第九十八話『トレーニング』
いよいよ明日。
第三兵器を景品として開かれた大会は、準々決勝へと移る。
もう残ったファイターは……五人しか居ない。
その内二人はこちら側で、もう一人も身内。
極論、もう敵は第五ブロックの覇者となったアリサ・フォークトしか居ないと言っていい。
けれど、景品の為に刃を交えなければならないのは変わらない。
僕と最初に当たるのがアーサー君であり、次に当たるのがモイラかユークリッド。
──────その次がフォークト。
正直、僕は負けるつもりなど毛頭無い。
アーサーにも、モイラにも。
そして勿論、フォークトにも。
アーサー達に勝ちを譲るのも良い案だろう。
けれど、最後のフォークト……彼女だけは。
──────それが、もう居ないあの子の意志でもあるから。
♦︎
裏闘技場、個人専用トレーニング室。
ほぼ体育館サイズの、日光刺す広いトレーニングルーム。
魔法異次元空間と人口魔法太陽によって作り出された部屋は、地下に存在するとは思えない作りとなっている。
僕はそこでトレーニングに励んでいた。
通常、僕はトレーニングやストレッチなどせずとも、遅延無しに力を発揮できる。
けれど、戦いに向けて体を慣らすのは必要だ。
……で、それを踏まえて先ずやるのは。
「素早い攻撃に目を慣らしたいから……」
僕は左腕を真左に払った。
その腕は青い線を浮かべ、やがて空中に画面を作る。
ホログラムに近いだろう、この技術は。
と、それよりも。
僕は正面の状況を見つめながら、その画面を指でタップしていく。
色々な項目を押すにつれ、ピッ、と画面は近代的な音を鳴らす。
今からやるのは、戦闘シミレーション。
機械に強い人に向けて言うと、これはAR技術に近いもの。
……その深い記述は避けるとして。
僕は画面を通して、色々な設定を施していく。
範囲設定、
他諸々の細かな調整。
それを受け、空間には次々と僕専用のトレーニング用具が出来上がって行く。
そして、目を瞬く頃には……。
正面にはリボルバーを構えた、ウエスタン風のガンファイターが居た。
その男はタバコと髭付き。ちょっと身体全体が青く透き通る程度。
その横には、青く透き通った壁が僕を取り囲む。
大体幅二メートル。
その青白い壁は一本道を作り、逃げる事も許されない、敵までの一方通行となっている。
目の前に居る敵は
弾を撃ち出す速度と精度だけで言うと、以前戦った魔人(ラット君)以上。
トレーニングというか訓練には、大体これくらいが丁度いい。
弾を目で追えずとも勘がある。
勘で感じられずとも経験がある。
そうして、僕はずっと前から戦ってきた。
だからこその信念。
僕は、フォークトを敵として倒す。
「よし。じゃあ……開始」
僕はそのまま、画面をタップした。
瞬間。
──────バン。
目の前の敵は発砲した。
そのマグナムからは、たった一つだけの破裂音が聞こえた……が。
そんな音とは裏腹に、空中には三発の弾丸が飛んでいた。
……発砲音が一つしか聞こえない程の早撃ち。
回転式拳銃だからこそ出来る、神速の射撃術。
それ以上の速度を発揮する弾頭のお陰で
それが彼の能力だから──────ってやめておこう。
兎に角、その三つの弾が狙う先は、僕の両足、心臓。
緊張感を味わう為、身を覆う特殊結界は解除しておいた。
いやまあ、
でもまぁ、弾に当たったら血が出る様になったのは違いない。
……ふぅ。でもやっぱり新鮮味があるな。結界が無い活動は。
僕は息を大きく吸い込み、堪能しながら……止めた。
そして、機を見計らい。
足を踏み込み身体を傾け、勢いを消さず、そのまま。
──────跳んだ。
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