第四十九話『悪態つくべき再会』

 

「ユト、今のって」


「そうだね……銃声だ。他住民の反応からして、幻聴でも無い」


 周囲の住民は、突然の発砲音に驚いている。


「あのバン!って音ですか?」


 ガレーシャは、その聞き覚えの無い音について聞いてきた。


「そう。耳を破る破裂音の様な音が銃声。そして聞こえた場所は……」


 僕は、住宅街にまだ反響する破裂音の出所を探る。


 ……見つけた。


「こっちだ。早く行こう。社長令嬢かもしれない」


 僕等は、押し寄せる魔族達の人混みを掻き分けながら向かった。



 ♦︎



 そして、今はその現場とされている所。


 暗く、陽の光も届かない路地の中。


 そこに倒れていたものは……。


「……遅かったか」


 デリアン・アリエット。


 僕達が探していた社長令嬢その人だった。


 顔は原型を留めないまでに吹き飛ばされ、見る影もない。


 僅かに残った令嬢の魔力からは、絶望と悲しみの感情が感じとられる。


 本人確認も済んでしまった。


 これは、確実に社長令嬢だ。


「そんな……」


 僕はその死体の解析を行った。


 酷い、と目に怒りを灯らせながら。


「……銃殺か。こめかみを捉えた、文字通りの即死。犯人は熟練された射手の様だ。武器はS&W M500に近い形状をした、マグナムリボルバー……口径はやはり50口径。同一犯か」


 僕が専門的な言葉で死体を解析する中、背中でガレーシャが言った。


「イエロウズ・タワーからは結構な距離離れてますよね……ここ」


 背中を向けている今でも分かる、ガレーシャの悲哀の感情に答えながら、僕は呟いた。


「それくらい、犯人は証拠隠滅にご執心だったと言う事だね」


 僕は検死を終え、立ち上がりながら令嬢に黒いシートを被せた。


「冥福を祈るよ」


 そう呟きながら。


 振り向いた時には、辛気臭い二人の姿が待っていた。


「……許せない」


「そうだね」


 僕はやり切れない様に言うモイラを慰めながら、雰囲気を強張らせた。


「潰そう。ローズ社を」


 あの令嬢が残していったもの。


 それは、自分の死体だけでは無かった。


 令嬢の硬く握られた左手には、千切られた薔薇があった。


 あれが故意に残されたダイイングメッセージだとしたら、ローズ社は完全に真っ黒になる。


 だから是非も問わず。僕は。


 令嬢の意思を継いであげよう。




 ♦︎




 ローズ社は街全体に分布している。


 それを一度にぶっ壊すのは至難の技だ。


 だから先ず、僕達はローズ社の抱えている秘密を暴くことにした。


 アリエット社の令嬢すらも白昼堂々抹殺出来る事から、ローズ社だけじゃなく人型邪龍君も絡んでいる可能性がある。


 つまり、両方の怪しい奴らを一気に排除できる可能性があるという事。


 潰すのは、まずローズ本社から。


 先ずは情報を見つけるために忍び込む。


 ローズ社を潰すのは、色々な情報を手にしてからでいい。


 そもそも、濡れ衣を着せられただけの優良企業かどうかの判別は、まだ付けられないからね。


 だから、今僕達は寝静まったローズ本社に忍び込んでいる。


「指紋認証と網膜もうまく認証。そして赤外線センサーか……警備厳重だね」


「しも……もうま……ん?」


 ガレーシャの困惑声など無視し、僕とモイラは会話を続ける。


「イエロウズ・タワーが無警戒だったのに、ローズ社はこんな警備ねー……怪しい」


 そう言いながら、僕等は警備の網を突破していく。



 ……今なら暗殺者、とか忍者とか言われそう。



 まあそんな事は置いておいて。


「僕達にとって、機械の警備なんて只のハードルに過ぎないね」


 僕たちは通気口から身を下ろし、黒手袋を深く着ける。


 間取り的に『情報記録室』とされるその場所を、僕達は何の躊躇もなく漁り始める。


 見る限り情報はサーバー保管じゃなく、書類保存みたいで、漁るのに非っっっ常に時間を取られた。


 書類は棚に保存されているらしくて、その棚は数百個程部屋に分布。


 そのどこにも有益な情報があるのかすら分からないから、しらみつぶしに探すしか無い。


 そんな時に良い情報を引いたのが、モイラだった。


「ん!ちょっとみんな来て!」


「何か見つけたのかい?」


 僕達は激しく手招きする彼女に駆け寄り、モイラが持っていた書類に目を配る。


『古代兵器について』


 書類には、そう興味深い事が書かれていた。


 僕はそれを音読した。


「この遺跡最深部に存在している古代兵器は、第一の兵器……鼠の兵器で、その力を利用した巨大物資生成機械は、事象操作魔術と第一の兵器の混合技術にて作られたものでありーーーー」


 僕はそこに書かれていた文字を読み込むが……。


 その途中で、その書類は書類ごと燃やし尽くされた。


「……時間切れか」


 書類は、いよいよそこに刻まれていた呪いによって燃やし尽くされた。


 瞬間、情報記録室の電気が点々と付いて行く。


 これは、僕達が付けたものじゃ無い。


 だとするなら……。


「久し振りだな。侵入者殿?」


 僕達は、その聞いたことのある憎ったらしい声の主を睨みつけた。


 入り口に怪しく佇んだそれは……。


「人型邪龍君。君がここにいるという事は、やはりローズ社は黒だったんだね」


 人型邪龍だった。既視感しかない、昨日戦ったばかりの魔族だ。


「やはり、邪龍さんが事に絡んでましたか……」


「令嬢ちゃん達を殺したのも……君なの?」


 ガレーシャ、モイラの順で人型邪龍に向けて問い詰める。


 喜べない再会に悪態をつく中、人型邪龍は答えた。


「言っておくが、社長含め令嬢を殺したのは私では無いぞ」


「……じゃあ誰なんだい?」


 含みのある言い方をした人型邪龍。


 それに反応した僕は、人型邪龍を睨んだ。


 一触即発の雰囲気の中、彼の背中から出てきた物は。



 ーー数百個の銃弾の雨だった。

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