15.奴隷村
同じ頃、僕は……。
「はぁはぁ、うっ! ダメだ……。太すぎて無理だよ」
「がんばれ男だろ!」
「そんなぁ、入んないですよ! 無理無理」
「頑張らないと、飯もらえないぞ! タスクくん」
「おっちゃん……代わりにヤッてよ!」
「フガフガ!」
「え? 仙人が代わりに?」
「無理じゃよ! 完璧にボケてるからこの人」
「だって、爺さん! 仙人が言ってるからやらせてみましょうよ」
「フガフガガ!!」
「あ!」
白髪の老人が押しこむと、炭焼き窯に積み重ねられて薪の隙間に最後の木片がすんなり入った。
「ふぅ、これでおしまいだ!」
中年のおっちゃんが安堵のため息をもらす。
「年の功って奴かね?」
初老の男性が呟いた。
「フガフガ」
「なんですか仙人?」
僕は仙人の言葉を聞き返す。
5か月前、僕は今一緒に居る3人に襲われそうになったが、あまりにも相手が衰弱していたので、簡単に撃退することができたのだった。
僕はこのまま爺捨て山に残るのは危険だと判断し、3人に食料を分け与える条件で気球に満載された荷物持ちの役割を与え、一緒に山を下山したのだ。
そこまでは、順調だったが、途中に出くわした村で僕らはある事態に直面する。
山を下山し、森の中を行軍していた僕らは、狩りをしていた二人連れに出会った。
しかも、男二人組の……。
「僕たちも下山した捨て人だよ! この先に、男たちの隠れ里があるんだ」
食料も切れかけていて、藁をもすがる思いでその話を信じた僕たちは、狩人たちに付いて隠れ里へ向かったのだった。
しかし、そこは、50人からの魔法使いの女たちと10数人の男奴隷からなる秘密の集落だったのだ。
そして、気づいた時には捕らえられていた僕ら4人組は、下僕として肉体労働にこき使われる羽目になったのである。
なんで、僕らが逃げられないのか。
それは、脚に括り付けられた鎖から伸びた先の鉄球。
そう、なぜかトウゲン地方の村でありながら、たたら製鉄の技術を有していたのだ。
こき使われた後は、粗末なご飯が出る夕飯だ。
女たちは上の板の間で食事をしているが、男奴隷たちは下の三和土に敷かれた粗末なゴザで雑穀飯を食べている。
「はぁ、それにしてもロリコンで良かったぁ~。あんなババア相手にさせられちゃたまんないもんなぁ」
そう言ったのは中年のおっちゃん。
爺捨て山に捨てられた男たちの中には、山で慎ましやかな食生活を送るうちに健康を取り戻し男性機能が復活するものが稀にいる。
この村は、マジカ教団とは袂を分かった村らしく、そのような手段で繁殖用の男を得ていたのだ。
実は、おっちゃんは山で痩せたお陰で男性機能が多少復活していた。
しかし、仙人は元から関係ないが、初老男性と中年のおっちゃんは男性機能のテストを受けて不合格になったのだ。
一方、僕はと言うとテスト自体がされなかった。なぜかとえば、見るからに若かったので最初から不能だろうと判断されたからだ。
「でも、ヤれる奴の方が良いもん喰ってるからのう」
初老が恨めしく眺める先には、だまし討ちして彼らを連れてきた2人の狩人。
狩人たちは女たちと同じ卓を囲んで食事をしていた。
……おっちゃんはババアとか言うけど、出来ないほどじゃないよなぁ。
僕らが眺める先には20代後半から30代の十分魅力的な女たちがいた。
しかし、ここで食事のためにヒヨっては、なんのためにコハンの村から追放されてまで信念を貫いたのか意味が無くなってしまう。
もちろん、子どもや老人、十代の子たちだって居る。
ただ、この奴隷たちの食事場には子作りが許された女性だけがいるというだけだ。
僕は、若い子たちの中でも印象に残っている、十代後半の黒髪が美しい女性を思い出す。
大きな黒い目と小ぶりの鼻に雪の様に白い肌、どこか物憂げな表情をいつもしている。
僕の考え通りナインシスターズがルックスで選んでいるのなら、即スカウトされそうなくらい美しい女性だった。
「おい、またあの子の事考えてるのか?」
「ち、違いますよ!」
「あの子だったら、おっちゃんも相手して良いかなって思うもん。でも、どっちかっていうと僕は妹の方が好みだな~」
おっちゃんが言っているのは、彼女の14歳くらいの妹の事だ。
確かにこちらも美少女だけど、透明感がありすぎてそういう対象に見れない。
背も150なさそうだし、いつもケラケラ笑っていて、ちょっと子どもっぽいかな。
しかし、その時までは思いもよらなかった、名前も知らない美少女姉妹のお世話係に僕がなろうとは……。
ある日、夜半から雪が強くなった所為で、屋外での作業が出来ないことになった。
寝床で、おっちゃんたちと暇をもてあましていたところへ、僕らの監視係と連れ立って40代の女性がやってきた。
監視係が僕の方を一瞥してから隣の女と話し始める。
「若いのは、これしかいません」
「じゃあ、連れて行くわ」
「おい、玉を持ってこっち来い!」
「はい!」
いつもの監視係は、すぐ行動しないと電撃を喰らわしてくるので、僕は即座に行動した。
豪雪の中、外を進んでいくが、もう一人が風魔法使いらしく、周りに風の防壁を作ったのか、雪が当たることは無かった。
「あの、まだですか? 腕が持ちません」
「もうすぐだから、我慢しろ。落としたら電撃だからな」
森の中、少し離れた所に立つ家へとやってきた。
幅5メートルくらいだろうか、茅葺屋根の平屋建て。
……ここは、確かあの姉妹が住んでいる家じゃなかったかな。
「ふう、もう限界!」
僕は、家に入ると三和土に突っ伏した。
「これで、良かったかユキ?」
「はい……。無理を聞いていただき、ありがとうございます」
声のする方を見ると、そこには、あの美しい女性。
服装は着物の様に前で重ねた灰色の服に、青い帯。
どこか焦点の合ってないような黒目が光る。
「それでは、我らはこれにて」
そう言い残すと、僕を連れて来た二人は去って行った。
女は三和土に降りてきて、僕の手を取る。
「ユキと言います。さぁ、こちらへ上がって下さい」
僕は手を引かれて板の間に上がる。
板の間の真ん中には囲炉裏に炭が燃やされ、吊り下げられた鉄瓶から湯気が吹いていた。
そして、もう一人、背の低い妹の方が大きく目を開いて僕を見つめてきた。
「姉さま、本当にお世話役を見繕ってしまったのね」
「そうよ、ハル。ああ、ちゃんと紹介しなくては」
そう言うとユキは僕の手を離してこちらに向き直った。
「こちらは、妹のハル。歳は17です」
「姉さま、自分の歳を言っていないんじゃない? ズルいわ」
「ごめんなさい。私は20です。あなたのお名前をお聞きしてよろしいかしら?」
「
「あら、同い年なのね。年下かもしれないと思ってました」
「いえいえ、僕の方こそ、てっきりユキさんは年下だとずっとおもってました!」
「ずっと?」
ユキが、不思議そうな目で僕を見た。
僕はしまったと思ったが、前々から見とれていたことがバレたってどうってことないと思いなおし、理由を話す。
「いえ、以前お見かけして。美しい人だなって思ってたから……」
「うれしい! 私の事、見ていてくれたんですね」
ユキはそう言って、僕の間近まで身体を寄せて見上げて来た。
上目遣いのユキの視線が、僕の顔を真っ赤にさせる。
「姉さま、はしたないよ」
妹のハルが咎めて来たことで、ユキは僕の元から一歩引き下がった。
「あの、ところで僕はなんでここに呼ばれたんですか? お世話役というのが僕の仕事ですか?」
「焦らなくて良いんですよ。ゆっくり行きましょう」
ユキは僕の質問に、答えにならない返答を微笑みと共に返してきたのだった……。
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