第九十七話『オカマ』

 

 ロベリア。

 それはアリサ・フォークトという少女を飼い慣らし扱う、狂気の塊。

 特殊転生者をただの力や化物と言った低俗な物としか捉えていない、人間として下賎な輩。

 古代兵器を僕達の眼前にチラつかせ、その上で自分が楽しむことだけを考える。

 濁り切った裏社会に住むに相応しい、裏闘技場の調停者フィクサーだ。


 恐らく、このオカマは自分の利益になるならどんな人物だって利用する。


 自身の闘技場に集まったファイターや、無害な一般人。

 よもや自分の手下でさえもロベリアは力として利用するだろう。


「慎重そうな君が、護衛付きとは言え自ら登場するとはね……」

「それくらい、フォークトちゃんは大事な存在だもの☆」

 ロベリアは笑った。

 嘘か本当かも分からない、薄っぺらい仮面を付けて。

 狂気、残忍、陋劣。

 それら全てを高水準でかき集めたら、あんなオカマが出来るんだろう。


「嘘臭いね、君の顔は。以前戦った鼠と似てる」

「それは褒めてる、って事でワタクシは受け取るわ♡……ミラージュ」

「……はっ」

 唐突に声を低めて指令したロベリアに対し、横の漆黒は即座に応える。

 時として一瞬。


 光を飲む漆黒は空間にて乖離かいり

 闇に搔き消えた漆黒は、やがて鎖の少女を攫い寄せる。


 じゃらり。

 鎖の音が、一瞬途切れ。


 ──────気付けばフォークトは、ロベリアの真横にて滞在していた。


「女心と秋の空。お喋りはここまでにしましょ☆サヨナラユトちゃん♡準々決勝頑張ってネェ〜」


(君は女では無いからそのことわざも適用されないと思うが……)

 ロベリアは唐突に踵を返した。

 二人のロベリアの手下がそれに習う中、ただ一人フォークトだけは。


「……」

 戦う決意を確固たる者とした睨みを、こちらへ向けてきた。

 その目は死んではいたが、意思は感じ取られた。


 どれだけ評価されずとも。

 どれだけ化物と評価されようとも。

 それでも──────。


 ──────『ロベリアの力となる』と言う少女なりの確固たる意思が。

 その仕草が、忠実に主人を守る手下としての務めを全うしていた。

 ……それに僕は口角を上げる。


(僕を敵として認識……やはりそうか。ならば、君も僕のの元に倒して見せよう)

 僕は、去り行く四人衆の背中を暗闇の中で見届けた。

 次会う時は敵同士であろう……と。

 そんな杞憂を、僕はしていた。



 ♦︎


 ロベリアは、ユトを見逃した、

 ロベリア自身、ユトに障害として危険視されているのは理解していた。

 あそこから戦闘に移る事だって出来た。

 だが、ロベリアはそうしなかった。


 それは、自身の狂気に依るものなのか。

 はたまた、自身の身を案じての事なのか。


 けれど、聞いても愚問だと悟ったのか、ロベリアの手下達は黙っておいた。

 ……まあ、変に敏感なロベリアの逆鱗に触れない様にしたのもあるだろうが。


 暗闇に富む通路。

 帰路に着く四人衆。

 漆黒を纏うミラージュは、突然何かに気付き、即刻ロベリアの耳元で小さく囁いた。


「ロベリア様──────」

 瞬間、ロベリアの表情が強張っていく。


「──────が消えただってェ?無能ね、あの銀と呪い馬鹿……まあ良いわァ。望み通り援軍をたんまり送ってやりなさい。無能馬鹿でも、同じを持つ身だからネ☆」

 ロベリアは笑った。

 いつもの狂気的な笑みでは無く、ただの薄ら笑いで。

 案外その方が安心出来るのだが……。

 そういう風に笑うロベリア自体全く見た事が無いので、逆にそれが新鮮味を帯びて、結果的に恐怖を駆り立てているのは違いない。


『何を考えているか分からない』

 だが、その奇妙な人格を持つロベリアに、この三人の手下達は惹かれたのだ。


「……了解しました」

 かくして漆黒は頷いた。


 ──────そして、消えた。

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