偽装降伏疑惑ー偽旗

「敵の防衛線が薄い。市街地戦に持ち込むつもりか?」

 

 ラニウスCⅡ部隊の隊長を任されている、ネレイスのジェイミーが報告する。


「市街地に住む人々など、彼らにはどうでもよいのでしょう」


 CⅡを駆るネレイスの少女が、ジェイミーに考えを述べる。

 問いつつも、動きは止めない。少ないといってもカザークはそれなりにいる。ラニウスA1同等の性能を持つこのアサルトシルエットを舐めたりはしない。

 だが本拠地の防衛線としては薄いと、誰もが思ったのだ。


「ストーンズなら捨て駒として最前線に出すはず。何故だ?」


 惑星アシアの紛争に身を投じて三十年。最古参ともいえる海の老人ネレウスと自称する男は、この状況を訝しんだ。


「それは…… そうですね」


 少女は自らの浅慮を恥じた。


「C3A部隊は縦横無尽に暴れてくれているが…… アシア大戦時代に投入された機体ばかりだ。ウーティスの読み通りか?」

「というと?」

「ヘルメスとアレオパゴス評議会の関係性が良くないということだよ。尊厳戦争以後、らヴァーシャやアルベルトも様々な兵器を構築しているはずだ」


 当然小規模な紛争は多発している。国家形成時代ともいえる各大陸でアルゴフォースはトライレームの機体捕獲を最優先としていた。

 技術解放の新技術の入手手段はそれしかない。トライレーム側も対策はしているが、すべてを隠し通せるものではない。


「ジェイミー隊長! あれは!」


 先行していたラニウスCⅡからの緊急連絡だ。


「こちらも確認した。想定外――いや。ビッグボスの想定内か」

「あの方はこの事態を想定していたと!」


 ビッグボスへの畏敬が深まるネレイスの少女。


「ああ。みんな、いったん引こう。戦車までいるからな」


 エーカー2主力戦車まで出てきている。


「C3A部隊が!」

「あいつらは好きにさせろ。俺たちはいったん待機する。数分でいい」


 最前線で縦横無尽に敵を斬り倒すC3A部隊は、生半可なシルエットや戦車では止められないだろう。

 コウもそのなかに紛れて、潜入するはずだ。

 一刻も争う事態に数分の待機は長い。それでも待たねばならない理由ができた。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 ジェイミーから五番機のMCS内にいるコウに緊急連絡が入る。コウもC3A部隊に紛れて行動中だ。後ろには同じ配色のグラウピーコスが背後に付き添っている。

 通りすがりに、通路に潜むカザークを五番機は斬り倒す。戦闘しながら応答するコウ。


「どうした?」

「手短に報告する。あんたの読み通りだビッグボス。――アンティーク・シルエット同士が戦っている。最低でも三つの勢力に別れているようだ」

「三つ?」

「そのうち一つがトライレームに向けて投降信号を発している。友軍信号の代わりだろう。判断は俺とエメ提督に任せてくれないか?」


 コウはアシア救出に専念すべきだ。ジェイミーはある種、政治的ともいえる自ら重要な判断を下すことを決意した。


「どんな風に分裂しているか情報が知りたいな」

「アレオパゴス評議会派とヘルメス派までは想定していただろう? あと一つはなんだろうな。派手に割ったなビッグボス」

「俺が割ったわけじゃない。すでに割れていたんだろう」


 ジェイミーの軽口に、コウが思わず反論する。内紛は予想していたが、三つ巴での交戦状態突入は想定外だった。 

 少なくとも三種の、リーダーとなった者がいる。完全平等のわりには抜け駆けがすぎると憮然とするコウだった。


「敵の勢力の一つに、トライレームへ降伏信号を出している連中がいる」

「参ったな」


 同士討ちは十分に理解できるが、降伏は想定外だ。彼らの半神半人の仕組みを知っている以上、簡単に受け入れられるものではない。

 しかし本当なら、混線のなか、一つ敵対勢力が減ることにも繋がる。ジェイミーが任せろといったことは、この判断のことだろう。


「偽旗攻撃とも限らんが、交戦中の連中に武装解除は望めまい。何よりストーンズの投降など虫が良すぎる」


 当然ジェイミーも今までの因縁を指摘する。

 偽旗攻撃。いわゆる降伏を装い奇襲に繋げるものだ。偽旗は作戦的には古来より使われるが、相手を油断させ打撃を与えることが目的なので戦闘が始まる前ならいざしらず、戦闘が始まった局面では遅すぎるのだ。


「ジェイミー。頼んだ。何があっても責には俺が負う」


 コウ自身も理解している。ジェイミーの意を汲んで、アシア救出のために封印区画に急ぐべきだ。

 ジェイミーは惑星アシアで長年戦ってきた。ストーンズに対する理解も、コウとは違う。何が最善か最適な判断を下してくれると信じていた。


「悪いようにはせんさ。任務に集中してくれ」


 コウは頷いてみせると通信を切る。


「エメ提督。話は聞いていたな? とりあえず一機と交信して状況を確認したい。しばらくでいい。投降信号を出しているアンティーク・シルエットには攻撃を禁止してくれ」

「了解いたしました。偽旗が判明したときのリスクは大きい。彼らも生半可な覚悟ではやらないでしょう」

「偽傍作戦する度胸まであったら、競争を嫌って石にはならないさ。意志薄弱だから石になったんだ。――じじぃの戯れ言だ。忘れてくれ」


 ジェイミーはうそぶいて見せると、A009攻略部隊全軍に号令を下す。


「投降信号を出すアンティーク・シルエットには攻撃を控えろ。虫がいい話だが、いたずらに消耗したくはない。遺恨なんてあるに決まっているさ! 連中をどうするかは戦後に決める。俺たちの目的はアシア救出ということを忘れるな!」


 目的の再確認を命じて投降信号を出しているアンティーク・シルエットへの攻撃を禁ずるジェイミー。


「戦っている勢力が二つある。投降信号は出していないシルエットは明確な敵だ。――石は破壊する」


 アンティーク・シルエットに手心を加えろという命令ではないのだ。石は破壊する。その基本方針も改めて打ち出す。

 

「さあいくぞCⅡ部隊。爆轟で暴れまわっている連中に負けてはいられん!」


 ジェイミーはそう宣言すると、市街地に向かって突進する。


「ほら! そうやって抜け駆けする!」


 少女たちが文句を言いながらも、ジェイミーのCⅡ型を追い掛けるのだった。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 ジェイミーの通信を聞いたアノモスは唇の端を歪ませる。


「よか?」


 僚機がアノモスに聞いてくる。彼のことを知っているようだ。


「破壊する優先順位がはっきりしたな」


 速やかに破壊するアンティーク・シルエットと後回しにしていいアンティーク・シルエットがいる。それだけだ。

 殺したいとは思わない。石は魂と命は持たないからだ。憎しみを持つ価値すらない。


「そうじゃな」


 大量のエンジェルやアークエンジェルに紛れて、高性能機も多数視認できる戦場だ。

 無数の荷電粒子ビームやレーザーが飛び交う。


「光学兵器だらけか」

 

 吐き捨てるとアノモスのCblock3は路地裏に飛び込む。

 背後にいるC3A部隊のラニウスも同様の動きを取った。連携など考えてはいない。そんなものは自ずと取れる自信があるからだ。


「これだけんエンジェルがおっとこちらん戦闘機が危険じゃ。わいはどうすっつもりだ?」


 半神半人には必ず一機のシルエットが必要だ。

 そしてこの数だけの犠牲者がいるという証左でもある。


「狙いはあるさ」


 空中に浮かぶアンティーク・シルエットの動きを冷静に読むアノモス。

 どの対象から排除するかを見極める、冷徹な視線を送る戦士の視線そのものだった。



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いつもお読みいただきありがとうございます! カクヨム版後書きです。


偽旗作戦。歴史上たびたび登場しますが、思ったより戦術としては「一般的には許容」されているみたいですね。直前に撤回するので接近、奇襲手段としてでしょうか。

現代では降伏の場合バーグ条約では個人、組織への殺害は禁止です。ですが奇襲目的で行使した場合、その権利の一切を剥奪されます。背信行為なので、こうなるとあらゆる権利が剥奪されるでしょう。

別の話だと交戦国の軍服を着たりするとスパイ扱いなど別法になりますね。

自作自演的な意味での偽旗のほうが一般的でしょうか。開戦や敵国攻撃への口実ですね。


さてストーンズが三つ(もしくはそれ以上)に割れていました。コウもびっくりです。

アレオパゴス派、ヘルメス派、降伏派と現時点では分類しています。今更どうして降伏しようと思ったのか。でも何が起きるかわかりませんからね(ロシアをみながら)


コウも戦闘しています! 作戦の性質上C3A部隊と五番機、ブルーは同配色! 

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