宇宙空母、不時着
「プラズマバリアを展開!」
ヒヨウ艦体に連続して衝撃が走る。
「やっています! 実弾兵器のようです」
ヒヨウは尻餅をついたような形となり、やがて艦全体が地面に沈んだ。猛烈な爆風が巻き起こり、友軍機が吹き飛ばされる。
グラウンドアンカーはシェルターを大きく外れ、山脈に突き刺さる。ヒヨウはグラウンドアンカーをすかさずパージしていた。
「ヒヨウが墜落? いや、不時着か」
「何が起きた?」
パイロットたちにも動揺が走る。
アイギスの退避勧告で被害は少なめではあったが、巨大宇宙艦の不時着による衝撃で吹き飛ばされたシルエットも多い。
「ヒヨウ、巨大飛翔体を四発被弾。航行に異常はきたしていませんが、再浮上には十分以上は必要です」
それでも戦闘用の宇宙艦といったところだろうか。装甲に大きな被弾痕はあっても、貫通には至っていない。
「オウル・アイからの映像を転送します」
不時着したヒヨウのオペレーターが即座に情報を伝達する。
攻撃地点を確認したキヌカワが呻いた。
「これはロシアンブルーか」
山脈の中腹に、形状は違うもの、ロシアンブルーと同系統の大型レールガンランチャーがそこにあった。総数は六門。地形内に隠してあり、左右の旋回角度は大きくはない。
防衛兵器だ。
レールガンは、レール間に電流を流すことで、磁場を発生させて弾体を加速する。弾体は、磁場の向きに直角に配置するだけである。原理が単純だからこそ、構築技士たちもこぞってこの兵装を好んだのだ。
ロシアンブルーは単なる規格外の巨大レールガンに過ぎない。作る者などこの世に二人いるかどうか、という規格外な規模の構築を実行する者。トライレーム以外にアルゴナウタイにも存在したのだ
「アルベルトならあの巨大砲は構築したがるはずでした。私は何故その可能性を考慮しなかったんだ!」
「砲撃卿の手によるものか」
クルトはアルベルトの嗜好性をよく知っているにも関わらず、考慮していなかった己の甘さを呪った。
「こちらヒヨウ。不時着しただけですよ。まともに被弾しましたがね」
「大丈夫かね?」
キヌカワが確認をする。いざとなれば撤退もやむを得ない。
「これぐらいで泣き言はいえません。しかし敵にしてやられました。あのタイミングでの砲撃はグラウンドアンカーを投入すると踏んでいたということです。もしくは小型宇宙艦の突進に備えていたのでしょう」
「六門もの超大口径のレールガンランチャーか。他の要塞エリアからも電力を引っ張ってきているな」
「シルエットベースとP336要塞エリアも同様のことはしています。しない理由がありません」
不時着には大きな衝撃が発生しているが、戦闘指揮所は無事だった。
「敵、大型ミサイル。目標変更。ヒヨウではなく、地上に展開している部隊です!」
「地上戦力を削るつもりか!」
対艦ミサイルを、戦車目がけて話す敵勢力。ミサイルサイロはいまだにストックがあるようだ。
「アンチフォートレスライフルがあれば、シェルターを破壊できるのですが」
クルトが歯噛みする。あの兵装はシルエットでも携行可能ゆえに、コウが鹵獲を恐れて使用禁止にしたのだ。
「仕方ない。作戦を変えよう。ドリル編隊を使おう。地中から潜入する」
「それではあまりに時間がかかりすぎます!」
「工兵部隊と二面進行だ。J006要塞エリアからの援軍もある」
「わかりました。なんとか潜入をしたいところですが」
敵の新型戦車とシルエットは距離を取りながら攻撃している。
シェルターは重戦車、重シルエット、多目的砲らしき戦車がいる。両手両肩に砲身を装備した多目的戦車が実に厄介だった。
「これ以上させるか!」
颶風のパイロットが吼える。コールドブレードを一閃し、対空レールガンの砲身を切断する。返す刀で斬りつけようとすると、車両部分からロケットランチャーが発射された。
半歩踏み込んで、ミサイルの軌道を見きって回避する颶風は、そのまま車両部分を突き刺す。通常ならこの部分にMCSがあるはずだ。
「なんだと!」
まさかレールガンで殴りかかるとは――
衝撃で弾き飛ばされる。その間にも他部位のレールガンが襲う。
「危ない!」
メジロ型ファミリアが操縦する大砲鳥ドライがすかさず援護に入る。戦車殺しのこの部隊は、対空砲火をくぐりぬけ参戦している。
Dライフル砲弾の爆発音とともに、破損する敵車両。
「ちぃ!」
メジロ型ファミリアが舌打ちする。
被弾したのだ。
「中にシルエットがいた?」
中から手足の短いシルエットが飛び出してきたのだ。
「アベレーション・シルエット! あいつらこんなものまで!」
アベレーション・シルエットが後退していく。脱出装置代わりなのだろう。
その間にバトルシルエットであるストレリツィが大口径レールガンで狙ってくる。徹底して距離を取る戦術だ。
「獣脚型のアベレーション・アームズもいる!」
ファミリアがおののく。人体をパーツにした禁忌の兵器。獣脚型は砲撃仕様のアベレーション・アームズである。
各地の戦況を分析していたキヌカワが唸る。
「ドリル編隊より連絡。地中にも敵がいるそうです」
「アベレーション系統か。アンダーグラウンドソナーを展開して、慎重に行動してくれ」
「了解です」
キヌカワが冷や汗を浮かべる。地中は想定外だ。メタルアイリス時代からの戦術を研究して警戒しているのだろう。
「こちら塵龍七号機。敵シルエットによって中破。撤退します。申し訳ありません」
「なんだと! 塵龍が?」
パイロットは精鋭揃い。性能を自負していたキヌカワにとっては衝撃の出来事だった。
「潜伏していたアラクネ型が、一度に四機も。二機は撃破しましたが……」
「アラクネ型までいるのか。難敵だ。仕方ない。急いで引いてくれ」
アラクネ型はアシア大戦でアルゴフォースが投入した兵器では、最強の一角を占める。にゃん汰が乗るエポナですら完封寸前まで追い込まれたのだ。
「想像以上に難敵だ。蜘蛛の機動力ならシルエット形態の塵龍に高速で奇襲を仕掛けることも可能だろう」
「確かに。アシア大戦後廃棄されたとは思えません。構造上、内部の反発も買います。アルゴフォース以外に運用しているとは思いませんでした」
キヌカワとクルトも敵指揮官の用兵に舌をまく。
「アベレーション・シルエットがいる以上、アベレーション・アームズを生産する必要があったとは思えないが……」
「おそらく余剰兵器を掻き集めたのでしょう。アルゴナウタイ全軍からすればアベレーション・アームズは統治している人間の反発も買います。もてあましていたはずです」
「もとより使えない人間は有機肥料にしていた連中だからな。不思議はないか。なおさら負けるわけにはいかん」
航空機部隊の損耗率が高まっている。危険な兆候だ。
「制空権は確かに支配した。敵が籠城と見せかけ、要塞エリア周辺に対空網を徹底して配備していたということか」
「それでも空の利から一方的に攻撃は可能なのです。時間稼ぎでしょう」
「籠城は援軍がなければ成立しない。アルゴナウタイから援軍が来るのか? そうとも思えん」
「私達の封印区画潜入阻止ができればいいのでしょう。徹底していますね」
フラフナグズも慎重に行動している。よく訓練された兵士たちだ。
少しでも突出すると集中砲火を受けるのだが、立ち止まっていると榴弾攻撃が待っている。この間もクルト社の精鋭は、敵防空網の地上戦力を斬り倒している。
「可変機は地上戦へ移行せよ。飛行部隊は距離を取れ。100キロメートル以上離れてからの攻撃を推奨する。できるだけ防空網を殲滅させてくれ。数が減ることになれば敵はシェルター内に移動して籠城するはずだ」
キヌカワの命令はすぐさま戦闘機部隊に伝達される。
10キロから50キロほどの中距離はとくに危険だ。レールガンもミサイルも射程に入ってしまう。
「戦闘機による対地攻撃は、地上目標に命中打は期待できませんね。砲弾を消耗させるだけかもしれません」
「航空戦力だけなら蜂の巣にできるぐらいは用意しているよ。こちらは航空基地ありだ。問題は敵に援軍が来るかどうかだね」
「籠城は本来救援前提ですからね。果たしてJ582要塞エリアがアルゴナウタイが救援にくるかどうか。いいえ、ヘルメスかヴァーシャか。アンティーク・シルエットの姿も見えない」
「修理ができないことを嫌ったか。とことん転移者の思考だな」
もしアルゴフォースの救援が到着すればヒヨウが挟撃されることになる。
戦慄するキヌカワだった。
敵総司令官のジョセフも戦局を見定めようと、情報を集めていた。
「ここまでは想定通り。偵察機、どうだ。――やはりハーフトラックを中心とした高速打撃群部隊とシルエットの混成部隊がいたか。J006要塞エリアからなら陸上部隊としては最速だろう。そいつらにいる場所にありったけの対戦車榴弾を打ち込んでやれ。あたらなくても構わん」
重量のある戦車では間に合わない。高速打撃部隊の背後にいるが、先鋒さえ牽制できれば渋滞する。
「出鼻をくじけ。それだけで勢いは止まる。時間を稼げればそれで十分だ」
武器腕のアベレーション・シルエットと格闘機は相性が悪い。敵は主力戦車、超重戦車、対空用シルエット、アベレーション・シルエット、大型ミサイルを駆使した、陸戦主体の諸兵科連合を実現させているのだ。
「私だって一つや二つの仕掛けはしているが、あの相手に通じるかどうか微妙だ。何か打開策があれば」
冷静なキヌカワやクルトも、このときばかりは焦燥感を隠そうともしなかった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「ヒヨウが不時着だと? 敵にもロシアンブルーみたいな巨大砲があったとは」
『クルトとキヌカワは敵指揮官を転移者だと判断しているようです。戦闘機部隊の被害も大きい。御統の新型シルエットの塵龍でさえも撤退を余儀無くされました。アラクネ型まで配備されているようです』
「アラクネ型か! あれはまずい」
フリギアの報告に眉をしかめたバリー。アラクネ型は人間をパーツにした、エポナを越える超高性能機だ。
「しかしT341要塞エリア内にヒョウエが潜入中だ。俺達が行って間に合うのか」
『この場所の敵は逃走したのです。パイロクロア大陸のアルゴアーミーは戦術面からみてもかつてないほどの練度を誇っています。敵防衛部隊は籠城段階にすら至っていません。キモン級だけでも向かうべきと進言します』
「TAKABAにすべてを押しつける形になる。仕方ない。援護は他の強襲揚陸艦に頼むか」
TAKABA一社にだけ負担を背負わせてもどうかと思い悩むバリーに、フリギアが画面にヒヨウの落下映像を流す。
「画像で見せられるときついな。――キモン級全部隊帰投せよ。これよりJ582要塞エリアの援護に向かう」
同様に画面をみたヒョウエからも通信が入る。
「バリーさんよ。俺のことぁいい。こっちは突っ走るだけで暇だ。早くあの二人を助けにいってやってくれ」
ヒョウエからにもいわれてしまった。実際ヒョウエ自身がクルトとキヌカワのもとへ駆けつけたい程なのだ。
『南極も戦力は充実しています。まずはパイロクロア大陸の攻略を専念するべきでしょう』
A009要塞エリアはコウたちがすでに封印区画へ潜入していた。広大な迷路を踏破するには時間がかかるだろう。
南極大陸は雪原と氷で遅々として進めていないが、最強戦力であるオーバード・フォースが控えている。
「俺達も向かうか?」
ロバートからの通信だ。アリステイデスとペリクレスはアストライアの護衛にあたっている。
「いいや。まだ待機だ。J006要塞エリアにだって相応の戦力はある。相性の問題だな。向こうは防衛、陸戦に特化しているし、俺達をJ582要塞エリアにおびき寄せる罠かもしれない」
「罠を張る準備があったとは思えん」
「以前から準備していたらどうだ? アシアを確保しているんだ。俺達は必ず救出に向かう。その時を待っていたなら?」
「ないとはいえんか。しかもヒヨウを不時着させるほどの攻撃準備をしていたわけだ」
「そういうことだ。劣勢とはいえ、数も質も劣っていない。むしろこちらが有利なんだ。もし何かあれば指示をする」
「信じているぜバリー」
バリーは再び画面に視線を向ける。
「敵宇宙艦がJ582要塞エリアに向かう動向はあるのか?」
『ありません。各自、沈黙を保っています。本当に同じ軍かと思うほどに、です』
皮肉を込めて報告するフリギア。一つの組織としてはまとまっていないのだろう。
「ディケ。まずJ009要塞エリアに合流して、そこからJ582要塞エリアに向かう。高度は取るな。向こうはロシアンブルーもどきがあるからな」
『承知いたしました。キモン級キモン、パイロクロア大陸に向けて転進します』
ヒョウエにすべてを押しつける形になってしまったが、激戦地はパイロクロア大陸であることは明白だ。
一度決断を下してしまえば、バリーの動きは早かった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
いつもお読みいただきありがとうございます! カクヨム版後書きです。
アルゴアーミーの反撃です。
徹底した研究によって、宇宙艦を対策しています。
戦力が分散している状態で、他大陸も同時攻略中。アルゴナウタイも動く気配はありませんが、トライレームも応援は難しい状態です。
アルゴアーミーが徹底している点は二つ。使い捨て覚悟でとにかく数を。そして使えるものはなんでも使う。です。
トレイレームの勝利条件はアシア救出。アルゴアーミーの勝利条件は阻止、もしくは構築技士の排除です。シンプルな分、制圧作戦などを想定しなかったことが逆に仇となったのでしょう。
アラクネ型は相変わらず強いですね。
【アンケート結果発表】
アンケートご協力ありがとうございました! 新作は「個人傭兵の転戦もの」がテーマです。タイトルも世界観もありますので、執筆にとりかかりたいですね。
気長にお待ちください!
【結果発表】
23票・依頼優先主義の個人傭兵が人型兵器に乗って各地を転戦するメカミリタリ
15票・容赦なく人が死ぬ、女性少なめ(多少はいる)の、仮想戦記のような戦争戦場をテーマにしたポストアポカリプスメカミリタリ
13票・ダイ○クロンみたいな複合合体メカをテーマにした壮絶な巨大メカ殴り合い(難易度高そう)。今ならキングオー○ャーみたいなのになるのかな?
8票・冴えないおっさんメカニックと美少女エースパイロットの恋愛要素中心ミリタリ多めメカアクション
当時、プランナーにだけは見せたオープニング初期稿イメージを公開しようかなと思ったのですが、実際にはシナリオ業務もやったこともないし(正しい書式をくれと記載してました)、シナリオ記号が正しいか教えてくれという依頼も返信なかったので、眠らせておくことにしました。
ダイ○クロンが予想以上に追撃していたので、これも視野にいれておきます。勇○シリーズはアニメで力作がでてきたので入れなくてよかったと思いました。
今後とも応援よろしくお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます