第五十八話『脅迫風殺害予告』
「じゃさ。答え合わせしようよ……『全て』を」
僕は謳う。
勝利の余韻に浸る間なしに、仮初めの命の保証を。
僕だけが人型邪龍に近付き、他三人を観客として扱い。
魔力を完全に失った哀れな邪龍の前で、ただ一人僕は演説する。
「まず、君に
途中。
人型邪龍の害意が、こちらへ向けられた。
彼の漆黒のコートが小さく揺らめく。
世界の書き換え。
事象操作を行おうとしている事は、見なくても分かった。
だが、僕は動じず。
ーーただ、彼の体が赤い稲妻に支配されるのを見届けた。
「ぐ……」
呻きを上げる人型邪龍。
スタンガンで打たれた様に痙攣する、彼の漆黒の体。
それを横目に、僕は中断していた言葉の続きを告げる。
「……即刻、因果が君の喉元を掻っ切りにくるから、気をつけてね」
瞬間、小さく「面倒な仕掛けを……」と呟く人型邪龍。
……全く、これは僕が主演なんだから、静かにしてほしいよね。
と、思い「コホン」と咳込みで止めさせ。
そして思い出す様に、僕は言った。
「じゃあ最初に……『何故君達が、こんなにも早く手を打てたか』について聞かせて貰おうか」
聞き終えた瞬間、人型邪龍君は被せる様に、
「答える義理はなーー」
だが遮り。
「……答えろ。いつでもお前を僕は殺せるんだぞ」
はい。いつもの。
殺気をちょろっと出して、今の上下関係をはっきりとさせる僕。
そして
もう一度言うけど、僕が本気で殺気出したら、まじで空間が死滅しちゃうよ。
だからチョビッとの殺気で抑えてるよ。
そして、殺気&高圧的な口調で脅された人型邪龍は、冷や汗を流し、
「……だが、話せない」
そう、断った。
(……スーツ姿の魔人君はさらっと答えてくれたけど、君は違うんだね)
僕は心の中で頷いた。
もしかしたら、これも『あの方』とやらへの忠誠心のせいかな。
うん。きっとそうだ。
だって「答えないと殺すよ?」オーラをガンガンに出してる僕が居る前で、邪龍君は自分の命を投げ打ってでも、情報の秘匿を図ったんだ。
そうだね、凄い意思の強さだね。
まあ……なんか相対的に見ると、スーツ姿の魔人君がチョロすぎたとか言えそうだけど。
……いや。チョロかった訳じゃないとしたら?
多分魔人君がああも簡単に教えてくれたのって、何か策があったからなのかも。
……そうか。そうすると納得がいく。
僕達が廃屋にある、古い巨大物資生成機械を調べに行った時、すぐに襲撃に遭ったのも、そうすると……。
(魔人君がチョロかったのは、情報を小出しにして僕達をおびき寄せる為……)
僕は心の中で笑った。
……良いね。それでこそ悪役だ。
僕をはめたのか……いやぁ、やっぱり君はーー。
……いや、ここら辺にしよう。独り言は痛い。
僕は凄い意思の強さを見せた人型邪龍君の顔を覗き、言った。
「分かった……でも、残念ながら理由は大方分かっちゃってるんだけどね」
邪龍君の冷や汗ダラダラの額が動く。
「どう言う事だ……ッ?」
彼の疑問に満ちた視線に、僕は薄笑いを浮かべながら返した。
「そう。言ったでしょ?答え合わせをしようって……。正直、僕は君の自白無くても事を運べる。それだけの『目』はある」
僕は、両目を指で指す様なジェスチャーを見せた。
すると、人型邪龍君は「くっ……」とか言いそうな顔で口を
まあ、逆に有難いけど。そこで静聴してくれるなら。
僕は、他三人の外野を含みながら話した。
そう……ここからが、答え合わせだ。
♦︎
まずおかしいのが、何故あんなにも早く、僕達を空間に隔離できたのか、と言う事だよ。
この魔族街の空間に閉じ込められたのが、タイミング的には、僕が逃げ遅れたガレーシャを引き摺り込んだ瞬間だった。
そう、ここからがおかしい。
だって見る限りこの魔族街の空間には、侵入者を感知して自動的に封鎖する、なんて仕組みは組み込まれてなかった。
それは、邪龍君直筆の日記にも書かれていた。
『この空間は彼奴らが入ってきた時に、我らが封鎖した』ってね。
つまり、封鎖されたのは人力。
しかもほんの一瞬で、だ。
そんなの、専属の監視員をつけなきゃ出来ない芸当だよ。
だけど、そんな監視員を付けるにしても、五億年の時を過ごしているんだ。この空間は。
それじゃあ、圧倒的に効率が良くない。ただの人員の無駄遣いだよ。
そこで、僕は思った。
『もし、古代遺跡がメイゼラビアン王国に出現した事を事前に知っていたら、どうなるか』って。
つまり、こう言う事。
古代遺跡が冒険者達の探索対象になる日にちを、監視員が知っていたのなら、その日から監視を付ければ効率良いってコトだね。
僕は魔族街での生活一日目に、この発想に辿り着いた。
だから、僕達を隔離した術師が居そうな、イエロウズ・タワーに向かったんだよ。
結果、一番の収穫を僕は目にした。
それが……。
♦︎
「日記、だよ。邪龍君のね」
「どういう事ですか……?あれは何の有益な情報も無かった筈では……?」
ガレーシャは過ぎ去った過去の記録の話が……何故か今出てきた事に困惑を示した。
「まあ、最後まで聞いて聞いて」
僕はそんなガレーシャをなだめる様にしながら、邪龍君を見た。
「ーー本当に、傲慢だったね。人型邪龍君?」
「何……?」
煽りの様に、全てを見透かした様な僕の視線は、彼の隙を穿つ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます