排除までの時間は大体五秒。

 長いようで短い刻限だ。


 実際その間も、躊躇なく弾は発射されてくる。

 それに当たったら負け勿論負け。

 制限時間迄に、目標を排除せねば負け。

 目標排除は触れたら完了するとは言え、対象に触れる事自体厳しい。

 でも、これが僕流トレーニング。厳しい位が一番丁度良い。


 僕は着地する。

 今は、三つの弾丸を跳んで避けた所だ。

 まあ、これは一番最初の発砲だから……。


 ──────バン。


 勿論、容赦無く発射される。

 今度は六発。

 銃である以上、マガジンサイズを超過した発砲は出来ない……筈だけれど。

 あの標的はモデルとほぼ同じ様に作られてるから、銃もリロード要らずという訳。

 兎に角、僕は動揺せずに走る。

 この時点で目標までの距離は────四十五メートル。

 経過時間は一秒。もっと早めなければ。

 そう思い、身体を更に加速させた。

 そして、発射された弾の弾道を確認。


 狙い先は……四肢と頭、心臓。

 全て均等に、正確無比な弾道を描いている。

 そう思い、僕が選んだ行動は──────。


 ……左上に避ける。


「ほっ」

 勢いを殺さず、弾幕の合間へ跳ぶ。

 空中で身体を強く捻り、風を巻き込んで更に勢いを付ける。

 そして目標を見据え、背後へと六発の弾が過ぎ去ったのを確認してから……。


 ──────先程溜めていた捻れを利用し、更に僕の身体を推進させた。

 僕の身体は捻れの影響で空中で数回周り、風を味方してその勢いだけを愚直に上げた。


 ──────途中報告。残り十五メートル。経過時間三.五秒。


 そして、既に弾丸は放たれた。

 その数は、今までの比にならない量だった。


 ───その数、数百発。文字通りの弾幕。

 避ける隙間は、全く見当たらない。

 ……前から見たら、だが。


 僕は、その弾幕が当たるギリギリの所まで移動した。

 ここで備考として挟むと、目標は避けられぬ弾は撃ってこない。


 つまり……だ。

 例え前から見て隙間がない弾幕でも。

 横から見れば、その活路は見えるのだ。


「……ふむ」

 僕は擬似俯瞰的視点にて弾の弾道を解析。

 右、左、真ん中、下。

 自分の行動経路を決め、僕は弾の壁を見据える。

 瞬時。

 僕は身体を動かし、弾幕を避け始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る