天使狩り

 路地裏をローラーダッシュで走り回るアノモスのラニウス。爆轟駆動は大きな利点ではあるが、騒音という最大の欠陥も抱えている。 

 爆轟と音速を超える速度を可能にする代償ともいえる。乱戦時では転倒というリスクはあるが、ローラーダッシュのほうが隠密行動に向くのだ。


 目標の機体を見つけた。


「見つけたぞ。――アンティーク・シルエット【ゼレル】」


 トライレームには天使型アンティーク・シルエットのデータは網羅されている。設計者からの提供だという。

 天使には階級があり、指揮官機やエリートは高位の天使系機体に乗っているとアノモスは踏んでいた。いくらストーンズが平等といっても肉体の個体差はある。優秀な者が指揮系統の上位に位置するはずだ。


「待てアノモス。無茶だ!」


 別のC3A部隊のパイロットがアノモスの狙いに気付いた。


「大口径レーザーを中心とした、多くの火力兵装。――0.2秒耐えられたら俺の勝ちだ」

「倒しても、エンジェル連中のど真ん中だ。それでもか」

「全員敵だろ? 天使狩りだ」


 斬り捨てるという意味だ。

 それ以上、僚機は言わない。指揮官機を叩くという方針には賛成だからだ。


 ――ならば援護してやるだけだ。


「サポートしてやっで思いっきりいけ」


 示現流のパイロットから通信が入る。


「仕方ない。せいぜい目立て」


 最初に制止したパイロットも付き合ってくれるようだ。


「頼む」


 一言そういい残すと、アノモスのラニウスCblock3はローラーダッシュから身を屈めた超低空飛行に切り替えた。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 ゼレルに搭乗する半神半人は、迫り来る敵に手を焼いていた。

 反逆した二勢力に、トライレームまできている。


 安全な上空から、エンジェルを狙い撃つ。トライレームの戦闘機から狙撃したかったが、敵の航空戦力が侵入する気配はない。

 アンティーク・シルエットは全機無限飛行と強固な装甲により、飛行しながら戦っている。高所から一方的に攻撃しつつ、現行世代の攻撃など電熱化学兵器のレールガン砲弾がいいところだ。155ミリ砲でさえ80メガジュール程度の威力しかない。


 ゼレルのレーダーに急接近する物体が表示される。最初はミサイルと判断して電磁バリアを展開する。

 しかし違った。トライレームのラニウスが物陰から飛び出たのだ。電磁バリア如きで怯む機体ではない。


「衝撃さえ無ければいける」


 レーザービームなら荷電粒子砲と違って衝撃は無い。せいぜい表面装甲や装甲筋肉内の金属水素が爆発を起こす程度、自機から発生する衝撃のみだ。

 アノモスは対レーザー用の調整破片弾を発射する。ラニウスにまとわりつくバリアのような物体は、対レーザー防御兵装だ。アシアの騎士が用いたCX型のものよりも廉価だが、十分な効果を持つ。


「ラニウス! アシアの騎士か?!」 


 アシアの騎士が駆るラニウスは初期型の頭部を備えているという。眼前の敵はまさしくそれだ。

 

「いくらアシアの騎士でも!」


 ゼレルがレーザービームを照射する。最高位のアンティーク・シルエットに匹敵する1ギガワットレーザーだ。1秒照射すると1ギガジュール――1000メガジュールだ。現行のシルエットが耐えられるものではない。

 レーザー照射が止まる。1ギガワットのレーザーを1秒以上照射することはアンティーク・シルエットでも厳しい。クールタイムが必要だ。


「1ギガワットレーザーでも被弾を0.2秒以下に抑えたら200メガジュール程度。ウィスと追加装甲で耐えられる」

 

 そう嘯くアノモスだが、ラニウスの胸部は融解しつつあり、危険な状態だ。200メガジュールなど、大口径レールガン砲弾の三倍以上の威力である。


「なんて加速だ!」


 ゼレルはマッハ1程度しか出せないが、ラニウスはその速度を上回る。しかし加速が仇となるとゼレルのパイロットは嘲笑う。

 

「は?」


 ライフルを腰にぶらさげ、刀を抜いているが構えもしない。アシアの騎士が使うという抜刀でもないようだ。

 右膝を引いている予備動作が見えた。


「膝蹴りだと。そんなシルエットの戦い方があるか!」 


 ゼレルは慌てて後退する。空中なので相手は頭上を飛び越えるはずだ。あとは狙い撃てばいい。

 膝蹴りを突き出したラニウスは、そのままゼレルを飛び越えた。


「は!」

 

 再び嘲笑うゼレルのパイロットの表情が固まった。

 大きな影がゼレルを覆う。膝蹴りではなく、脚を突き出したのだ。


「馬鹿な!」

 

 振り下ろすのではない。薙ぎ払うような脚技を放つラニウスの蹴りをまともに頭部に受け、バランスを崩すゼレル。

 わけがわからなかった。こんなことが可能ならそのまま斬ればよいではないか? そう思った。


「この蹴りは――崩しだ」


 相手の言いたいことを察したかのように呟くアノモス。

 バランスを崩したゼレスにのしかかるように踏みつけるラニウスは、オーグメンターを最大にしてそのまま地面に衝突させる。


「ぐは!」


 地面は要塞エリアの中――Aカーバンクルによるウィスが通っている。衝撃を殺しきれるものではない。

地表に落下したゼレルを足でしっかり踏みつけたラニウスが見下ろす。流線型のアンティークシルエットは追加装甲をまとうことはない。そんなものがなくても十分な強度があるからだ。

 しかし、当然厚い場所と薄い場所がある。卵形体オーヴォイド形状のMCSがある、若干突き出た胸部正面は当然、装甲がもっとも厚い場所だ。しかし――


「正面は、だ」

 

 普段、宇宙空間でも狙う場所が難しい胸部の突き出た部分の底面に向かって狙いを定める。この場所だけは装甲が若干薄く、そしてリアクターだろうがMCSの後部座席だろうがどの場所も貫通できる急所なのだ。

 狙いを定め、腹部から刀をコックピットめがけて刀を突き刺した。

 パイロットと後部座席、そしてリトス制御装置ごとリアクターを貫通する。


 しかしラニウスは動きを止めない。爆轟駆動を駆使しつつ、ゼレスを地面にすりながら、シルエットサイズのロジを駆け抜ける。

 遠く離れた地点でビルの壁に叩き付けた。


「――まずは一機。かかった」


 墜落した付近のアノモスのラニウスを捜索するべく、降下したエンジェルとアークエンジェルを、別のラニウスCblock3が襲いかかる。

 一撃必殺の上段斬り――示現流のパイロットであった


「やっど!」

「そっちこそ!」

 

 指揮官機を落とした敵は排除したかったのだろう。見事にアノモスの罠にかかった。

 

「次だ」


 そう呟いて別のアンティーク・シルエットに向かおうとした時、制止の声がかかった。


「そんまま戦うとな。無茶じゃ」

「追加装甲が少し溶けた程度だ。問題ない」

「ゼレル相手にMCSを貫っとは。大したもんじゃ」


 当然胸部正面装甲は厚い。普通なら背面を狙うだろう。

 アノモスは確実に石を破壊するため、若干突き出た胸部の、やや下を狙った。MCSがある周囲ではなく、ほんのわずかに装甲が薄い部位を狙い、MCSごとリアクターを破壊したのだ。 


「鎧ば着た相手は、腹ばかっ捌くことがよかちゅう師匠ん教えだ」


アノモスはアンティーク・シルエットの装甲底面を腹に例えた。

 アノモスが師匠の方言をそのまま伝える。おそらく僚機の故郷とは距離が近いはずだ。


「われ。なかなかやらんといて」


 意外とユーモアがある男だなと思ったのだ。二人にしか通じない会話だ。

 二機は言葉を交わさずとも、新たな高性能アンティーク・シルエット排除を優先する。後続部隊の負担軽減にも繋がるのだ。


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いつもお読みいただきありがとうございます! カクヨム版あとがきです!


剣術コンビだけではあれなのでラニウスCblock3部隊「C3A」をピックアップしています。

剣術コンビは方言で、ということで。福岡、熊本の方言は肥後方言分類で似ていますね(当たり前)。鹿児島(薩摩)弁は南にいくほど癖が強いらしいのですがニュアンスでは伝わるでしょう。

島原の乱でも潜入中の忍びが方言がまったくわからずに役に立たなかったという記録があったはずです。方言というのはそういう役割も持ちます。

アメリカでは第二次世界大戦中、傍受されてもいいように、先住民族の同じ部族の人たちを通信兵にした逸話がありましたね。


さて気になるストーンズなのに降伏する者の真意が明らかに。


応援よろしくお願いします。


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