鉱山都市侵攻

 パイロクロア大陸のJ582要塞エリアは広大な大地だ。

 大陸の東には御統重工業が拠点としていたJ006要塞エリア。

 西の果てには聖域であるI908要塞エリアがある。


 尊厳戦争後は各勢力が国家成立を目指して争いを続けていた。

 しかしパイロクロアという鉱石が示す通り、軍事物資であるタンタルやニオブをはじめとするレアメタルを独占している要塞エリアはストーンズ勢力のアルゴナウタイが支配している。

 弱小の防衛ドームは物資運搬という業務を奪われ、最低限の生活しか送れず、この大陸は経済や流通という概念から取り残され、貧困の大陸でもあった。


「J582要塞エリアはいわば採掘都市。敵はシェルター内に引っ込むだろう。ゆえにアルゴアーミーたちの拠点ともなっている。鉱山施設ならシルエット戦となるだろう。ならば正面突破だ」


 J582攻略は衣川とクルトが担当だ。

 おそらくは斬り込みとしてはクルトが適任だろう。クルト・マシネンバウの精鋭もいる。


「強引な攻略ですね。嫌いではありませんよ」


 クルトがMCSの画面先のキヌカワに呼びかける。

 

「水上艦はあてにできないからね。要塞エリアのシェルター周辺には敵側の傭兵や、ストーンズ側勢力の戦力、まとまった数のマーダーが集結している。そのあとは迷路のような地下採掘施設を攻略しなければいけない。地形難易度でいえばA009要塞エリアに匹敵するだろうね」

「宇宙艦はイズモ戦闘形態のヒヨウのみ。あらん限りの可変機や戦闘機を甲板駐機。加えてJ006要塞エリアから主戦力をピストン移動ですか」


 戦闘形態ヒヨウの艦長は五行重工業のヒラカワジョーが就任した。ヒヨウ形態ならば飛行甲板が1キロメートルを越え、甲板駐機だけで500機以上搭載している。内蔵している車両やシルエットはその三倍はあった。

 一隻で小型宇宙艦五隻分の容量はあるだろう。尊厳戦争時、その特殊性と性能から保有していたアンダーグラウンド・フォースが最後まで引き渡しを拒否した宇宙艦でもある。


「作戦エリアが特殊でね。鉱物資源の採掘場と兼ねていて、封印区画はそのなかにある。A009要塞エリア以上に複雑な地下迷宮だ。シルエットで採掘場を侵入。その上で封印区画に入らないといけない」

「ならばこそ御統や我が社の精鋭が必要なのですね。確かに私達が適任でしょう。コウ君も成長したものです」

「弟子の成長は嬉しいものだね」


 二人にとってもコウは愛弟子なのだ。


「現地にもトライレームへの協力勢力が想定以上に多い。情けは人のためならず、だね」

「例の451防衛ドームを中心とした義勇兵ですね。彼らはパイロクロア大陸のどの組織よりも真っ先に支持を表明してくれました」

「I909要塞エリアからも暇な傭兵が参加してくれるようだ。アシアの騎士がエンプティだとヘスティアがばらしたみたいだね」


 エンプティはコウのリングネームだ。

 惑星エウロパからの襲撃者は伏せられているが、その激闘は中継されている。


「人々の想いが集まっている。我々も悲願を。――アシア救出を果たしましょう」

「そうですねクルト。行きましょう」


 大量のシルエットを乗せたイズモは地面すれすれを飛行中だ。

 搭載している兵器はクルト社のフッケバイン系統と御統と五行の最高性能機に統一されている。

 

「持久戦になります。大丈夫ですか。キヌカワ」


 狭いMCSの後部座席にいるキヌカワを心配するクルト。

 彼の愛機はたフラフナグズツヴァイ。フリギアのMCS機能解放にあたって真っ先に改良した機体だ。同様にアップデートしたバズヴ・カタもツヴァイの名称が与えられている。

 接近戦においては最強を誇る。不得手だった飛行もオーグメンター機能によって大幅に強化されていた。


「なんの。惑星リュビアでもここは私の定位置だ」


 フリギアのMCS機能解放によって、完成したドラゴンスレイヤーは、正式な名称が与えられることになった。

 アラマサは羽々斬はばきりと名を与えられた。装甲筋肉採用のアサルトシルエット。アナライズアーマーの戦闘機アコルスは菖蒲あやめとされた。この二種はハバキリとアヤメという名で呼ばれ、二組で塵龍おうりゅうと呼んでいる。

 外連味溢れる呼称だが、相応しい戦闘力を持つ。妥協を一切許さない衣川らしいシルエットと戦闘機だ。鏖龍はプレイアデス隊に八機のみ配備されている。


「まさかキヌカワさん自身がアシア救出とはなあ。コウも無茶をいうぜ」

「そんなことをいうとキヌカワに怒られるぞ」


 ハバキリのパイロットはヤスユキ。アヤメのパイロットが狼型ファミリアのハイノ。いつものコンビ。いや、今はトリオというべきなのだろう。


「ハイノの言うとおりだ。コウ君でさえ私を老人扱いしなかったぞ?」

「「すみません」


 さすがのヤスユキもバツが悪そうだ。


「アシアを放棄しないというならば、アルゴアーミーは地形戦に持ち込むつもりでしょう。私に万が一があるかもしれません。ハイノ、ヤスユキ。二人ともキヌカワを頼みましたよ」

「わかったぜ」

「もちろんです!」


 他地域とは違い、アルゴアーミーは超AIアシアを確保する方針だ。従来の方針を大きく転換することはない。


「制空権はこちらが握っている。籠城だろうね」


 衣川が言うとおり、J006要塞エリアからは戦闘機編隊が飛来し、制空権は確保してある。Aカーバンクルで動作する巨大マーダーのエニュオも、戦闘機にとってはただの的だった。

 要塞エリア周辺は航空機の対地支援によって楽になるはずだ。問題はシェルター内部と、深い坑道だ。


 そのシェルター内部を攻略するべく、地上部隊が進軍する。ファミリアの大隊と随伴するシルエットがJ582要塞エリアに向かっているのだ。その光景は圧巻であった。


 敵防衛部隊はアルゴアーミーパイロクロア大陸方面隊。

 どれほどの戦力をもつかは未知数だ。

 かつては多くの大型マーダーを保有していたが、数は減りつつある。新造はされていないようだ。 

 難地形をどう攻略するか。そこに作戦の成否がかかっていた。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 L451防衛ドームでは大量の高高度輸送機が着陸していた。

 ラニウスAが搬出されている。


 防衛ドーム長のネイトと隣にいるフランは緊張のあまり、強ばっている。

宇宙経由での補給など、考えられなかったからだ。


「受領のサインをお願いします」


 タヌキ耳のゾラが、タブレットを差し出す。


「謹んでお受けいたします。トライレーム皆様には最上級の感謝を」

「いいえ。我らが主もL451要塞エリアからの申し出、近隣要塞エリアの呼びかけも大変喜んでおります」


 彼女のいう主――コウ。かの救世主ウーティス。こんな弱小防衛ドームですら救ってくれた恩人だ。

 待ち望んでいた日がようやくきた。ネイトは真っ先に防衛ドーム代表として声をあげたのだ。


「フランさん。コウさんより譲渡品があります。六番機を至急整備工場へ」


 対外の場でコウ様と呼ぶとコウから怒られてしまう。


「はい!」


 フランは駆けだして六番機へ向かう。


「皆様にもトライレームからの贈答品があります。TAKABAのヒョウエ会長からは、もう使わないということでヤタガラスを六機。トライレームからはラニウスB型三機です。どれも旧式機ですが金属水素生成炉を採用しています。必ずやみなさまのお役に立つでしょう」


 価格帯からいってヤタガラスのほうが高級機になるのだが、TAKABAにはラニウスblock3やC2型がある。不要になったものを売らず、六番機を有するL451要塞エリアの彼らに託したのだ。

 ラニウスB型三機は、A型から直接C型を目指すものもいるので、トライレームから回した機体である。TAKABAが六機も提供するので、コウに恥をかかせたくないギャロップ社が委譲待ちの中古機を手配した。ゾラを手ぶらで派遣させたくないパルムの差し金である。


「金属水素生成炉採用機って!」


 フユキが都合してくれた金属水素生成炉だけでも、僻地での生活が改善されるほど潤った。

 本来の用途である戦闘用シルエットまで譲渡されるなどありえなかった。


「モデルチェンジの型落ち品みたいなもんだとヒョウエ会長は仰っていました。ヤタガラスはクルト社のバズヴ・カタのOEM品です。近接戦闘能力は量産機のなかでも、今なお最強クラスかと」

「バズヴ・カタは聞いたことがあります。とんでもない高級品では?」


 ゾラは笑いながら人差し指を口にあてて、口外無用のサインを送る。

 搬入されたヤタガラスを見上げるネイト。意匠はどことなく日本風であった。


「どれだけ言葉を重ねても足りないぐらいです。ありがとうございます」

「故障、破損した場合は私にご連絡ください。修理に参ります。この品々は他組織への譲渡不可ですのでご了承を」

「当然です!」


 ゾラの注意にネイトは震え上がる。そんなことはありえないほどの兵器だ。

 こんな弱小要塞エリアに配備される機体ではない。


「それでは六番機の改修を始めます。私はいったん失礼を」

 

 後ろ姿を見送るネイトはぽつりと呟いた。


「フランのヤツ、卒倒しなきゃいいが」

 

 彼らにこれだけの戦力が送られたのだ。彼自身、バズヴ・カタ同等品が六機と聞いて軽く意識が遠のいた。

 六番機は想像を絶するものに違いない。

 


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いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!


鉱山都市J582要塞エリアが次の戦場です。同時進行のため、今は半神半人の分裂を彼らは知りません。

J009要塞エリアと甲板駐機でありったけの兵力を積んだヒヨウの二方向からの攻略作戦。



双方とも友軍があります。アルゴナウタイにはグライゼンが。トライレームにはL451防衛ドーム勢力が。規模としてはグライゼンが数倍上です。

惑星アシア国家形成戦争の章がここにつながるわけです。


アシア救出作戦においても最大の戦場となる勢力対決です。全容は遠くないうちに明らかになります。

貧乏くじということかもしれませんね。クルトは運がないのかもしれません。

鉱山都市を巡った攻防です。都市鉱山だとまったく違う意味になるので取り扱いには注意しなければいけません。


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