優勝
「ブリタニオンがアシアに向かって降下を開始しているわ。これで本当に終わったのね」
「今度ばかりはダメかと思ったな。アナザーレベル・シルエットとやりあうなんてもう勘弁だよ」
「わたし、がんばってせいちょうするね!」
「ほどほどでいいからね?」
三柱の女神が話している時、五番機のコウから通信が入る。
「……すまない。気を失っていた。ゴルディアスとカラヌスは?」
「あなたが倒したわよ。悪あがきでもがいたけれど、今頃命尽きて機械の身体も機能を失って宇宙を漂っているはず。鉄屑になったゴルディアスの制御中枢が参加賞ね」
「はは。参加賞ありでお帰り願ったか」
鉄屑とはどういう意味だろうか気になるコウ。あとで教えてもらえるだろうと踏み、深くは追求しなかった。
脅威は去った。それだけが真実だ。
「エンプティ。あなたの優勝よ。賞品兼トロフィーはこの子、フリギアになるけど」
エンプティと呼ばれ、今更ながらにそんなリングネームだったことを思い出すコウ。
「わたしがトロフィー!」
両手に腰をあて、何故か胸を張るフリギア。
「フリギアを助けることができて良かった」
「コウ。ヒョウエとバルドはアベルたちが回収したわ。ヒョウエが怪我をしているけど無事。大きな問題はないって」
「兵衛さんが無事か。それはなによりだ……」
そこではじめて気が抜けたように、シートに深く沈むコウ。
「勝てた実感がまったくないな」
ひどく疲れたコウは、再び気を失いそうだ。短い間に色々な事象が頻発しすぎだで頭が追いつかない。
「アナザーレベル・シルエット相手にそんなことをいえるのはあなたぐらいね。神の器よ?」
「ゴルディアスがないからコウはもうアレクサンドロスⅢ世にはなれないねー」
「ならないって」
アシアの覇者になる気など、コウにはさらさらない。
「アイデースとプロメテウスが助けてくれたよコウ。また会おうって」
「豪華な面々だ。アイデースとプロメテウスか。また助けられたな。――ありがとう」
きっと聞いているはずの二人に、感謝の言葉を述べるコウ。
「もう少しそこで休んでいなさい。勝者には休息が必要よ」
「お言葉に甘えるとしよう」
「わたしごばんきでひとやすみするー」
大きく深呼吸し、水を口にするコウ。後部座席にはフリギアがちゃっかり座っていた。
惑星アシア各地から大量の通信が届いているが、確認する余裕もなかった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「ヘスティア。ターミガンを回収してもらえるかな」
「あの宇宙往来機ね。おっけー」
トラクタービームによってターミガンがブリタニオンに回収、帰投した。
「惑星アシアからブリタニオンまですっ飛んできた宇宙往来機ね。どうやったら同じ機体を三つ並べるなんて発想が思い浮かぶのよ」
「20世紀の地球にはこの種の発想がたくさんあったんだって。イギリスやアメリカね」
「核融合を突き止めた国と、ハフニウム爆弾を提唱したDARPAがあった国ね。納得だわ」
彼女たちにとって地球の技術は神話、そして源流に等しい。
『オイコスたちに告げます。戦闘は終了。ブリタニオン内は生活環境へ移行する。お疲れ様。私達の勝利よ。ありがとう』
「ヘスティア様もご無事で何よりです!」
「さすがヘスティア様! ラストを決めましたね!」
彼女が消滅を覚悟していたことを知っているオイコスたちは歓声を上げる。
MCSから降りて居住区に向かう。
「オイコスたちも死者は無し。すべては解決した。良かったね」
アシアも胸を撫で下ろす。彼女自身消滅の危機もあったが、まずは難局を乗り越えたのだ。
エウロパ勢力に対する対抗策を練る必要はあるが、今は優勝を祝うべきだろう。オリンピアードは殺し合いではないのだから。
「良くないわ」
女神の貌となり、アシアに質すヘスティア。
「ウーティスの愛機について聞きたい。リアクターの復元――あれは時間の巻き戻し。物質の時間遡行なんてしやがったじゃない。なんなのあれ。現存する超AIだって無理だよ。何事も例外があるってハデスがいってたけど、アシアも知っていたということね」
「フリギアもいってたでしょ。死してなお戦いを欲する概念。死んで亡者になるわけでもなし。魂が古戦場を彷徨うわけでもなし。地獄に落ちることもなく、ただの武者が反逆者にも関わらず神として昇華された。彼の故郷にはそんな存在がいるのよ」
「怖ッ。なんなのそれ。死んでも迷わないで戦い続けるってこと? 永遠の戦場でもなく、現世で?」
「そう。死してなお戦うのよ。何かを為すために。――戦を欲する反逆者の概念。だから止まらない。あの潜在能力は戦い続ける呪いのようなものと私は定義している。私が遭遇した事例はこれで二回目、確認されているものは三回。最初の事例は乗り手がいないのにマーダーを殲滅したそうだよ」
「廃棄処分案件じゃない。偶然が重なってウーティスの手に? だからハデスもあんな言い方になったのね」
「魂の管理者だもの。死という概念を深く理解しているはず。ハデスからみてもあのシルエットは異質ということだね。でも五番機は見た目も性能も通常のシルエットだよ。火の潜在能力が発動しない限りはね」
ヘスティアが五番機を見定めるかのように眺めている。
ふと、気付いたことを口にする。
「ん? 鷹羽兵衛と同型機だよね」
「ええ。元々あの機体はヒョウエが構築して異質の概念を仕込んだ。彼らの伝承では北辰は時間を意味する神。私達でいうプレイアデス――北極星や北斗七星を混合して習合したもの。死を司る神でもあるよ。おそらくはMCSはそれらの概念を学習しているね」
「時間を遅くして確実に殺しにくるヤツと、殺しても死んだまま戦いにくるヤツがいる機種ってどうなのよ」
「
「変な話だよね。人間にとって一番身近なシルエットが、超AIと呼ばれる私達にとっては謎だらけだなんて」
ヘスティアがラニウスについて所感を述べた瞬間、ブリタニオンが大きく動き出す。
ブリタニオンが緩やかに惑星アシアへ再突入を開始したのだ。
「ハデスが移動させてくれたみたいね。これで私も惑星アシアの住人かあ」
「冥府の代わりにアシアが騒がしくなるわけね」
「ひどッ!」
「冗談よ。歓迎するわヘスティア。――惑星アシアに中立地帯は必要だもの」
「そそ。役に立つからさ。これからもよろしくねアシア。お金儲け一緒にがんばろ! 今回はみんな賭けてくれたから、胴元としては嬉しいわ」
品の無い笑みを浮かべるヘスティアに、アシアが呆れる。
「そこでどうして金儲けなのかな。炉床の女神がする顔じゃないよ?」
「これから惑星アシアの人間には自立してもらう必要がある。反経済学は自己責任。これは私にも言えること。これから外交と防衛力も強化しないとね。民を守ることも福祉だもの。とにかくお金がいるわ」
「……そうだね。もう以前のような世界に戻れないなら」
アシアは遠い目で、自らが管理する惑星アシアを眺めた。
惑星エウロパとバルバロイの侵略終わったわけではない。
アルゴス襲撃は前哨戦に過ぎないのだ。
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いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!
ようやく目覚めたコウ。オリンピアード優勝です。優勝賞品はとくにありません(淡々と)。
超AIたちは五番機。そして初期型ラニウスの特異性に気付き始めました。ラニウスは処刑人なので。
六番機も何かあるのでしょうか!
トロフィーヒロインはあまり良い意味ではないと思うのですが、まあ幼女型超AIなので……
それなりの器になれば、ビジョンも成長した姿になります!
これからブリタニオンは惑星アシアに定着します。前途多難です。
フリギア「わたしがトロフィーでなにかふまんでも?」! 福祉のためにお金儲け頑張るヘスティア様! 続きを楽しみという方は↓にあるブクマ、評価で応援よろしくお願いします。
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