第三十六話『みぃつけた」
その一筋の閃光は、僕に空間の構造を教えてくれる、忠実な相棒となる。
それは徐々に空へと舞い上がり……。
……暴れる様に、その光は空間全てを光の筋で覆い尽くす。
その光の筋は、全ての道を意思を持った様になぞって行く。
なぞり、払い、飛ぶ。
その光は、いずれは剣、いずれは槍、いずれは弓だったもの。
それら総てのカタチで、その武器は主人の要望に答え続ける。
その様がどれだけカラクリに見えたとしても、そこには意思がある。
……それが、僕の
そこにはただ要望を願う者、それを聞く者、というだけの虚しい関係では無い。
双方の意思で共鳴し合い、それで始めてその力を発揮させるんだ。
この子の承認が無ければ、僕はこの子を使えない。
逆にこの子が願っても、僕が承認しなければ本領を発揮しない。
……僕達が願う意思はいつだって一つだった。
『心を共鳴させ、それら全ての森羅万象と共に戦ってくれ』
……それだけだ。
これは僕自身の意思だけでは無く、彼自身の意思も篭ってこその実力発揮だ。
こんな真似は、他の誰にも真似出来ない。
正真正銘、誰にも模倣出来ない、友情の権化。
それがどれだけ無機質に見えたとしても、どれだけ勝手に評価されようとも、ずっと一緒に進んで来た歴史は変わらない。
……愛情、に似た感情も有るのかもね。
ーーそのまま僕はゆっくりと目を閉じ、彼から渡される情報に目を委ねた。
♦︎
「これは……何ですか?」
ガレーシャは、目の前で起こっている、光の筋が絶え間なく自分達の周りを通過したかと思えば、すぐ様遠くへ去って行く情景を見て、本気で目を丸くしている。
ガレーシャの疑問の軌道は、思いっきり僕に直撃していた。
「……」
「あれ?」
……だけど、僕は答えない。まあ、答えられない、に近いかな。
今僕の体は、忠節無心から送り込まれる構造の情報に集中している所為で、ほぼ無意識状態だ。
普通に探索すれば、十何年もかかる様な入り組み具合を発揮している六十一階の構造を、僕は脳に焼き付けているんだ。
……無意識状態にでもならなきゃ、こんな構造を直ぐに理解することなんて出来ないからね。
と、言うわけで僕は『ガレーシャ達の会話は聞こえているが、話せない』状態なんだよ。
それを察したモイラがガレーシャを止めた。
「今はユトに話しかけない方が良いよ。起こしちゃうから」
うんうん。こう言うところでモイラは頼りになるね。
……裏を返せば、こう言うところでしか……と、やめておこう。
「どういう事ですか?」
「今ユトはね、この
「……ふとした事で起きちゃうかも知れないから、話しかけるのはやめておこうね」
「分かりました。って、その
「ユトの相棒君の名前。説明してあげようか?」
「聞いてみたいです!」
「わかった」
……ちょっと待って、僕の相棒君の事を勝手に暴露しようとするのはやめて。
僕は手を上げて止めようとした……けど、その手が動かないのだったね。
……僕は強制的に諦めることになった。
「……ユトの
「形に縛られない魔法具みたいな物ですか?」
「うーん。ちょっと違うかな……。あれは魔法具でも何でもなくて、ユトの写し身みたいな感じだよ」
ペラペラと僕の情報を喋って行くモイラ。まあ僕自身、止めるというのは既に諦めてしまったけどね。
体、動かせないし。
「自己精神武器投影魔法に似た物ですか?」
ガレーシャが心当たり的に告げたのは、自分の精神を、固有の武器として投影するという感じの魔法。
……まあちょっと近いけど、少し外れてる。
「それと似ているけど、少し違うね。……異能って言えば、それで良いのかな」
「……異能、ですか?」
ガレーシャは首を傾げながらモイラに聞く。
「そう、異能。……あれは他に複製も存在しない、唯一無二の物質。それはユトの生き様の権化であり、ユトの存在や精神と共鳴し、願いを全うし続ける万能の願望機。少し語弊はあるけどね」
「未来視に願望機、ですか。……ユトさんも、異常な力を持っていますね」
ガレーシャはモイラの
「……?まあユトの異能は、普通の常識では語れないからね……と。終わったみたい」
「みたいですね」
モイラ達の眼に映るのは、役目を終えて収束して行く光の筋。
網目の様にそれは綺麗な筋を作り、僕の掌にて収束する。
そして、消えて行く光。終わった役目。
僕は、処理し切った情報をしまい込み、怪奇に嗤う。
「みぃつけた」
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