環境対策――メタ勝ち【新刊六巻本日発売!】
風神トライが被弾し、ひっくり返っている。
観客席から盛大なブーイングが起きている。弱すぎたというわけだ。
『行動不能にはなっていませんね』
「あの程度ではね。でも五番機、おそらくマッハ20ぐらいまで加速させたよ。なめるなといわんばかりだった」
アシアのエメだってそう思う。
MCSの基本が忘れ去られていたら、MCS本体だって怒るに違いない。惑星エウロパはアンティーク・シルエットも多数生産されているはずなのだ。
よろよろと脚を使い、姿勢を正す風神トライ。心なしか脚部に力が入らないようだ。
観客を含め、多くのものが風神トライに気を取られている間、今度はテウタテスの雷神が崩れ落ちてトラクタービームに牽引されていった。
「ん? 何が起きた?」
ケリーもファイティングマシンに気を取られ、風神トライとコウたちの戦いを見過ごしていたのだ。
兵衛のラニウスと五番機が、弾雨のようにDライフル砲弾を浴びせかけて瞬く間にテウタテスを撃破した。
『雷神を射程外から蜂の巣にしたんですよ。テウタテス近接戦でやられたから、次は遠距離ではなく近接を強化するとコウは踏んだのです』
「Dライフルの威力はアンティーク・シルエットの上位機にすら通用する。今回はにゃん汰が貫通特化で調整したからなおさらだよ」
Dライフルの磁気収束を調整し、溶解した液体金属をより細くなるよう調整していたにゃん汰だった。
兵衛に装備させたグングニルⅡは通常のDライフルよりも大口径。つまりより多くの液体金属を内包している。反動も五番機のものより一割増しだろう。そのかわり発射するたびに、全身に備えられたスラスターの補助が必要になる。
『グングニルⅡまで持ち出すとは予想外でしたね』
「コウのメタ勝ちだね」
コウの時代ではビルドや環境によって勝利することをメタ勝ちと称したらしい。当然エメも知っている。
風神雷神が装備を変えるとしたら、近接用途を重視するとコウは読み、射程外から撃破した。10メートルサイズで重装甲のテウタテスでは加速能力も限定されている。
『こういう読み勝ちはコウの強みですね』
「広大な闘技場だって、所詮閉鎖空間だからね。限定環境だとコウは強いかもしれない」
「不思議な感覚ですね。フェンネルOSに認められていたはずの人の身を捨て、機械の体になってあの状態とは……」
アキが複雑な心情を吐露する。セリアンスロープが望んでやまないMCSに搭乗できた肉体を捨てた彼らが、フェンネルの脅威に晒されている。
「仕方ないにゃ。うちらだってコウが――転移者が来なければいまだに戦車どころか装甲車に乗っているはずにゃ」
『構築技士なしであの水準を保ったことはさすがというべきでしょうか』
「惑星アシアが特殊な環境だったかもしれないね」
割り切れない心境に至った一同だった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
風神と雷神トライ。そして半壊した風神トライが戦場に残った。
コウたち三機は無傷。大して接近もしていない。
三機が五キロ程度程度の距離まで接近した際、雷神トライが同様に有線の超音速空ミサイルを発射する。
五番機と兵衛のラニウスはDライフルのモードを拡散モードに変換し、流体金属を散弾のようにぶちまける。
ウィスで強化されているとはいえ、高速で発射された流体金属の迎撃に耐えきれるものではない。何よりミサイルの速度はマッハ20近くも出ているのだ。
ラウプラスの切り札ともいえる大型ミサイルは、すべて撃ち落としたようだ。
「あんな巨大なミサイル、何発も搭載できないだろうな」
兵衛が断定し、上空からライプラスに向けて発砲するが、装甲を貫通するには至らない。
弾切れになったグングニルⅡを放り投げる。鹵獲される心配はないからだ。
「ち。やっぱり硬え。大型のDライフル砲弾全弾叩きこんでも猟犬の装甲は抜けないな」
二刀を構え、接近戦の構えを取る兵衛のラニウス。
「ミサイルランチャー以外にろくな兵装がないのか?」
「本来ならしつこい猟犬といったところだが、MCS相手ではな。ワイヤーを切ってシルエットがコントールすりゃいいだけの話だからな。まさかあの速度で回避されるとも思うまい。必中距離なら迎撃してやればいいだけだ。マーダー相手でアシアのシルエットは想定していないのだろうよ」
ラニウスC強襲飛行型、 ボガディーリ・コロヴァトともに加速力に優れた機体だ。マッハが10超えた以上、わずかでも標的が動いたら微修正も難しい。高速ミサイルtの利点が仇になっている。
急旋回するにも狭い地下闘技場で、逆噴射と急上昇を併用しないと速度も殺せない。本来の力を発揮できないのだろう。
「ライプラスと同様テウタテスも俺たちよりは機動性に欠ける。まずは残り一機を倒してからか」
コウはDライフルの弾倉を交換し、テウタテスを牽制する。接近戦の兵衛に対し、五番機は中距離からの射撃支援からの斬りを狙うつもりだ。
「でもよ。あの雷神トライ。ライプラスってやつか。狙いが付けづらいぞ」
三脚なのだがうにょんうにょん不規則に動いている。
MCSで同様の兵器を構築したとしても乗り物酔いを起こしそうな激しさだ。
すかさず低空飛行に移行する三機。地面に触れそうなほどの低空飛行は超音速領域に達している。時速は優に1500キロを超える。
「遅いな!」
バルドもライプラスは脅威に感じていない。強固な装甲は持つが、それだけだ。
しかしそうやすやすと接近を許さない雷神トライ。妙に素早い動きで移動して、側面から風神を援護する。
車体からせり出したレールガンランシャー式のガトリング砲弾がバルドのボガディーリ・コロヴァトを襲う。大電力のコンデンサは惑星エウロパ由来であろうか。
「その程度の威力なら!」
猛射だが、電磁装甲のジュール熱によって砲弾は溶解していく。
近付いたバルドはにゃりと笑った。
「兵衛!」
「おう!」
すぐ後ろから加速してきた兵衛のラニウスが、ボガディーリ・コロヴァトの頭上を飛び越えて風神に襲いかかる。
シルエットがシルエットを飛び越える――
これもまたバルバロイには予測しがたい動きだった。
ラニウスの刀が右の追加腕部を斬り飛ばす。
「マエヨリモザンゲキソクドガアガッテイルダト!」
前回収集したデータよりもはるかに疾い斬撃に、バルバロイが絶叫した。
すぐ右隣にはコウの五番機が迫っている。
防御しようと槍で受けようとする風神だったが、五番機の斬撃がその速度を上回る。
右腕部、右追加腕部を根こそぎ斬り飛ばされた風神の胴体に、バルドが止めの一撃を叩き込む。
風神はゆっくりと膝から崩れ落ち、今回はトラクタービームによって牽引されていく。
「邪魔な歩兵は倒したぜ。あとは謎兵器だけだな」
「まだ何かあるかもしれねえ。油断はするな」
残る敵はライプラス二機のみ。
三機は気を緩めず、距離を縮めていった。
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カクヨム版後書きです。
いつもお読みいただきありがとうございます!
メタゲームです。環境ですね。何度か言及していますが筆者M○gでは五色緑単でした! 花の壁となだれ乗りが強くて好きです。
他ゲームではアセンでテルユキですかね!
予想よりも弱かった謎マシン。
分子分解ビームでも撃てれば良かったのですが…… そんな技術はもはや存在せず。
元となった原形兵器は相当強かったはずです。Dライフルでも貫通できない装甲があり、陸海空宇、すべての環境で作動したシルエットにとっての戦車です。
惑星間戦争時では秒速数十キロメートルの超高速戦闘によってアンティーク・シルエットにぶった切られてました。宇宙でも戦車の敵は歩兵ということですね。地上だったらシルエットは苦戦してそう。
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