第十七話『創造神の力』

 

「それでは、創造神殿にご登場頂こうか」


 僕はその言葉と共に一歩前に踏み出す。


 ……瞬間、僕達の目前に激しい光の柱が突き刺して来た。


「な、何ですか!」


 驚くガレーシャを置き去りに、柱はその光り方を増し、遂には……手で目を覆わねばいけないまでになった。


 そして、ある刻を境に光は消え、


「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん!モイラさんですよ!」


 謎の女性が、元気よく飛び出して来た。


「え。……え?」

 一同に困惑が走る。



 まあ、無理も無いか。



 あの創造神モイラ様が、あんな軽そうな口調と動きで「モイラである」と言ったのだ。


 大体神と言うものは全知全能、どんな時も焦らない冷静さを兼ね備えている、というイメージが付きがちだけども、モイラに至ってはその特徴の一端すら見られないので勝手に困惑している、と言うところだろうね。


 残念ながら、これが創造神と呼ばれたモイラの姿なんだよね。


 まあ、それにしても……じゃじゃじゃじゃーんは無いね。


 そして、第二王子は焦る様に言った。


「はぁ!!こんなのが俺らの神さまなのかよ!?」


 それと同時に、兵達の口からは疑問の声が漏れ出ているのが分かる。



 ……まあ、そんなもの、モイラには関係のない事の様だけど。



「そうだよ。リアン王国、ディルッド・リッテユーロ君?」

 そうモイラは卑しく笑いながら第二王子の顔を覗き込んだ。


「何で俺の名前を!?」

 驚く第二王子。


 ……そうだね。モイラの目にかかれば、どんな人間の情報も暴露出来るのだ。



 それは、王家の人間だとしても関係ない。


 物の全てを見通す神眼……それにかかれば、モイラはただ対象を見るだけでその対象の秘密や記憶を盗み見れる。


 ある意味、僕の満目蕭条ノ眼ボーダムアイと似た様なものだ。


 そして、モイラは僕の言葉を代弁する様に言った。



「ーーー見れば、分かるよ」


 そう言う彼女の目は、明らかに光っていた。



 ♦︎



 そして僕は簡潔に、簡単にモイラの事を説明した。


 まあ、以前言った言葉の復習みたいなものだから説明はしないけど。


「とまあ、彼女が正真正銘の創造神、モイラ・クロスティーだよ」


 だが、アーリはそれだけで納得できなかった様で、顎に手を当てながら言う。


「……未だ信じられません。証拠の提示をお願いしたいです」


 うん。無理も無いね。


 途方も無い程昔の人物、創造神が目の前にいる上に、その友人と名乗る僕も同伴なんだ。困惑するよね。


 じゃあ、疑い深い君達に、とっておきの証明方法を提示しようか。


「了解、やるよモイラ」


「分かった!」


 そして、僕はその証拠足り得る武器を手にする。槍だ。


 簡単に言うと、モイラの因果を操る超常の力が分かる事をすれば良いんだよ。


 つまり……


「オリジナルのグングニルだと!?」


 第二王子ことディルッドが言う通り、この槍はグングニル。


 因果の操作により投擲が必中となったこの槍は、世界に二つと存在しない魔槍。


 まあ、僕の武器召喚の所為で二つと存在しちゃってるんだけどね。


 ……兎に角。


 これは魔力を込めて投擲する事でその真価を発揮する。


 必中性能と、回帰性能。


 僕が投げたグングニルは自然と持ち主の所へ帰って行く。


 そう、なる筈だけどね。


 ……モイラならそうは行かない。僕の認める実力者だよ。


「じゃあ、行くよ。全員離れてて」

 そして、僕は出来る限り、本気の魔力を注ぎ込む。


 グングニルの槍から悲鳴が聞こえて来そうな程の魔力を流し込んでいる所で、外野は言う。


「なんだあの魔力は……ッ!大地を揺らす程だと!?強大過ぎるぞ!」


 ……あ、やっぱり二次被害は多少出てしまうか。出来るだけ抑えたつもりなんだけど。


 やっぱり、漏れ出てしまうか。


 そして僕は槍を構えながら後ろに飛び退り、モイラとの距離を保つ。


 もうアーリ達は部屋の端っこで観戦を決め込んでいる。


「有害性は無いようですが、何か厚い壁の様な圧力さえもある魔力とは……」

 ガレーシャの言葉に、横のディルッドが冷や汗をかきながら言った。


「まじでなんなんだよ、あいつらは……ッ!」


「膨大すぎる魔力量の所為で近付けません……見守るしか無い様ですね」

 そうアーリは呟き、僕達の方へと視点を移した。


 その時に僕は既に魔槍に魔力を溜め込み終えていた。


 そして僕は杞憂だと分かっていてモイラの様子を見る。


「いつでもオッケーだよ!」


 もうモイラは神剣……絶対不可避の剣【 “因果剣リアリティ・アルター” 】を携え、白と赤の線が走るその刀身を下へ向け、僕がグングニルを投擲する瞬間を待っていた。


 なら僕は、普通にグングニルを投げるだけ。今の自分ができる本気をモイラに向けるだけだね。


 僕は魔槍を背負う様にして構え、言う。


「じゃあ、行くよ……魔槍、投擲」


 身体中の筋肉を使い、僕はその魔槍を叩き下ろす様に投擲した。


 快音を為して、その魔槍は宙を駆ける。


 流星の様に空中を泳ぐ様に飛ぶ魔槍。


 それは魔力の筋を残し、ただ一つの標的へとひた走る。


 その先には、笑って飛来物を見据える創造神が居た。



 ……それは。



 この世を作った、神とされる人物。


 その者が持つ力は、その名の通り尋常じゃない。


 万物を見通す神眼。


 変えようのない慈悲。


 世界をする寛容性。


 そして……。



 ーーーーどんな時でも覆られない『今』を創り出す、因果の操作。



 モイラは動く。


 ただ、目の前にある『蝿』を撃ち落とすかの様に。


 ただ、彼女は操り、知れば良い。


 ただ、神は振るうだけで良い。その力を。



 ーーーそして、彼女の剣に赤の稲妻が走った。

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