8.エルの真実

 ラボに戻った僕は、早速、発明に取り掛かる。

 翌日、シギとキキョウに手伝ってもらって、完成した発明品をグレタに見せることに。

 プレゼンを行う湖畔には、他にカルミアやミュクスも来ていた。


「この鳥みたいなものが、戦力になるんですか?」

「まぁ、見ててください」


 グレタが見ている僕の発明品は、ダイナマイトに翼と雷管の先に銅の突起をくっつけたものだ。

 シギに発明品を何本か空中に飛ばしてもらう。


「シギさん。なるべく高く湖の上に飛ばしてください」

「ほい分った~! 行くよ~」


 シギの巧みな風魔法で5本の翼付きダイナマイトが湖の上空に散開していく。

 ある程度安全な距離まで離れた所で、次はキキョウに指示を出す。  

 

「キキョウ! 同時に撃てるか?」

「分からんが、やってみる」


 キキョウが、狙いをつけて雷撃を放出すると。


 ―ドーン!!!


 5本のダイナマイトが一瞬のうちに爆発した。


「どうです? これだけの威力があれば、一対十の空中戦だって勝てますよ」

「それは分からないですが、確かに、大部隊が近づいて来たときに、眼の前で爆発させれば、近寄って来れないでしょうね」

「今は、地上から操作しましたが、風と雷二人で空を飛びながら扱えば、制空権はこっちのものです」

「ねぇ、グレタ」

「何ですか、カーマイン?」

「問題に対して即対応できる。それが、この村の強みよ。今回だって、グレタ、あなたの知識が発明の出発点になってる。どうかしら? あなたのその冷静沈着な知性を活かせるのは、教皇の元ではなくて、ここしかないわ。あなたが必要なのよグレタ」


 カルミアはそう言いながら、グレタに近付くとギュッと彼女を抱きしめた。

 グレタの方は、いきなりの抱擁に、顔を赤らめている。


「あ、あわわ。あのカーマイン……何を」

「ふふ、素直になりなさいグレタ」

「は、離してください! 私にその、そういう趣向は無いです!」

「だーめっ!」

「ふぇ?」

「残るって言うまで離さない」


 グレタは、頭から湯気が出てきそうなほど真っ赤になった。


「わ、分かりましたから、離してください」


 解放されたグレタは、腰砕けになって地面にへたり込む。

 こうして、僕の発明のお陰なのか、カルミアの抱擁のお陰かは定かではないが、グレタも村の一員になることに……。

 


 そして、その夜。

 寺院に新しく作られた集会場へ村人全員が緊急招集をかけられ集まってきた。

 

「これから、集まってもらった理由を話すわ」


 集会場の祭壇に立つカルミアが話し始める。


「ご存知のように、私は教皇都と折り合いが悪いの。そして悪いことに彼女たちと事を構えることになりそうなの。なんでそうなったかって理由なんだけど……」


 言い淀んだカルミアの隣にエルがやってくる。


「すまない、僕の所為なんだ」


 いきなりの告白に会場がざわつく、そんななかキキョウが立ち上がり問いただす。


「どういうことだよ? エル」

「実は、僕も教皇都出身のの人間でね。本当の名前はエルピス。みんなは知らないだろうけど、これでも、教皇都では知らない人間が居ないほど有名だったんだ」

「記憶喪失のはぐれ人ってのは嘘だったてことか?」

「そうさ、カルミアたちと2年前トウゲンにやって来た時、色々あってここに一人でいることにしたんだ」

「あの、なんで私のヒストリアが効かなかったんですか?」

「それは、僕の元々の能力がミラーの出来損ないだったからさ」

「そういうことだったんですね!」


 ニウブがひとり納得するなか、クマが質問する。


「え? どういうことなん?!」

「ミラーは記憶を跳ね返す魔法。なので掛けられた相手は跳ね返った自分の記憶を見る。そのとき相手はすっかり忘れていたことを思い出す」

「私のヒストリアは思い出したい任意の事を思い出したり私が記憶したりしますが、ミラーはかけてる間だけ相手にすべての記憶を見せ、そのうちに任意の記憶を選び取ります。術者には相手の記憶は見えません。また、ミラーの副作用で術者の記憶を見られないようにガードすることもできます」

「ようは、ヒストリアを掛けられている時に、名前の最初の2文字以降はニウブの記憶を反射していたから何も見えなかったってわけ。もちろん僕のは出来損ないの曇ったミラーだから相手には反射しないんだけどね」

「なんだか、複雑すぎて頭が痛くなってくるぜ」

「クマちゃんは良くわかったわー。キキョウがアホなだけやん!」

「そして、ミラーの出来損ないのエス。これが僕の魔法」


 ここで、カルミアが発言を引きつぐ。


「エスは曇った鏡だけど、そのことで堰き止められた記憶の奥底にある真の願望が透けて術者に見えて来る魔法。なので人々はこぞって自分自身の真の望みを知ろうとエルピスを頼るようになった」

「でも、そんな大したもんじゃないさ。その時その時の軽い願望。例えば、ニウブは褒められたいとか、タスクは男友達が欲しいとか」

「わ、わたし、そんな褒められたいなんて思ってませんよぅ」

「本当に生きてるもの辛い人には役立つこともあるかもしれないけどさ。教皇都の連中は些細なことでも僕を頼って、僕無しでは何も決めれれない人間ばかりになっちゃってね」

「原因は私にも有るの。エルの能力を開花させたのは私」

「ああそうその通り、ホントにひどい人だ」


 エルの言葉に反応してシギが。


「エル! それはちょっと無いんじゃ……」


 しかし、カルミアが諫めようとするシギを遮った。


「違うのよ……。今のはたぶんエスで探った私の真の望みを受けての言葉……。そういうことを分かったうえで、やさしさから言ってくれているのよエルは」

「そうまさにその通り! 僕はやさしさだけで出来ているんだ。感謝しているよ彼女には。中途半端な記憶系魔法しか使えない僕の力を、こうやって人の役に立てるものへと導いてくれたからね」

「それが、こんな結果になるなんて思いもしなかった。教皇すら自らの意思で決断することを放棄して、エルの虜になってしまったのよ」

「それで、エルを連れて辺境まで……。じゃあ、この前の話は嘘だったんですか?」

「嘘じゃない。教皇都に対抗するものを作らなければいけないと考えているのは本当よ」


「それで、私の所為でここにエルピス様がいることがバレてしまいまして……」


 なぜヴァナモの所為でバレたかと言うと、カーマインの事は黙っていた彼女だったが、エルとカルミアの密かな愛について仲良しのカレン枢機卿に話したところ・・・。


「それはエルよ! ってなって。違いますって否定したのに、記憶探索の魔法を使われて……」


 エルの事も良く知っていたカレン枢機卿には髪を染めた変装もカルミアの存在もバレてしまったというわけだ。


「じゃあ、教皇都の連中がこぞってここにエルを取り返しにやってくるってこと?」

「そういうことになるわね。だから、悪いんだけど。村のリーダーとして宣告するわ。これから教皇都との戦争になる。だから、事を構えたく無い人は残念だけど村を去ってちょうだい。もちろん出ていく人には補償として砂金なんかの財産は与えるわ」


「ちょっと待ちな!」


 立ち上がって声をあげたのは、はぐれ人の元首領ヒナゲシ。


「なにかしら?」

「おれたちは元々無頼の身。それを拾ってもらった恩を仇で返すような奴は一人もいねぇ!そうだろうてめぇら?」

「「「「うっす!!!」」」」

「よっ! 大統領!!」

「さすが俺たちのヒナゲシさんだぜ!」


 ヒナゲシの放った啖呵に合いの手をいれる元はぐれ人たち。


「ヒナゲシ以下30名、命を張ってお守りしやすぜ! 者ども、異論はねぇな!!」

「「「「「うっす!!!」」」」


 そして、シギが。


「わたしも残る」


 キキョウがクマが。


「あたりまえだろ!」

「キョウちゃんが残るならクマちゃんも!」

「姉を残しで行くわけないでしょ」

「コハンの村の寺院は私が守ります」


 もちろんアレクサやニウブも続いた。

 僕は、グレタを説得した後に聞いていた。

 しかし、これからコハンの村はいったいどうなってしまうんだろうか?

 みんなは協力してくれると言っているけど、こんな少ない人数で、本当に対抗できるのだろうか?

 そんな不安を感じながら、僕は集会場の端っこで、盛り上がる村人たちを見つめていた。


 そして、一週間後。

 こちらの準備がままならないうちに、新たな刺客がコハンの村を訪れる……。

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