第五十話『圧倒的実力者』

 

「……っ」


 音を割き、空を切る。


 邪龍の背中から放たれた銃弾達は魔力を帯び、それら総てに必中の因果が込められている。


 標的は僕。


 避ける事はできない。


 ならば、正面から受けて立つ他無い。


 僕は数歩前に進み、対応準備を始める。


 全方向から弧を描くように銃弾は僕の周囲を回り、雨の如く僕の体に襲い掛かる。


(銃弾に魔力を込める事によって更に威力を上げ、まるで意思がある様に操作。因果の逆転か……実力者だな、発砲者は)


 そう思い、僕はただ……。



 ーー指を鳴らした。



 指に少量の魔力を込めて鳴らされたソレは、ただの魔力を込めて作られただけの必中の因果を打ち消す。


 青い波動が、炎の如く空間を薙ぐ。


 同時に、銃弾は速度を落とされ。


 僕に着弾する前に、空中で静止した。


「やはり、貴様等は危険だな」


 瞬間に、人型邪龍の背中から聞こえる呆れ声。


(口悪。出会って早々貴様呼ばわりか)


 パラパラ、と僕は八つ当たりする様に浮いた銃弾を一挙に落としながら、その人物を見詰めた。


 人型邪龍の背中から悠々と出てきたその人物は……。


「……魔人か」


 スーツ姿、堅苦しい眼鏡を掛けた、怪奇な魔力が立ち昇る人間。


 魔族にしか有り得ない特殊な魔力を身につけた……魔人だった。


 両手にマグナムリボルバーを構えた魔人は人型邪龍と共に並び、こちらを睨む。


「もしかして、君が人型邪龍君の相棒かい?」


 その姿は、さながら心を共にする相棒そのものだったから。


「それは、戦っている内に分かる事では無いのかね?」


 そう言った途端、人型邪龍の雰囲気が変わっていく。


 ……不法侵入者を排除するつもりか。


 僕がそれに対し忠節無心カラクリキコウを出して交戦の意思を示した頃。


「……人型邪龍さんは、私が」


 ガレーシャが突然名乗り出てきた。



 ……えらく好戦的だね。



 僕は一瞬キョトンとした顔になったが直ぐに立て直した。


「了解。モイラも付いてってあげて」


「わかった」


 僕はモイラにアイサインを送り、相槌したのを確認して前を向く。


「私の相手は君達か……ならば来るといい」


 人型邪龍君は宙に浮き、手招きしながら部屋を去っていった。


 ガレーシャとモイラはそれを追い、スーツ姿の魔人の横を通り過ぎていった。


「……自分の相棒の手柄を横取りする事はしないんだね」


 魔人の方は、ガレーシャ達が真横を通り過ぎる時に攻撃を加える事も出来たはず。


 それをしなかったという事は、標的は僕一択という事かな?


「そうだな。貴様とは一対一で戦うつもりだ」


 そう言って彼は、リボルバーの撃鉄ハンマーを倒した。


(どうやら、僕は魔人に好かれてる様だ)


 心の中で溜息を吐きつつも、僕は目の前の銃口を見据え、言った。


「じゃあ肩慣らしついでに、お話しようか」



 ♦︎



 ガレーシャとモイラ。


 人型邪龍の黒い背中を追う二人は通路を走る。


 細い通路。


 ガレーシャとモイラという細い体の二人を並走させても結構ギチギチな位細い通路。


 そこを悠々と飛ぶ人型邪龍。


 羽を使わず、魔力操作で飛ぶ彼はモイラ達を妨害する。


 時には炎を飛ばし、物質を消滅させる事象操作を飛ばし、モイラ達の殺害を図ってくる。


 片手間に殺しを図る人型邪龍。



 ……正に悪役らしい。



 ガレーシャ達は妨害を華麗に魔法で相殺しつつ、邪龍を追う。


 すると、着いた先は屋上だった。


 ローズ本社の屋上。


 ヘリポートや排気口が並ぶ中に、三人は居た。


 誘導されたのか、もっとも戦い易い場所を、あちらは指定してくれたのか。


 罠などが無いかを確認する創造神らを目の前に、邪龍は告げる。


「……さあ、序章ゲームを始めようか」


 そして、屋上に一筋の光が灯った。



 ♦︎




 或いは魔法。或いは弾道。


 今度は人質などいない。


 だから気にせず僕は力を出せる。


 僕は佇み、銃弾を見据える。


 だが、動きも避けもしない。


 仮初めの因果なんて関係なしに、魔人の銃弾は僕へと収束する。


「……ッ!」



 ーーだが、それら全ては攻撃として成り立ちすらしなかった。



 数百個の銃弾の雨は、全て僕の結界によって防がれる。


 どれだけ数を撃とうと。



 ……それら全ては、標的に当たる前にかき消える。



 銃弾は僕に鮮血を見せる事も無く、ただ結界にすり潰されて消えるのみ。


「どうしたの?もっと威力を上げなきゃ結界すら破れないよ?」


 僕は煽る。


 だが、そのポーカーフェイスの裏では、スーツの魔人が本気を出していないと僕は知っている。


「化物だな、貴様は」


「君が弱すぎるんだよ」


 嫌味とも取れる賞賛に僕はまた、煽りを飛ばす。


 彼はマグナムを構えたが、その銃口から僕は悟る。


「50口径。もしかして君がアリエット社、社長含め令嬢を殺害した犯人かい?」


「まあ、そうだな」


 彼は僕の纏っている『あんま戦いたくないよ』オーラに当てられたのか、その銃口を下げた。


「僕も現場見たけどさ、随分と残酷が過ぎるんじゃない?」


「証拠を隠滅する為だ。手段は選ばない」


 彼はマグナムのシリンダーを回しながら淡々と殺人を認めた。


 そこには誰のものか分からない血が付いている。


 こっわ。


 殺人に対して何も思ってないとか暗殺者かな?


「両者揃って油断しないタイプね……」


 僕が感慨深く呟いている最中に。



 ーーバン。



 魔人は容赦なく発砲。


 卑劣を極めたガチ不意打ちだが……。


 ヘッドショットを狙った銃弾を、僕は首を軽く捻る事で軽く避け、何事も無かったかの様に魔人に語り掛けた。


「ちょっと質問なんだけど、古代兵器って何?」

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