罪悪感なし!

カラヌスが宇宙に向かって飛び出す映像が全世界に中継されている。

 超AI三柱は一切画面には映っていない。


「ありえるのか…… こんな結末が……」


 あまりのことに、膝をつくヘルメス。超AIフリギアの誕生は察知した。彼が仕組んだことだからだ。

 とはいえカラヌスが倒されるなど、想定外にも程があった。


「何をどうすれば、あの不利をひっくり返せる? どんなカードをかき集めたら、あのカラヌスに勝てるというんだ」


 ヘルメスが床に這いつくばって慟哭していた。

 痛ましそうに視線をやるヴァーシャ。諭すように語りかける。


「アシアの騎士は手強く、強いのですよヘルメス様」

「しかしだ! 剣の実力は関係なかった!」

「そうともいえません。タカバヒョウエを思い出して下さい。カラヌスの右腕部を破壊した神業をみませんでしたか? 今のヘルメス様にあの領域に達することができますか?」

「できるわけないだろう……! そうだな。バルドも、タカバヒョウエも…… 生きている人間が成せる奇跡。しかし、嗚呼」


 ヘルメスの慟哭は止まらない。


「大損した……」


 莫大な金額をカラヌスに賭けていたヘルメス。どのくらいの金額かヴァーシャが尋ねたところ、アルゴフォースがもう一つ作れる程度の額だったという。

 さすがにこれには絶句したヴァーシャだった。

 

「これでは賭博神モチーフの超AIとして面目が立たない……!」


 どうやらメンツの問題らしいと察したヴァーシャ。


「負けることがあるからこそ賭博です」


 大勝ちしたヴァーシャは、そうとしか言えなかった。

 バルドは褒めてやらねばならない。あの状況下で良い仕事をした。


「……こうなったら……」

「早まらないでください。所詮賭け事です」

「違う! そうじゃない! ――賭博神の側面はいったん忘れて、芸術。音楽神として華々しくデビューするしかない……!」


 その呟きを耳にした途端、ヴァーシャとアルベルトはそっとその場を離れた。かつて存在したという超AI音楽神ミューズが聞いたら顔をしかめるところだろう。


「惑星アシアデビューは何処がいいか…… やはり今注目のI908要塞エリアしかないな。あの場所ならアシアも認める中立地帯だ」


 端末にかけより、バンドメンバーに招集をかけるヘルメス。


「諸君。この作戦に失敗は許されない――」


 のちにI908要塞エリアは、別の意味で緊張に包まれることになる。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 バルバロイ襲来によるI908襲撃事件から一ヶ月が経過した。

 不可侵の中立地帯としてI908要塞エリアを承認するアルゴナウタイ、新生傭兵管理機構、トライレーム三組織による調印式が行われた。

 立会人はアシア。アルゴナウタイ代表はヘルメスの遣いであるヴァーシャとアルベルト。新生傭兵管理機構はサンス。トライレームは鷹羽兵衛が出席した。


 すべての日程が終わり、ユースティティアクルーは甲板でバーベキューを楽しんでいる。


「一張羅なんて久しぶりに着たな。疲れた」


 一仕事を終え、肩を叩く鷹羽兵衛。にゃん汰が気を遣い肩をもみ始める。


「おつかれさまにゃ」

「おお、ありがてえ」

「しかしよくヘルメスがあの条件を飲みましたね。I908防衛の際、全勢力が団結する、などと」


 アキがタブレット状の端末で調印内容を確認している。


「ストーンズ上層部ではなくてヘルメスの独断だろうな。あいつを助けたのはヘスティアだからな。ちったぁ義理や恩もあるさ」

「あの時ヘルメスの肉体が死んでいたら、アルゴナウタイと惑星エウロパとの戦争でした」


 ビジョンのアストライアが、過ぎ去った可能性を憂慮する。彼女にとって驚きはない。情も含めて合理的な判断だとさえ思う。


「そろそろストーンズがヘルメスに反旗を翻しそうにゃ」

「にゃん汰。うかつなことをいわないでください。すでにそういう傾向があることをトライレームでさえ察知しているんですから」


 にゃん汰が冗談めかして言い、アキがやんわりとたしなめる。


「あいつは超AI自体に恨みはないからね。目的のために邪魔なだけで。遊び場が欲しいだけの可能性も高いし。――とはいっても、私を封印した黒幕が目の前にいるのになあ」


 アシアは若干無念そうだ。ヘルメスに問いただしたい気持ちはある。

 彼らは以前のリゾート地にいる。ヘルメスと接触しないよう、この区画から出ないようヘスティアに通達されていた。


「ヘルメスがコンサートか。アルティスで新設したドームでコンサートなんて。何がヘスティアに迷惑をかけたお詫びの寄進よ! 自分がコンサートしたかっただけじゃない!」


 アシアが露骨に不満を顔にだす。

 アストライアも情報を読み上げる。


「バンド名は【Akaketosアカケトス】ですね。彼らしいというか。優雅を意味するホメロス語ですね」


 アシアはこのバンド名にも文句をいいたいらしい。


「アカケトスなんて! 悪びれない! とか罪悪感なし! って意味だよ! まったく反省していない!」


 そんな二人を横目にコウはどうでもいいという感じで聞いている。接触する機会はなさそうだからだ。


「俺はようやくバーベキューに参加できるからいいんだが……」


 コウが釈然としない様子だ。埋められていた砂浜に視線をやる。


「なんであのパンジャンドラムが『人を埋めるべからず』と書かれてモニュメント化されているんだ……」

「当然です。私達の反省が込められています」


 ハデスの名は軽々しく口にしてはならない。アキは慎重に言葉を選ぶ。


「あの行為があのお方出現のトリガーになるなど誰が想像できますか」

「その通りにゃ……」

「コウは埋めないと私達、もう決めたから」


 エメまでそんなことを言う。ハデス出現はそれほどの出来事だったのだろう。


「それならまだ優勝者モニュメントのほうが……」

「エンプティの正体がばれちゃうよ!」

「それもそうか」


 モニュメントのことは諦めることにしたコウだった。


「ところでコウ君。明日ヴァーシャと試合だって?」


 兵衛がやんわりと助け船を出す。


「ええ。ヘスティアが息巻いてましたね。ルールは二つ。射撃武器無し、MCSは狙わない。それのみです。エメにもようやくモズ落としが見せてやれるかなと。できれば、ですけどね」

「コウの言っていた、五番機の必殺技!」

「楽しみだな」


 兵衛が意味ありげに笑う。その意図にコウとエメが気付くことは無かった。



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いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!


ヘルメスはお金持ち。あくまでアルゴフォース分であってアルゴナウタイ分ではないので安心!

Akaketosはアケトスでもいいのかな。優雅、罪悪感なし! とか


よいよ次回はエキジビション・マッチです! 忘れていませんからね!


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